定番と謳われるカップそば、及びうどん商品のうち、マルちゃんとどん兵衛とで派閥が組まれているとしたら私は間違いなく十中八九徹頭徹尾、マルちゃん派閥に属するだろう。原点にして至高、「ああ、これが食べたかったんだよね」という「サッポロ一番現象」として世に名高い例の感情がまあ、揺さぶられること揺さぶられること、さもありなん。どん兵衛だか権兵衛うっかり八兵衛だか知らぬが、スープが液体になってしまった時点で「あなた、都会に行って変わってしまったのね」と木綿のハンカチーフで太田裕子が歌唱したところのシチュエーションになってしまっているのであり、なんとも残念なことである。だがしかし、どん兵衛に優れたるところがあるろすればコマーシャル、CMなのである、星野源ではない断じてない、吉岡里帆に狐耳を付けただけで可愛さチートレベルになることに視聴者を覚醒されたあの十五秒だか三十秒の動画である。嗚呼、どん兵衛は罪なことをしてくれたものよと嘆きつつCMが流れる都度、テレビ画面へ視線が移ろうのは国家機密に属していると目している。
 夜も更けに更けた丸子橋の中腹で蹲っていた狐、のようなものは、まさにどん兵衛のCMでみる吉岡里帆が如く、セミロングの黒髪で包まれている頭からは温かみのある茶色をした三角形の「耳」が生えていて、おかれていて、接着されているのか何なのか、確かにそこには象徴としてそれがついていれば「狐と認識されるべきマーク」としての耳があった。また、彼女の腰部やや下からは耳と同じ色をした毛が幾千幾万も束ねられたがごとき、尻尾、尾、テイルだろうか、これも耳同様に生えているのか、押し込まれているのか、接着されているのか、確かにそこには四足歩行の動物等が楽しきときには高らかに踊り、悲しきときには悲哀を現すべく垂れているものがあった。
 年端もいかぬというほど幼くはなく、吉岡里帆のように成人を超えて何年かということもなく、恐らく十代前半ではないかと思われる。まだ子供らしさを残しているのか、フードがある紺色のダッフルコート身を包んでいても、私のように日々の不摂生が祟った無駄な贅肉などはなく細身であることがわかる。