一時間後。
パート練習を終え、部室で行う全体練習に向かおうと、他の部員より一足早く、その場を後にした。
少しでも早く、一分一秒でも早く、あの場から逃げたくなっていたから。
どうでもいい、どうにでもなれ、と自暴自棄になっていたはずなのに、靄が晴れなくて、気持ち悪い。
部室に入ると、ホッとして胸を撫でおろした。朋美も、他の誰も戻ってきていない。
私は二段になっている床の上段、中央部に立ち、楽譜を手に持った。
ガラッ――
楽譜を読みなおそうと一ページめをめくった途端、ドアが開く音がした。
顔を上げて部室の出入り口を見ると、右手に楽譜、左手にポータブルキーボードを抱えた朋美がいた。他の部員や、ソプラノの子達が朋美の後を追うように、後ろのほうから、ぞろぞろと歩いてきている。
朋美は私と目を合わせず指揮台の上に立って、黒板に白いチョークで何かを書きだした。
" 顧問出張のため、残りの冬休み期間は、部活オフ "
黒板に書かれた文を見た他の部員たちが、一斉に黄色い喜びに満ちた声をあげている。
部室の背面にある反響版で跳ね返ってくる音が、声が両耳に突き刺さってくる。がんがんがんがんと痛む。
(残りって、今日を含めてあと一日だけなのに)
所詮、みんな――少なくとも、エース組以外の大多数――は、部活オフになると休めるから嬉しいんだろうな。
私だって、休めることは嬉しいけど……。
「みんな、合わせ練習やるから準備して」
朋美も真面目な顔の隅で、少し笑顔を覗かせていた。心なしか、嬉しそう。
チョークの粉がついた手をパパッとはたきながら、こちら側に振り向いて、楽譜の表紙をめくっている。
(嫌だな、この立ち位置……)
アルトパートかつ、男声寄りのこの場所は、ちょうど全体のセンターになる。私は、朋美の立つ指揮台の真正面で歌わなければならない。
全員が準備を終え、部室には静寂が漂っている。
朋美が右手でそっと指揮棒に合わせ、全員が歌う直前の一拍分、息を吸った。
約三分半後。歌い終え、すべてのパートに対し、朋美が助言をし、改善のための指導が行われた。多分、どれも正しい内容で、ちゃんと聞くべきなんだろう。でも、今の私は、とてもそんな気にはなれない。
上の空でいたら、十二時を告げるチャイムが響き渡った。
――――やっと、練習が 終わる。
私がいくら集中できていなくても、朋美の" 指示 "通り、誰も私のこの態度を注意することはなかった。
それでいい。むしろ、今の私にとっては、それが――ちょうどいい。
誰にも見向き去れない、相手にされない。これじゃあまるで、
「幽霊だよね」
宙にぷかぷかと浮かんでいったその言葉に、別の言葉が返ってくることはなかった。
パート練習を終え、部室で行う全体練習に向かおうと、他の部員より一足早く、その場を後にした。
少しでも早く、一分一秒でも早く、あの場から逃げたくなっていたから。
どうでもいい、どうにでもなれ、と自暴自棄になっていたはずなのに、靄が晴れなくて、気持ち悪い。
部室に入ると、ホッとして胸を撫でおろした。朋美も、他の誰も戻ってきていない。
私は二段になっている床の上段、中央部に立ち、楽譜を手に持った。
ガラッ――
楽譜を読みなおそうと一ページめをめくった途端、ドアが開く音がした。
顔を上げて部室の出入り口を見ると、右手に楽譜、左手にポータブルキーボードを抱えた朋美がいた。他の部員や、ソプラノの子達が朋美の後を追うように、後ろのほうから、ぞろぞろと歩いてきている。
朋美は私と目を合わせず指揮台の上に立って、黒板に白いチョークで何かを書きだした。
" 顧問出張のため、残りの冬休み期間は、部活オフ "
黒板に書かれた文を見た他の部員たちが、一斉に黄色い喜びに満ちた声をあげている。
部室の背面にある反響版で跳ね返ってくる音が、声が両耳に突き刺さってくる。がんがんがんがんと痛む。
(残りって、今日を含めてあと一日だけなのに)
所詮、みんな――少なくとも、エース組以外の大多数――は、部活オフになると休めるから嬉しいんだろうな。
私だって、休めることは嬉しいけど……。
「みんな、合わせ練習やるから準備して」
朋美も真面目な顔の隅で、少し笑顔を覗かせていた。心なしか、嬉しそう。
チョークの粉がついた手をパパッとはたきながら、こちら側に振り向いて、楽譜の表紙をめくっている。
(嫌だな、この立ち位置……)
アルトパートかつ、男声寄りのこの場所は、ちょうど全体のセンターになる。私は、朋美の立つ指揮台の真正面で歌わなければならない。
全員が準備を終え、部室には静寂が漂っている。
朋美が右手でそっと指揮棒に合わせ、全員が歌う直前の一拍分、息を吸った。
約三分半後。歌い終え、すべてのパートに対し、朋美が助言をし、改善のための指導が行われた。多分、どれも正しい内容で、ちゃんと聞くべきなんだろう。でも、今の私は、とてもそんな気にはなれない。
上の空でいたら、十二時を告げるチャイムが響き渡った。
――――やっと、練習が 終わる。
私がいくら集中できていなくても、朋美の" 指示 "通り、誰も私のこの態度を注意することはなかった。
それでいい。むしろ、今の私にとっては、それが――ちょうどいい。
誰にも見向き去れない、相手にされない。これじゃあまるで、
「幽霊だよね」
宙にぷかぷかと浮かんでいったその言葉に、別の言葉が返ってくることはなかった。

