僕らのノイズ

 ドクンドクンドクンドクン……高鳴る心臓の音に負けないくらい、清々しい空気が全身を包みこんだ。

 ――最高っっっっ!!!!!!

 そう声高に叫びながら両手を空に掲げた。心がふわりと浮いた。あんなに白くて眩しい太陽さえ、今ならこの手で掴めてしまいそうだ。

 願いが、私の願いが二つとも――叶ったんだ。
 思い通りだ。全部、全部……。

 自然と、スマホに手が伸び、夢中でタツさんに返信メールを打ち始めた。

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宛先:タツ@サイト管理人
返信先:〇〇〇〇〇@△△△.com
件名:ありがとうございます!!!!

タツさんへ

叶いました!!二つとも!!(同時じゃなかったけれど)
でも、一つ気になることがあります。
私が通っている高校の名前、教えたことないのにどうして、大会の結果をご存じなんですか?

佐々木 夕夏

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 メールを打ちながら、手が震えるあまり、すべて打ち終えるまでがやけに長く感じて少し苛立った。
 一瞬、頭がぎゅうっと絞られているような、でも、頭痛とは違う、目の前のことしか見えない感覚に支配されて、眉を中央に寄せた。
 
 なんだろう、今の。

 目を一度閉じて、深く息を吸って、静かに吐いた。
 目をゆっくり開けると、澄んだ水色の青空が、私を包み込んで盛大に祝福してくれているような気がしてきた。すべてを味方につけたみたいで、もう何も怖いものがないとすら思えてしまう。

 少し落ち着いた頃、返信メールをさっと読み返し、そのまま送信した。

 スマホをポケットにしまって、胸より少し下まである高さの柵に寄りかかった。そのとき、スマホの通知音が鳴り、メールが1件届いたことを知らせてきた。
 タツさんからもう返信がきたようだった。

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宛先:佐々木 夕夏
返信先:〇〇〇〇〇@△△△.com
件名:無題
夕夏さんへ

私は何でも知っています。

タツ

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 メールを読み終わった瞬間、風が強く吹いて、スカートが太ももを撫で、ブレザーの袖口から軽く冷たい風が入り込んできた。空を見上げると、さっきまでの雲一つない青空は、重い灰色の雨雲に姿を変えていた。
 おかしい、今日の天気予報じゃ、ずっと腫れ予報で、降水確率は十%すら満たしていなかったんだから。雨なんて、聞いていない。

「ずっと空ばかり見ていては、首を痛めますよ、夕夏さん」

 聞いたことがない声に、名前を呼ばれた気がして、見上げたままの顔を正面に向けた。
 そこには、全身が黒づくめ、口元ギリギリまでフードを被った――あのステージのときの――人がいた。声質からして、男性だろうが、私の身長、百六十センチの、三分の二程度に見える子どもらしい人が立っていた。口元は歯を見せず、ただ不気味に口角を端に寄せて、笑っているように見える。

「あなた、誰」

 なんとなく、心のどこかでは返事を待たずとも、正解を知っている気がした。けれど、その正解を私は言い出せずにもどかしい気持ちになる。

「その顔はもう、分かっていますよね。はじめまして、とは少し違いますが、改めまして。「あなたの願いを、叶えます」のサイト管理人、タツと言います。以後、お見知りおきを」

 聞こえてくる単語を知っているはずなのに、私は自分の脳に理解を行き渡らせるのに、若干の時間を要した。目の前にいるのが、そもそも、あのステージから見た黒づくめの人が、タツさん……。