先生との僕との短い距離の間で緊迫した空気が流れる。
え、今、なんて言った?記憶がなくなる?7日で?どういうこと?訳が分からない。
一瞬の静寂が病室内を包み込む。
「隼人君。君の体にはとある薬品が投与されている」
一瞬の静寂をすぐさま先生が破り、言葉を音として発する。
口内に変な酸味が上がってきて、汗がにじみ出てくる。心臓がバクバクと大きな音を立てる。決していい気分とは言えない。
先生が言った言葉が理解できない。悪い冗談かなにかか。そうだよ。きっと冗談だ。
そんな逃避を自分の中でしてみるが、病室内の緊迫な空気に先生が発する重く真剣な声が、冗談という僕の逃避が冗談じゃないことを物語っていた。
「ちょ、ちょっとまってください!せんせい!命に別状はないんですよね!なら、なんでそんな記憶が消えるなんて!」
母さんが先生に反論し返事を促す。
母さんも突如、先生から言われた言葉に理解が追い付いていないようだった。状況が呑み込めないのも無理はない。ましてや薬品が投与されているなんて母さんには想像すらできないだろう。
「もちろん、命は大丈夫です。しかし、それとは別に隼人君の体の中にはある薬品が入り込んでしまっている。その薬品は端的に言うと、記憶を消す効果があるということです」
「記憶を消す...?」
母さんがぽつりとつぶやく。母さんはひどく混乱しているようだ。僕もそうだ。
母さんと先生の言葉を耳の中に入れるのがやっとの状況だ。頭が真っ白になってなにも考えられない。
いきなり記憶が消えるなんて言われて、はい、そうですか。なんて言えるはずもない。
「隼人君、辛いことを思い出させて申し訳ないが、事件に巻き込まれたときに何かを首元に刺されたはずです」
先生の言葉が僕を無理やり現実に引き戻す。
その言葉。僕の気掛かりがつながる。あの時、意識がなくなる直前、僕の中に流れ込んできた"なにか"のことが思い浮かんだ。なにかを刺されたことだけははっきりと覚えている。
「隼人君が病院に運ばれてきたときに警察官が言っていました。僕はすぐに命に別条がないか調べ、その後すぐに刺された首元からその成分を採取して調べました」
つながってほしくない全てのピースがつながる。
気掛かりだった"なにか"それが今回、記憶が消えると言われている原因だってことは分かりたくはないが分かってしまった。
「その成分。僕の中に投与されたのはなんなんですか」
喉から恐る恐る声を吐き出す。
横目に見える母さんは横で力が抜けたかのように座っている。
「その薬は"MR7"と呼ばれている薬です」
「"MR7"...」
ぽつりと僕はつぶやく。
「その薬は、海外から入ってきた記憶を消去してしまう薬です」
記憶を消去する薬。
バカげている。そんな薬、なんで存在しているのか。僕はその効果、薬の名称を聞いて麻薬関連のものだと想像をした。よくわからない感情がこみ上げてくる。怒り?苛立ち?いや、ちがう。なんでそんなものが僕に刺されたという現実を恨む感情。なんていう感情なのかはわからなかった。
「なんでそんな薬...」
先ほどのトーンとは少し低い声を先生にぶつける。
「僕は、この病院に来る前に精神科医を務めていた時期があってこの薬を知っています。もちろんこの薬の詳細なことも」
「隼人君。記憶とはみんなが持っているものだ。僕も同様に」
そんなことわかってる。
意味が分からない。なんで僕にそんな言葉を投げかけるのか。
「記憶は人間が脳内に保存されている情報。深い記憶は長期的に保存される。例えば印象的な思い出なんかが挙げられる。逆に保存されずに失われるものもある。単発的などうでもいい日常の動作とかね」
先生は淡々と僕に話してくる。
ますます意味が分からない。意味が分からないというのは先生の話してる内容についてのことじゃない。印象的な思い出は残り、どうでもいい思い出は消える。先生が話してる内容は理解できる。わからないのは僕にその記憶というものの説明をする意味のことだ。
「隼人君、君はこの薬を聞いてすぐに麻薬を想像したとおもう」
先生に見事に言い当てられてしまう。
「でも、これは麻薬ではなくて、正式な薬です」
そう言われても、納得なんてできるはずがない。
信じられるわけがない。正式な薬?記憶を消去するなんて薬のどこが正式なのか。
「なんのためにそんな薬...」
疑問だ。疑問しかない。
なぜという思いから、なんのためにそんな薬が存在しているという思いに変わる。
「確かに記憶を消すなんて薬、聞いただけじゃ必要ないと思うだろう。しかし、さっき話した記憶の話。長期的に残る記憶が精神的にマイナスなものだとしたらどうだろう。例えば、いじめや虐待、誰しも消してしまいたい思い出だ。でもその思い出は印象深く永遠に心の傷として残り続ける」
先生の話を聞いて察した。
その場合に投与する薬だということ。確かに必要かもしれない。確かに理には叶っている。それでも記憶を消すというのはあまりにも非人道的だ。
「簡単に言うとそのような精神的なストレスが身体に害を及ぼす場合に使われる薬です。もちろん、この薬は簡単に使えるものではありませんが。」
「この薬は投与後、副作用で一度、意識を失います。そして投与されたその次の日から7日のカウントを得て記憶が消去される。この7日間は記憶を消す準備期間になります。ゆえにメモリーリセットセブンとも呼ばれています」
メモリーリセットセブン。
笑ってしまいそうなくらいそのままなネーミングだ。そして最悪な運命だ。
記憶が消える薬が運悪く、僕の中に入ってしまった。あの時、人だかりに近づかずに帰っていれば、いや、図書館の仕事なんかせずに早く帰っていれば。後悔の波が次々と僕に襲い掛かる。でも、引き時がないその波は現実の僕に打ち付けられる。
「その、その薬を取り除く方法はないんですか?」
先ほどまで石像のように固まって聞いていた母さんが声を震わせながら、口を開く。
「残念ながら、血液の中に浸透してしまった液体を取り除くことは...不可能です。一度、投与してしまったら最後で...申し訳ございません」
先生が頭を下げる。分かりきっていた現実が僕と母さんに降りかかっていた。
小説で呼んだことがある。インフォームドコンセント。医師は医療知識のない患者に対して、うそ偽りなく伝えてから治療するという義務がある。だから先生は僕に対して、記憶の説明から薬の説明まで事細かく説明したのだろう。でも、治療の説明までは至らなかった。治療方法なんてものは存在しないから。そもそも通常ならこの薬自体が治療という手段だ。
でも、今回くらいは嘘でも希望はあります。くらい言ってほしかった。避けることができないどうしようもない運命が僕に襲い掛かる。
"明日から7日で記憶が消える。"
そのあとは先生から封筒を受け取り、僕と母さんと先生の3人で1階のエントランスの受付前に足を運ばせる。
どうしようもすることができない。それに僕の体には何の異常もない。咳が出るわけでもなければ、高熱があるわけでもない。ただ一つ記憶がきえてしまう以外は。だから病院側もなにかをしてくれるわけでもない。それに現代、ただでさえ病院のベット数が足りないとニュースに流れるくらいだ。いたって健康な僕がいる理由はなかった。
帰り際に先生が一言。
「はやとくん。なにかあったらまた来るといい」
病院の先生としての謳い文句だ。なんども耳にしたことがある言葉だ。
僕と母さんは一礼をしてから病院を後にした。
病院のエントランスを抜けて屋外駐車場に出る。夕方は止んでいた雪が深々と降りかかっており、車のフロントガラスがうっすらと白く染まっていた。
母さんはフロントガラスの雪をさっと払ってから車に乗り込む。僕は助手席、母さんは運転席に乗り込んだ。普段の車内なら母さんと世間話をして盛り上がる空間だが、今日はお互いに何も言葉を交わさず、静寂に満ち溢れていた。
隣町の自宅までは1時間程度。エンジンの音が鳴り響き車が走り出す。僕は無言で車窓を眺めていた。薄暗かった外もすっかり真っ暗になっていて、車窓には外の景色は映らず、代わりに自分のひどい顔が反射して映り込んでいた。
「隼人。ごめんね。母さん、守ってあげられなくて」
病院と自宅のちょうど半分の距離にきたあたりで母さんが口火を切った。
「母さんが変わってあげられたら」
普段なら母さんの声に反応して助手席に目を向けるのだが、今の僕はそんな気分になれない。だから終始、自分の顔が映る車窓を見つめていた。
母さんの震えた声。多分、泣いているんだと思う。
そして、ドラマや漫画でしか聞いたことがない親が子供にかける言葉。まさか自分がその声をかけられる立場になるなんて思ってもみなかった。実際にこの立場になって分かる。こんな言葉、今の僕には何も響かない。所詮母さんからしたら他人事だ。そんな言葉、気休めにもならなかった。
自宅について車が車庫にすっぽりと入る。
シートベルトを外し、車外にでた瞬間に夕方とはまた違った冷たい風が吹き抜ける。
病院を出た時に降っていた雪は止んでおり、空には雲の切れ間からかすかに星が輝いていた。この季節の天気はほんとに変わりやすい。明日の朝にはまたおそらく雪が降り積もっているんだろう。
「少し出てくる。すぐに戻るから」
終始無言だったからからか、久しぶりに発した声はすこし枯れていた。
僕は少しの間、一人になりたいと思い、自宅とは反対方向に足を運ばせる。
「ごはん作っておくからね」
「うん」
会話とも呼べるのか分からない少しの言葉の掛け合いを母さんとして、自宅から離れる。
僕は路地の傍らに積もっている薄い雪をサクサクと踏みしめながら、普段なら学校へいくための通学路を歩いていく。
記憶が消える。その実感が全く湧いてこない。多分、身体になんの影響も出ていない至って健康なことが実感が湧かない原因なのだろう。そして今こうして考えている実感が湧かないという記憶さえもきえてしまうのか。
しばらく歩くと、僕が事件に巻き込まれた交差点が見えてくる。事件に巻き込まれたときは騒がしかったこの路地もいまでは閑散としていた。夕方のことを思い出しても僕は何とも思わなかった。いや、多分、頭の整理ができていない今だからこそ何とも思わないんだと思う。
夕方のように立ち止まらずにすぐさま僕はそこを後にする。そこからまた少し歩くと、小さな橋が見えてきた。橋と言っても名前がつくような大きな橋ではなく、ほんとに短い小さな橋だ。僕はその橋の中央で立ち止まり、手すりに両腕を這いつくばせて、少しの静寂に浸っていた。
『これからは恋人としてたくさんの思い出を作っていこうね』
静寂が身を包む中でふと瑠璃の言葉を思い出す。
そういえば、瑠璃に告白した場所もちょうどこの橋の上だった。
瑠璃の言葉が今の僕にはとても胸に刺さる。夕方時に聞いたときは心躍らせたあの言葉が。
これから瑠璃との思い出をどれだけ作ったとしても7日後には僕の記憶からは完全に消えてしまう。いや、それだけじゃない。瑠璃とのこれまでの時間も告白した瞬間もすべて消える。蓮との思い出も桔梗のあの変なあだ名も、家族とのこれまでの思い出も。全部...。全部消える...。
「...なんで僕なんだよ」
先ほどまではなかったとてつもない絶望感が僕を襲う。
なんであの場にいた僕なんだ。他にも人はたくさんいた。その中でなんで僕だった。なんで警察官は一瞬、逃がしてしまったんだ。どう言っても仕方ない怒りが込み上げてくる。
「なんで、なんで...」
橋の手すりにおいた手を力いっぱい握りしめる。それに呼応するように顔が熱を帯びる。
『私も隼人のこと幸せにしたいと思ってるよ」
走馬灯のように思い出す瑠璃の言葉。
今まで友達という関係だったのに、やっとの思いで恋人という関係になれた。これからなんだよ。これから幸せな時間を二人で共有しようと思っていた。たくさんの思い出を瑠璃と作ろうと思っていた。大好きな人とようやく結ばれた。もしかしたらこのまま二人でなんて可能性もあったのかもしれない。
「なんでなんだよ...」
どうしようもない虚無感に襲われる。
力なく最後に発した声は僕の下を流れる水の音にかき消されて空気に溶け込んでいった。
「はぁ...」
母さんに心配をかけるわけにもいかないから僕はそこを後にして自宅のほうに足を運ばせる。
今のこの状況なら母さんが行方不明といって警察に通報なんてことにならないとも言い切れないし。
帰りの道では行きと違い、僕の重い足取りがより一層、道の傍らにある雪を深く沈んでいるように感じた。
家に着いて玄関を開けると同時に母さんが廊下の奥にあるリビングの暖簾から顔を出してきた。
「おかえり。ごはんできてるわよ」
決して優れているとは言えない疲れ切った顔。無理もないと思う。ただでさえ仕事で疲れているのにその状況下で僕が病院に運ばれたという連絡。そして立て続けに自分の子供の記憶が消えてしまうなんて言われたんだ。母さんも一杯一杯なんだろう。
「うん、ありがとう。すぐに行くよ」
僕は玄関で靴に付いた少しの雪を払いのけ家に上がる。
奥の方から暖房の機械音が聞こえてくる。外の寒い空気とは一変してとても暖かい空気が僕を包み込んだ
。リビングに行く前に廊下を右に逸れて、洗面台に向かい、手洗いうがいをする。今の季節はインフルエンザにかかる可能性があるし。いや、いっそのことインフルエンザにでもなってしんどい思いをした方が少しはこの虚無感が薄れるのだろうか。
「はぁ、何考えてるんだ僕は」
洗面台の鏡に向かってつぶやく。
鏡に映った僕の顔は相変わらず車窓でみた時とは変わらないひどい顔をしていた。
その後、すぐにリビングへ向かうとダイニングテーブルの上には二人分のカレーライスが置いてあった。僕の大好物であるカレーライス。少しでも気を持たせたいと思い母さんが気を使って作ってくれたのだろう。
「寒かったでしょう?カレー作ったよ」
「うん、ありがとう」
母さんが座っている席の真正面に座り、手を合わせて"いただきます"をする。
カレーを口に入れるとほのかにスパイスの利いた味が口いっぱいに広がる。僕は甘口でもなく辛口でもない中辛を好むため母さんがいつも絶妙に調節してくれている。確か甘口と辛口のルーを半々で入れてるって言ってたっけ。いつもの家庭の味だ。この大好きな味さえも忘れてしまうのだろうか。そもそもカレーが大好きということも忘れてしまうのかもしれない。
記憶が消えると言われてから、今まで何も感じてなかった日常の一つ一つを繊細に感じてしまう僕がいる。
「どう?おいしい?」
真正面に座っている母さんが尋ねる。
「うん、美味しいよ」
「よかった」
いつもならテレビをつけて母さんと二人で笑いながらごはんを食べる日常。でも今日はそんなはずもない。
母さんは気を使って、今日あったことについては触れてこようとはしなかった。ううん、僕がその話をしないでほしいという雰囲気を出しているんだろう。
とてもとても静かな時間が流れていく中、僕は口にカレーを運び続けた。
食べ終えたカレーが入っていた皿をキッチンにもっていき、水をかける。
あれから結局、母さんとはほとんど会話をしなかった。今日ほど自分の親と会話をしなかったことはないと思う。反抗期の時のほうが話していたと思えるくらいだ。
少しばかり申し訳ない気持ちが僕の頭の中に流れ込む。
でも、ごめん。母さん。今は頭の中がぐちゃぐちゃなんだ。
「今日はもう部屋にいくの?」
リビングを出て、自室に戻ろうと階段を上がりかけたところで後ろから母さんに声をかけられる。
「うん、ごめん。今日はもう寝るよ」
「そう」
母さんの返事を聞き終わるまでに僕は階段を上りだす。
ちょうど1階と2階の真ん中部分の踊り場に差し掛かったあたりで、母さんの声がまた後ろから聞こえてきた。
「はやと。母さんはどんなことになっても隼人の味方だからね」
そのとても優しい声が耳に入り、思わず振り返る。
母さんはとても優しそうな顔をこちらに向けていた。僕は今、どんな顔をしているんだろう。なぜかはわからないけど、僕の瞳が水分を含んだことに気づいたのですぐに母さんに背を向けた。
「うん、ありがとう。...ごめん」
僕はそう一言残し、自分の部屋に向かった。
自分の部屋のドアを開けると、エアコンの温かい空気が降りかかってきた。多分、母さんが僕のために自室を温めておいてくれたのだろう。僕の部屋はこたつ付きの机にベット、そして本棚が置いてあり、極力ほかのものは置いていない部屋だ。世間で言うミニマリストというやつなんだろう。
机の上を見ると、一枚の書類が置いてあった。その紙は病院でもらった"MR7"についての詳細が書かれている書類だ。僕はその書類を持ち上げ少し目を通す。先生が簡単に説明してくれたものが難しい言葉で羅列してあった。毎日、小説を読むくらい活字が得意な僕だが気分的にどうも読む気にはなれず、すぐに元あった机の場所に戻して、ベットに崩れ落ち、横向きに寝転んだ。
「(あと7日。7日ですべて消える)」
心の中でどうでもよくなっている自分がいる。
なんでこんな自暴自棄になっているんだろう。多分、いろいろ考えすぎた結果がこれだ。
これから何をしても僕の記憶には残らなくなる。どんなに特別なことをしても、いや普通の日常でさえ僕の中には残らない。いや、残ったところで消えてしまう。
「瑠璃...」
横向きの態勢から仰向きになって少し凹凸がある真っ白な天井に向かってつぶやく。
こんな状況でも瑠璃のことが頭によぎってしまう。僕は余程、瑠璃のことが好きらしい。
「ははっ。別れたくないなぁ」
乾いた笑いが部屋に響く。
もう自分の中では決めていた。いや、病院でその話を聞いた後の帰りの車内でもう決めていた。
瑠璃とは別れようって。もちろん別れたくない。大好きな人と恋人という関係になれて別れたいと思うなんて人はいないはずだ。
でも、別れないといけない。記憶がなくなる僕といると瑠璃につらい思いをさせてしまう。別れるのは嫌だ。でも、大好きな瑠璃がつらい思いをしてしまうのはもっと嫌だ。だからもう心に決めていた。
それに今なら、僕と瑠璃が付き合ってるという事実を知っている人も少ないから、怪しまれることもない。
まぁ、親友二人には怪しまれるかもしれないけど、インフルエンザという体で学校を休んで二人に合わなければ、問い詰められることもない。
瑠璃には明日、電話で伝えよう。
『ねぇ、はやと』
『うれしいよ。はやと』
『私もずっと好きだった』
走馬灯のように瑠璃の言葉がよぎる。僕の瞳が潤んでくる。
「ごめん。瑠璃。約束かなえれそうにないや」
つぶやいた言葉は僕の部屋に溶け込み、消えていった。
そして、急激な睡魔に襲われてそのまま僕は眠りについた。
え、今、なんて言った?記憶がなくなる?7日で?どういうこと?訳が分からない。
一瞬の静寂が病室内を包み込む。
「隼人君。君の体にはとある薬品が投与されている」
一瞬の静寂をすぐさま先生が破り、言葉を音として発する。
口内に変な酸味が上がってきて、汗がにじみ出てくる。心臓がバクバクと大きな音を立てる。決していい気分とは言えない。
先生が言った言葉が理解できない。悪い冗談かなにかか。そうだよ。きっと冗談だ。
そんな逃避を自分の中でしてみるが、病室内の緊迫な空気に先生が発する重く真剣な声が、冗談という僕の逃避が冗談じゃないことを物語っていた。
「ちょ、ちょっとまってください!せんせい!命に別状はないんですよね!なら、なんでそんな記憶が消えるなんて!」
母さんが先生に反論し返事を促す。
母さんも突如、先生から言われた言葉に理解が追い付いていないようだった。状況が呑み込めないのも無理はない。ましてや薬品が投与されているなんて母さんには想像すらできないだろう。
「もちろん、命は大丈夫です。しかし、それとは別に隼人君の体の中にはある薬品が入り込んでしまっている。その薬品は端的に言うと、記憶を消す効果があるということです」
「記憶を消す...?」
母さんがぽつりとつぶやく。母さんはひどく混乱しているようだ。僕もそうだ。
母さんと先生の言葉を耳の中に入れるのがやっとの状況だ。頭が真っ白になってなにも考えられない。
いきなり記憶が消えるなんて言われて、はい、そうですか。なんて言えるはずもない。
「隼人君、辛いことを思い出させて申し訳ないが、事件に巻き込まれたときに何かを首元に刺されたはずです」
先生の言葉が僕を無理やり現実に引き戻す。
その言葉。僕の気掛かりがつながる。あの時、意識がなくなる直前、僕の中に流れ込んできた"なにか"のことが思い浮かんだ。なにかを刺されたことだけははっきりと覚えている。
「隼人君が病院に運ばれてきたときに警察官が言っていました。僕はすぐに命に別条がないか調べ、その後すぐに刺された首元からその成分を採取して調べました」
つながってほしくない全てのピースがつながる。
気掛かりだった"なにか"それが今回、記憶が消えると言われている原因だってことは分かりたくはないが分かってしまった。
「その成分。僕の中に投与されたのはなんなんですか」
喉から恐る恐る声を吐き出す。
横目に見える母さんは横で力が抜けたかのように座っている。
「その薬は"MR7"と呼ばれている薬です」
「"MR7"...」
ぽつりと僕はつぶやく。
「その薬は、海外から入ってきた記憶を消去してしまう薬です」
記憶を消去する薬。
バカげている。そんな薬、なんで存在しているのか。僕はその効果、薬の名称を聞いて麻薬関連のものだと想像をした。よくわからない感情がこみ上げてくる。怒り?苛立ち?いや、ちがう。なんでそんなものが僕に刺されたという現実を恨む感情。なんていう感情なのかはわからなかった。
「なんでそんな薬...」
先ほどのトーンとは少し低い声を先生にぶつける。
「僕は、この病院に来る前に精神科医を務めていた時期があってこの薬を知っています。もちろんこの薬の詳細なことも」
「隼人君。記憶とはみんなが持っているものだ。僕も同様に」
そんなことわかってる。
意味が分からない。なんで僕にそんな言葉を投げかけるのか。
「記憶は人間が脳内に保存されている情報。深い記憶は長期的に保存される。例えば印象的な思い出なんかが挙げられる。逆に保存されずに失われるものもある。単発的などうでもいい日常の動作とかね」
先生は淡々と僕に話してくる。
ますます意味が分からない。意味が分からないというのは先生の話してる内容についてのことじゃない。印象的な思い出は残り、どうでもいい思い出は消える。先生が話してる内容は理解できる。わからないのは僕にその記憶というものの説明をする意味のことだ。
「隼人君、君はこの薬を聞いてすぐに麻薬を想像したとおもう」
先生に見事に言い当てられてしまう。
「でも、これは麻薬ではなくて、正式な薬です」
そう言われても、納得なんてできるはずがない。
信じられるわけがない。正式な薬?記憶を消去するなんて薬のどこが正式なのか。
「なんのためにそんな薬...」
疑問だ。疑問しかない。
なぜという思いから、なんのためにそんな薬が存在しているという思いに変わる。
「確かに記憶を消すなんて薬、聞いただけじゃ必要ないと思うだろう。しかし、さっき話した記憶の話。長期的に残る記憶が精神的にマイナスなものだとしたらどうだろう。例えば、いじめや虐待、誰しも消してしまいたい思い出だ。でもその思い出は印象深く永遠に心の傷として残り続ける」
先生の話を聞いて察した。
その場合に投与する薬だということ。確かに必要かもしれない。確かに理には叶っている。それでも記憶を消すというのはあまりにも非人道的だ。
「簡単に言うとそのような精神的なストレスが身体に害を及ぼす場合に使われる薬です。もちろん、この薬は簡単に使えるものではありませんが。」
「この薬は投与後、副作用で一度、意識を失います。そして投与されたその次の日から7日のカウントを得て記憶が消去される。この7日間は記憶を消す準備期間になります。ゆえにメモリーリセットセブンとも呼ばれています」
メモリーリセットセブン。
笑ってしまいそうなくらいそのままなネーミングだ。そして最悪な運命だ。
記憶が消える薬が運悪く、僕の中に入ってしまった。あの時、人だかりに近づかずに帰っていれば、いや、図書館の仕事なんかせずに早く帰っていれば。後悔の波が次々と僕に襲い掛かる。でも、引き時がないその波は現実の僕に打ち付けられる。
「その、その薬を取り除く方法はないんですか?」
先ほどまで石像のように固まって聞いていた母さんが声を震わせながら、口を開く。
「残念ながら、血液の中に浸透してしまった液体を取り除くことは...不可能です。一度、投与してしまったら最後で...申し訳ございません」
先生が頭を下げる。分かりきっていた現実が僕と母さんに降りかかっていた。
小説で呼んだことがある。インフォームドコンセント。医師は医療知識のない患者に対して、うそ偽りなく伝えてから治療するという義務がある。だから先生は僕に対して、記憶の説明から薬の説明まで事細かく説明したのだろう。でも、治療の説明までは至らなかった。治療方法なんてものは存在しないから。そもそも通常ならこの薬自体が治療という手段だ。
でも、今回くらいは嘘でも希望はあります。くらい言ってほしかった。避けることができないどうしようもない運命が僕に襲い掛かる。
"明日から7日で記憶が消える。"
そのあとは先生から封筒を受け取り、僕と母さんと先生の3人で1階のエントランスの受付前に足を運ばせる。
どうしようもすることができない。それに僕の体には何の異常もない。咳が出るわけでもなければ、高熱があるわけでもない。ただ一つ記憶がきえてしまう以外は。だから病院側もなにかをしてくれるわけでもない。それに現代、ただでさえ病院のベット数が足りないとニュースに流れるくらいだ。いたって健康な僕がいる理由はなかった。
帰り際に先生が一言。
「はやとくん。なにかあったらまた来るといい」
病院の先生としての謳い文句だ。なんども耳にしたことがある言葉だ。
僕と母さんは一礼をしてから病院を後にした。
病院のエントランスを抜けて屋外駐車場に出る。夕方は止んでいた雪が深々と降りかかっており、車のフロントガラスがうっすらと白く染まっていた。
母さんはフロントガラスの雪をさっと払ってから車に乗り込む。僕は助手席、母さんは運転席に乗り込んだ。普段の車内なら母さんと世間話をして盛り上がる空間だが、今日はお互いに何も言葉を交わさず、静寂に満ち溢れていた。
隣町の自宅までは1時間程度。エンジンの音が鳴り響き車が走り出す。僕は無言で車窓を眺めていた。薄暗かった外もすっかり真っ暗になっていて、車窓には外の景色は映らず、代わりに自分のひどい顔が反射して映り込んでいた。
「隼人。ごめんね。母さん、守ってあげられなくて」
病院と自宅のちょうど半分の距離にきたあたりで母さんが口火を切った。
「母さんが変わってあげられたら」
普段なら母さんの声に反応して助手席に目を向けるのだが、今の僕はそんな気分になれない。だから終始、自分の顔が映る車窓を見つめていた。
母さんの震えた声。多分、泣いているんだと思う。
そして、ドラマや漫画でしか聞いたことがない親が子供にかける言葉。まさか自分がその声をかけられる立場になるなんて思ってもみなかった。実際にこの立場になって分かる。こんな言葉、今の僕には何も響かない。所詮母さんからしたら他人事だ。そんな言葉、気休めにもならなかった。
自宅について車が車庫にすっぽりと入る。
シートベルトを外し、車外にでた瞬間に夕方とはまた違った冷たい風が吹き抜ける。
病院を出た時に降っていた雪は止んでおり、空には雲の切れ間からかすかに星が輝いていた。この季節の天気はほんとに変わりやすい。明日の朝にはまたおそらく雪が降り積もっているんだろう。
「少し出てくる。すぐに戻るから」
終始無言だったからからか、久しぶりに発した声はすこし枯れていた。
僕は少しの間、一人になりたいと思い、自宅とは反対方向に足を運ばせる。
「ごはん作っておくからね」
「うん」
会話とも呼べるのか分からない少しの言葉の掛け合いを母さんとして、自宅から離れる。
僕は路地の傍らに積もっている薄い雪をサクサクと踏みしめながら、普段なら学校へいくための通学路を歩いていく。
記憶が消える。その実感が全く湧いてこない。多分、身体になんの影響も出ていない至って健康なことが実感が湧かない原因なのだろう。そして今こうして考えている実感が湧かないという記憶さえもきえてしまうのか。
しばらく歩くと、僕が事件に巻き込まれた交差点が見えてくる。事件に巻き込まれたときは騒がしかったこの路地もいまでは閑散としていた。夕方のことを思い出しても僕は何とも思わなかった。いや、多分、頭の整理ができていない今だからこそ何とも思わないんだと思う。
夕方のように立ち止まらずにすぐさま僕はそこを後にする。そこからまた少し歩くと、小さな橋が見えてきた。橋と言っても名前がつくような大きな橋ではなく、ほんとに短い小さな橋だ。僕はその橋の中央で立ち止まり、手すりに両腕を這いつくばせて、少しの静寂に浸っていた。
『これからは恋人としてたくさんの思い出を作っていこうね』
静寂が身を包む中でふと瑠璃の言葉を思い出す。
そういえば、瑠璃に告白した場所もちょうどこの橋の上だった。
瑠璃の言葉が今の僕にはとても胸に刺さる。夕方時に聞いたときは心躍らせたあの言葉が。
これから瑠璃との思い出をどれだけ作ったとしても7日後には僕の記憶からは完全に消えてしまう。いや、それだけじゃない。瑠璃とのこれまでの時間も告白した瞬間もすべて消える。蓮との思い出も桔梗のあの変なあだ名も、家族とのこれまでの思い出も。全部...。全部消える...。
「...なんで僕なんだよ」
先ほどまではなかったとてつもない絶望感が僕を襲う。
なんであの場にいた僕なんだ。他にも人はたくさんいた。その中でなんで僕だった。なんで警察官は一瞬、逃がしてしまったんだ。どう言っても仕方ない怒りが込み上げてくる。
「なんで、なんで...」
橋の手すりにおいた手を力いっぱい握りしめる。それに呼応するように顔が熱を帯びる。
『私も隼人のこと幸せにしたいと思ってるよ」
走馬灯のように思い出す瑠璃の言葉。
今まで友達という関係だったのに、やっとの思いで恋人という関係になれた。これからなんだよ。これから幸せな時間を二人で共有しようと思っていた。たくさんの思い出を瑠璃と作ろうと思っていた。大好きな人とようやく結ばれた。もしかしたらこのまま二人でなんて可能性もあったのかもしれない。
「なんでなんだよ...」
どうしようもない虚無感に襲われる。
力なく最後に発した声は僕の下を流れる水の音にかき消されて空気に溶け込んでいった。
「はぁ...」
母さんに心配をかけるわけにもいかないから僕はそこを後にして自宅のほうに足を運ばせる。
今のこの状況なら母さんが行方不明といって警察に通報なんてことにならないとも言い切れないし。
帰りの道では行きと違い、僕の重い足取りがより一層、道の傍らにある雪を深く沈んでいるように感じた。
家に着いて玄関を開けると同時に母さんが廊下の奥にあるリビングの暖簾から顔を出してきた。
「おかえり。ごはんできてるわよ」
決して優れているとは言えない疲れ切った顔。無理もないと思う。ただでさえ仕事で疲れているのにその状況下で僕が病院に運ばれたという連絡。そして立て続けに自分の子供の記憶が消えてしまうなんて言われたんだ。母さんも一杯一杯なんだろう。
「うん、ありがとう。すぐに行くよ」
僕は玄関で靴に付いた少しの雪を払いのけ家に上がる。
奥の方から暖房の機械音が聞こえてくる。外の寒い空気とは一変してとても暖かい空気が僕を包み込んだ
。リビングに行く前に廊下を右に逸れて、洗面台に向かい、手洗いうがいをする。今の季節はインフルエンザにかかる可能性があるし。いや、いっそのことインフルエンザにでもなってしんどい思いをした方が少しはこの虚無感が薄れるのだろうか。
「はぁ、何考えてるんだ僕は」
洗面台の鏡に向かってつぶやく。
鏡に映った僕の顔は相変わらず車窓でみた時とは変わらないひどい顔をしていた。
その後、すぐにリビングへ向かうとダイニングテーブルの上には二人分のカレーライスが置いてあった。僕の大好物であるカレーライス。少しでも気を持たせたいと思い母さんが気を使って作ってくれたのだろう。
「寒かったでしょう?カレー作ったよ」
「うん、ありがとう」
母さんが座っている席の真正面に座り、手を合わせて"いただきます"をする。
カレーを口に入れるとほのかにスパイスの利いた味が口いっぱいに広がる。僕は甘口でもなく辛口でもない中辛を好むため母さんがいつも絶妙に調節してくれている。確か甘口と辛口のルーを半々で入れてるって言ってたっけ。いつもの家庭の味だ。この大好きな味さえも忘れてしまうのだろうか。そもそもカレーが大好きということも忘れてしまうのかもしれない。
記憶が消えると言われてから、今まで何も感じてなかった日常の一つ一つを繊細に感じてしまう僕がいる。
「どう?おいしい?」
真正面に座っている母さんが尋ねる。
「うん、美味しいよ」
「よかった」
いつもならテレビをつけて母さんと二人で笑いながらごはんを食べる日常。でも今日はそんなはずもない。
母さんは気を使って、今日あったことについては触れてこようとはしなかった。ううん、僕がその話をしないでほしいという雰囲気を出しているんだろう。
とてもとても静かな時間が流れていく中、僕は口にカレーを運び続けた。
食べ終えたカレーが入っていた皿をキッチンにもっていき、水をかける。
あれから結局、母さんとはほとんど会話をしなかった。今日ほど自分の親と会話をしなかったことはないと思う。反抗期の時のほうが話していたと思えるくらいだ。
少しばかり申し訳ない気持ちが僕の頭の中に流れ込む。
でも、ごめん。母さん。今は頭の中がぐちゃぐちゃなんだ。
「今日はもう部屋にいくの?」
リビングを出て、自室に戻ろうと階段を上がりかけたところで後ろから母さんに声をかけられる。
「うん、ごめん。今日はもう寝るよ」
「そう」
母さんの返事を聞き終わるまでに僕は階段を上りだす。
ちょうど1階と2階の真ん中部分の踊り場に差し掛かったあたりで、母さんの声がまた後ろから聞こえてきた。
「はやと。母さんはどんなことになっても隼人の味方だからね」
そのとても優しい声が耳に入り、思わず振り返る。
母さんはとても優しそうな顔をこちらに向けていた。僕は今、どんな顔をしているんだろう。なぜかはわからないけど、僕の瞳が水分を含んだことに気づいたのですぐに母さんに背を向けた。
「うん、ありがとう。...ごめん」
僕はそう一言残し、自分の部屋に向かった。
自分の部屋のドアを開けると、エアコンの温かい空気が降りかかってきた。多分、母さんが僕のために自室を温めておいてくれたのだろう。僕の部屋はこたつ付きの机にベット、そして本棚が置いてあり、極力ほかのものは置いていない部屋だ。世間で言うミニマリストというやつなんだろう。
机の上を見ると、一枚の書類が置いてあった。その紙は病院でもらった"MR7"についての詳細が書かれている書類だ。僕はその書類を持ち上げ少し目を通す。先生が簡単に説明してくれたものが難しい言葉で羅列してあった。毎日、小説を読むくらい活字が得意な僕だが気分的にどうも読む気にはなれず、すぐに元あった机の場所に戻して、ベットに崩れ落ち、横向きに寝転んだ。
「(あと7日。7日ですべて消える)」
心の中でどうでもよくなっている自分がいる。
なんでこんな自暴自棄になっているんだろう。多分、いろいろ考えすぎた結果がこれだ。
これから何をしても僕の記憶には残らなくなる。どんなに特別なことをしても、いや普通の日常でさえ僕の中には残らない。いや、残ったところで消えてしまう。
「瑠璃...」
横向きの態勢から仰向きになって少し凹凸がある真っ白な天井に向かってつぶやく。
こんな状況でも瑠璃のことが頭によぎってしまう。僕は余程、瑠璃のことが好きらしい。
「ははっ。別れたくないなぁ」
乾いた笑いが部屋に響く。
もう自分の中では決めていた。いや、病院でその話を聞いた後の帰りの車内でもう決めていた。
瑠璃とは別れようって。もちろん別れたくない。大好きな人と恋人という関係になれて別れたいと思うなんて人はいないはずだ。
でも、別れないといけない。記憶がなくなる僕といると瑠璃につらい思いをさせてしまう。別れるのは嫌だ。でも、大好きな瑠璃がつらい思いをしてしまうのはもっと嫌だ。だからもう心に決めていた。
それに今なら、僕と瑠璃が付き合ってるという事実を知っている人も少ないから、怪しまれることもない。
まぁ、親友二人には怪しまれるかもしれないけど、インフルエンザという体で学校を休んで二人に合わなければ、問い詰められることもない。
瑠璃には明日、電話で伝えよう。
『ねぇ、はやと』
『うれしいよ。はやと』
『私もずっと好きだった』
走馬灯のように瑠璃の言葉がよぎる。僕の瞳が潤んでくる。
「ごめん。瑠璃。約束かなえれそうにないや」
つぶやいた言葉は僕の部屋に溶け込み、消えていった。
そして、急激な睡魔に襲われてそのまま僕は眠りについた。