え?

自分の後ろ上から声が聞こえたから、思わず振り向いた。
突然の行動で、男も驚いたまま私を見つめてる。

『いくら感情は記憶と別々を保管すると言っても、お前、なんで【蒼】のことになるとすぐも泣くかよ…』
「…え、蒼?」
『いやいや、俺以外だれかこんな状態でお前と話せるの?』
「?!…え、待って、あいつが出たの?!」
「私の記憶勝手に干渉して、口がめちゃくちゃ悪い蒼なの?」
「口悪い?でも、ぼくの記憶にはそんなに口悪くないはず…」
『口悪いってどういうことよ。ってか、とりあえず、この男うるさいから、しばらく黙れと言っといて。』
「…あっ。」

蒼が言った通りに、私は男の方に見る。

「うん?ぼくに言いたいことあるの?」
「ええ。」
「ほうー久しぶりの再会で感謝するか?そんな…」
「しばらく黙れ。」
「えっ?」
「って、蒼が、そう言った。」
「はぁ?反抗期なの?」
『…めんどくさい。とりあえず、俺とあの子の区別を教えて。それを聞いてから、俺が話したいことあるから、時間くれって。』

久しぶりに蒼と話せるけど、今、凄く不機嫌になってる。
なんかあったの?

「…どうしたの?」
「えっと、まずはごめん。先私も気づいたけど、教えてくれなくてごめん。」
「気づいたこと?」
「実は、蒼は二人がいる。」
「……はっ?」
「見た目も名前も同じだが、性格は全然違うよ。しかし、一人目はもう昔から私の前に消えて、話してなかった。そして、いつも私と一緒にいる蒼は、先言った口が悪い方だよ。」
「…だから、一人称を気になったか…」
「ええ。今ここにいる蒼は【俺】を使って、もう一人の蒼は【僕】を使う。なので、それで違和感を感じた。反抗期なんてなく、今ここにいる彼は、あなたと面識ある蒼ではないんだ。」
「…ちょっと待って、ぼく、そんな話聞いたことないよ。」
『当たり前じゃん?プロのカウンセラーじゃなくても、そんな勉強してる人に全部教えるなんて、そんなバカの行動するか。』

私は、一瞬蒼をチラッと見て、男に聞いた。

「元々、蒼の存在も表に出てないし、あなたが彼の存在が知る時点で凄いと思うよ。この蒼は、こっちの世界に姿がないので、直接話せないよ。私の口から話を伝えるか…それしかできない…」
「そんな…いや、そんな話があったら先に教えて欲しかった…」

話終わって、再び蒼を見てみると、なぜか先より少し冷静になったようだ。
蒼は深刻な表情で男を見つめてる。
「ねぇ、蒼…」
『今から言うことをそのまま喋って。』

もちろん、私に言ったよね。

「あの、蒼が言いたいことあるみたいで、話聞いてね。」
「…あぁ。」
『俺、お前と【蒼】の遊びを知ってる。』

え?これどういう意味?
意味わからないまま、文字通りに言えば良いかなぁ?

「俺、お前と【蒼】の遊びを知ってる。」

男の顔は、初めて笑顔を消えた。

『ただ、俺は君たちの仲間ではない。こいつが、自分の脳が記憶をいじるすら嫌いのに、お前たちが何勝手なことするかよ。』
『【蒼】はこいつの望みからなんでもやる。だからお前の提案を受け入れた。しかし、俺はお前のこと許さない。』
『こいつを思い出せないように、お前に関する記憶を深い所へ押し込んだ。』

取り敢えず、私は目の前の男を思い出せないのは、蒼の仕掛けだったとわかった。

「…へぇ、君、皆から愛されてるがよね。」
「ええ、私もそう思った。」
「まあ、まずこの話なんかありえないから、やっぱ今の話は本当だよなぁ…蒼に説得できるために事前いろんなことも予想したが…さすがに、君の中に住人二人がおるのは予想外だ。」
「…褒め言葉として受け取る。」

男への質問だけではなく、蒼にも聞きたい。

「で、誰が答えてもいいから、ひとまず私に状況を説明してくれない?」

蒼はどうやら説明する気がなさそうで、私は男の答えを待ってる。

「…まぁ、ぼくは蒼に提案したのは、偽記憶を用意して、君の記憶を外部にも内部にも操作できるようにしよう事だった。」

なるほど。

確かに私の住人であった【蒼】なら、簡単にできる気がする。
でも偽記憶って、何なの…

「…なんで、先からずっと呼んでも出てこなかったの?」
『それはさー』
「あっそれ、ぼくわかる。君が目を覚めたと言っても、催眠を完全に解けてないから、彼の声は君に届けなかっただけ。」
「催眠ってそうなのもできるんだ。」
『…お前、こんな時に普通に怒るでしょう!』

蒼が出てきたせいかどうか、振り回されてた嫌な気持ちが消えた。
この一瞬間だけで、私は別人のようにスッキリした。

「…私は怒れないよ。」
『おいおい…』
「あの蒼から怒ってと言われたの?」
「そういえば、あなた、名前を教えてくれないの?私、あなたの名前すら思い出せないから。」
「あの蒼に記憶を戻れと頼んでみないの?」
『知らなくてもええじゃん?』
「名前ぐらい知ってもいいでしょ!」
「…へぇ、新鮮だなぁ。君、こんな口調で話すんだ。まぁ、いいっか。ぼくの名前は、葵、漢字は草かんむりのあおいだね。」

あおい。

「…なるほど。」

だから、蒼は、私が思い出せないようにしたいんだ。
私の世界で、名前にあおがついてる人が出た。

「何か思い出したか?」
『え?嘘っ、名前だけ?』
「思い出せないよ。ただ、なぜ蒼があなたのことが嫌いかわかった。」
『…驚かせないよ。』
「ぼくの名前…なんかある?」
「なんでもないよ。ただ、誰か拗ねてるだけだった。」
『拗ねてないよ。だから言ったでしょう、あの遊びは認めたくないって…』

焦ってる蒼を見ると、ホッとした。
そのせいでクスッと笑ってしまった。

「名前似てるだけで好きにならないよ。」
『だからー違うってー』
「…あの、二人だけの話をしないでくれ。」
「あっ、あの遊び…具体的に何をするか教えて欲しい。」
『お前、まじかよ…』
「…いいや、その蒼が必死に隠してたのに、今さら知ってどうする?」
「うーん、わからない。わからないけど、でも、(【蒼】)は一体なんの理由であなたと手を組みたか、聞いて欲しい。聞いてから判断する。」
「…君、先と全然違うよね。先ほど自分が弱いなんて散々言ってたのに、今の君どう見ても弱くない。」
「ええ、そうよ。蒼がいれば、私は強いよ。」

蒼がいれば、恐れるものはない。

葵さんは口に手を当たって、真剣に考えているように見える。

『…これ大丈夫なの?』
「大丈夫だよ。」
私は邪魔しないように、小さい声で返事してる。
『つか、お前、体調どうだった?まあ、多分平気だと思うけど…』
「うん、気持ち悪いと感じないし、情緒も落ち着いたみたい。」
『先までこいつから何を聞いたか?』
「あっそうだ、蒼は聞けなかったんだ。まぁ、大事な話ではないから知らなくてもよい。」
『そっか。』
「蒼がいるだけで、私は何でも恐れないよ。」

ふっと顔上げたら、葵さんが私を見つめてる。
今までも心配そうな顔で私を見てるけど、今は面白いそうな顔してる。

「やっぱ不思議だなぁ…」
「なんでしょうか?」
「蒼…あっぼくと話した蒼のことだよね。彼の話からすると、君はもっと子供気で、ワガママ言いまくり感じだった…」
『フッ。』
「…まあ、それは子供の私のことだから。」
「子供って、どのくらいの話なの?」
「えっと、少なくとも十年前の話だった…と思う。」
「十年前…それだから差が出るかなぁ…じゃ、彼は?」

葵さんは、私の左側に指差した。

『人に指差すなよ。』
「この蒼は八年前に出会って、一時期別れたけど…」

私は少し悩んでたけど、やっぱこの男にも教えないといけないかなぁ。

「あなたと話した蒼は、もう何年も私の前に出てこなかった。だから、教えて欲しい。彼はあなたに何を言ったか、教えてくれない?」
「…あなたに催眠をかけて、あなたの無意識を覗きたかった。先言ったとおりに、蒼が出たんだね。もちろん、あの時点でぼくは何もできなかった。なので、ぼくは彼に説得して相談した。」
「相談は、遊びのことなの?」
「あぁ、彼は、あなたの中の住人なので君自身をしっかり守ってる。しかし、それだけだった。彼はこれ以上できないよね。」
「…蒼は、私の記憶を操作したいの?」
「ええ。なぜなら、その方が一番効率的ま方法だから。」

葵さんは笑いながらこう言った。

「君が先言った話覚えてる?人間は誰でも住人がいる。ただ、その住人を気づく人は一部の方だけ。ぼく達の住人は、ぼく達の欲望や理想を反映する。」

なんか、蒼から聞かれた話とちょっと違う気がする。

「ただし、基本的に、住人は無意識にいる…いや、多分もっと深い所にいると思う。意識の中にいる私たちと、無意識の中にいる住人は、良いバランスを取れると影響力は凄いよ。」
「ってことは、今の私はバランス取ってないの?」
「うーん、君はちょっと違う。まあ、君の住人は取り憑かないだろう。彼は、ただ君の記憶を全部コントロールして、君に害があるものを全部排除したかった。」
「…ずいぶん、ひどいことだよね?」
「ああ。実際に、虚偽記憶はあるかどうか、今の時代でもはっきりわかってないと思う。元々何もしなくても、脳から誤った情報や記憶があるし、そんな記憶が存在してもおかしくない。ただ、ゼロから用意した記憶はそのまま入れようのは、難しいと思う…」

なら、私は実験体というものだったね。

「テレビでよくある、催眠をかけた芸能人が暗示や指示をそのまま受け入れると見えるけど、あれはずっと残ってないはずだった。」
「そんな…」
「彼がやりたいことは記憶を操作するなんて、そんなものと全然違う。もっと複雑なものだった。なぜなら、彼は君の記憶で君自身を影響したいからね。」
「…あぁ、だよね。」
「外部にいるぼくはこの実験に興味あるし、蒼が君の記憶をちゃんと管理してほしかったので、一石二鳥だった。」
「なるほど…では、やっぱ私は実験体ということだよね?」
「残念ながら、そういうことだった。結果から見ると、不成功だったけどね。しかし、勝手にこんなことして悪かった…」

葵さんは苦笑した。