僕らのノイズ ※最後の願いは、十分考えたうえで送信してください。

 二日後。
 冬休みが明け、学校の廊下を歩いていると、久々に聞く同級生たちの声が、がやがやとたくさん聞こえてくる。
 数歩先にある教室を前に、左肩にかかったバッグの手提げ部分をぎゅっと握った。
 
 ドアに近づいたとき、同級生の女の子から「佐々木さん、おはよー」と声をかけられた。驚きのあまり、目を見開いたまま、何も返事できなくて、頷くだけで精一杯になってしまった。
 時間が戻る前、進級してからはこんな風に声をかけてくれる子は誰もいなかったから。朋美と那月たちと仲良しな子はともかく、それ以外のあまり関りがない子が気軽に話しかけてきてくれたことに驚いてしまった。

「あのっ――」
 
 思い切って、少し通り過ぎって行った子の背中に向かって声をかけた。
 その子は振り向きざまに、不思議そうに顔を傾けている。

「どうしたの?」
「おはよって、その、私たち……友達だったっけ」

 その子は、いきなり吹き出すように笑った。

「さぁ……ただ、私は誰にでも挨拶するし、それが普通なだけかな」
「だ、だよね!あはは、ごめんごめん!」

 恥ずかしさのあまり、顔の前で両手を合わせた。
 早とちりもいいとこだった。今までろくに話したこともない同級生を、友達、だなんて。
 「あ、でもさ」と付け足すように、その子はまっすぐ綺麗な黒色の瞳で見つめてきた。

「友達の定義、自分の中で決めときなよ」
「え?」
「他人と価値観や基準をすり合わせても、結局、互いに無理してることには変わりないんだから」
「……それ、どういうこと?」
「自分の頭で考えて答えを出したほうが、納得いくんじゃない? じゃあね」

 答えを教えてもらえないまま、予鈴が鳴った。
 
「お前らさっさと教室入れー。遅刻扱いにするぞー」

 後ろを振り向くと、高校二年のときの担任の先生が右手に出席簿を持って、左手で出席簿を叩いて、廊下にいる私たちを急かす。
 先生と同じタイミングで、教室前方のドアから教室に入ると、既にクラスメイトは着席していた。

 記憶を頼りに、高校二年時の席に座る。朝のホームルームを聞きながら、バッグを机の脇にあるフックにかけた。
 思えば、三年間、教室は変わっても、席はずっとこの窓際の一番後ろだな……。

「今はインフルエンザが流行ってるから、オンラインで始業式をやるそうだ。全員タブレットで共有リンクを押して、あとで見ておくように。それから――」

 長ったらしい先生の話をよそに、頬杖をついて、窓越しに誰もいないグラウンドに目をやった。
 あんな風に、心の中がまっさらに綺麗になれば、人とうまくやれるのに。
 
 先生の話が終わり、立ち上がって礼をして椅子に座り直した。
 休み明けなのに、さっそく今日から授業が始まる。
 バッグから一限目の教科書とノートを取り出すと、暇を感じてスマホをポケットから取り出した。
 スマホの通知欄が、一件のメールが届いていることを知らせてきた。送信者は「タツ」と表示されている。

(タツさん……?)

 心当たりがあるような、ないような……。誰だっけ。
 思い当たる記憶を辿って、数日前の自分が、時間が戻る前の自分の行動を思い出した。
 願いを叶えてくれる、といういかにも怪しいサイトに、願いを託したこと。そこのサイトを管理している人の名前が、" タツ "さんであること。
 今更、何だろう。
 頭の中に疑問符を浮かばせながら、メールアプリを開き、タツさんから送られてきたメールを読んだ。