僕らのノイズ ※最後の願いは、十分考えたうえで送信してください。

 部活が終わり、お昼ごはんはどうするか、どこに遊びに行くかで盛り上がっているみんなの声が一気に広がる。
 
 ……いいなぁ、みんな。楽しそう。

 そういえば、中学生の頃、朋美と夏休みの部活後に、二本くっついている棒アイスを分け合ったっけ。
 あの日は特に暑くて、どんどん溶けていくアイスをさっさと食べ終え、喉が凄く冷たくなって。冬休みには、金欠だからと、肉まんを買って、一つを半分こした。蒸したての(あん)で火傷しそうになったこともあったな。

 ずっと一緒にいてくだらないことで笑い合っていたはずなのに。なんだろう、この虚しさは。

「いつまで突っ立ってんの? 早く出てけよ」

 バサッ――
 朋美の低くイライラしているような声に驚き、持っていた楽譜を床に落としてしまった。
 
「ごめ「鍵しめらんないじゃん、ろくに歌えないうえに練習でも邪魔すんのかよ」

 矢継ぎ早に言われた言葉に、胸を強く掴まれて揺さぶられる。私は朋美を前に、両肩が緊張して固まった。
 朋美は、昔から口は悪い。けど、仲良しだった頃はここまで酷いことを言ってくるような子じゃなかったのに。

 部室の出入り口で、左足のつまさきで床をトントンと叩き続けるその音に急かされて、バッグに急いで楽譜をしまい、部室を出た。

 怖くない、大丈夫。大丈夫。
 今のは私がぼーっとしていたから、朋美をイライラさせてしまっただけ。

 大丈夫……。

 息を切らしながら階段を駆け下りて昇降口に着くと、まともに回らない頭を振り切るように上履きを靴箱に投げ入れ、ローファーを地面に投げた。急いでローファーに足を入れ、風を切るように走って、学校から逃げる。
 どこかで冷静にならなきゃ、と学校を出てすぐにある公園のベンチに座った。
 ふぅと深く息を吐くと、酸欠気味のぼやけた視界がクリアになっていった。斜め向かい側にある時計塔を見ると、針は十三時を少し過ぎた位置を指している。
 やっと満足に呼吸ができるようになったからか、どくどくと聞こえていたはずの心臓の強い拍動は小さくなっていった。

 ここ二日間、心が虚しくなったり、苦しくなったりを繰り返して疲れている。特に今は、お昼時なのに、お腹が全く空いていない。朝から何も食べていないのに、満腹感だけを感じる。何も食べたくない、水も飲みたくない……。

 ベンチに座っているうちに、背中が背もたれに張り付き、立てなくなっていた。ベンチに、この小さな公園に、このまま帰宅する気になれないのを見透かされてしまったようだった。
 今朝、二日酔いどころか、泥酔したままだったお父さんは、あの後、会社に行けたのかな。お母さんは朝早くからいなかったから、きっと朝七時頃から十六時頃までの早番シフトの日なんだろう。だから、帰宅して少しは一人の時間を過ごせるけど、それでもなんとなく、あの家に帰るのは憂鬱で。

 バッグを枕代わりにして、左半身をベンチに預けた。九十度回転した世界は、視界が歪んで、頭の中が揺れて少し気持ち悪く感じた。けれど、その気持ち悪さは数秒で慣れて、心の器からぽとぽとと嫌な感情が少しずつ零れ出ていくようだった。
 
(このまま、どんな気持ちも溶けて消えて感じなくなれば、苦しさから逃げられるのに……)

 太陽は私に温かさを伝えて、頭の片隅に浮かんだその気持ちを包み込む。そして、蓋を被せられたように、眠らされた。