「そうだな。明日香ちゃんと水族館で楽しいホリデーを過ごしたと言った時の、お祖母ちゃんの悔しがる顔が今から目に浮かぶわい!」
そう言うと市蔵はカラカラと悪代官のような高笑いをした。
しかし、残念ながらその笑いは長くは続かなかった。
なぜなら、市蔵と明日香の前方、正面ゲートの向こうにお祖母ちゃんが腰に両手を当て、鬼のような形相で、仁王立ちになっていたからであった。
「それでね!もうお祖父ちゃんたらお祖母ちゃんからこっぴどく怒られて!『せっかくわざわざ迎えに来てあげたのに、その泣きっ面は何よ!?家出なんてわざとらしい小細工して、結局抜け駆けして明日香ちゃんと2人で水族館で遊びたかっただけでしょ!?』って、もう散々だったよ!」
ゴールデンウイークが終わり九州の我が家に戻ってまだ3日目。
明日香は両親にまだまだ報告することが山ほどあった。
「それでね……お祖母ちの子供になる件もね……」
「ダメよ!旅行し放題に乗せられちゃあ!まったく明日香もお調子者なんだから」
その遺伝子はこの母から貰ったものだが、明日香はあえて反論しなかった。
「だけど行ってよかったな!明日香!お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに、これからも孝行するんだよ」
晩酌をしながら父は優しく微笑む。
「うん!任せてよ!そうするね!!」
さぁ!今年の夏休みは、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんと何して遊ぼう!?
明日香はリビングに飾った、水族館のお土産のカワウソのぬいぐるみ、嵐くんを見ながら静かに計画を練った。
女子中学生の明日香は、GWに九州から神奈川に住む祖父母のタワーマンションに泊まりに行く。しかし祖父市蔵は祖母と喧嘩。翌朝メモを残し家出。夫に無関心な祖母に代わり、明日香は壁のカレンダーと市蔵のお土産のクッキーから、彼の行く先は水族館だと推理する。水族館に来たものの何処を捜すか解らない明日香。そこで機転を利かし、係員が手を焼くほどのタダをこね、迷子の館内放送をしてもらう。放送の面白さに客が爆笑する中、恥ずかしさのあまり明日香を引取に来た市蔵。人目を憚り、明日香を連れて照明の暗い海洋深層水館へ逃げ込む。妻が気になる市蔵だったが明日香の「お祖母ちゃんも心配してる」という嘘にすっかり上機嫌。展示場やヒーローショー、レストランの食事など、明日香と丸一日水族館を満喫する。土産も買い、笑顔の市蔵だったがそれも束の間。迎えにきた妻に激怒される。親元に帰った明日香はまた祖父母と遊ぼうと夏休みの楽しい計画を練る。