お昼が終わり、百合は葵と舞と別れる。

「また明日ねー!」
「はい!」

 時間が過ぎ、百合はトイレに立つ。鏡に映る自分をふと見た。指を頬に軽く当てる。百合は思った。もっとちゃんと笑えるようになりたいと。

 そして気付いたこと。航に渡したお弁当。

「あ、お弁当箱、返してもらわなくちゃ…。どうしよう…。」

 とりあえず航に聞いてみようと、百合はスマホを出す。すると、既に航からのラインが入っていた。

 仕事終わったらあの公園で

「航さん…。」

 百合は一気に航が恋しくなった。逸る気持ちを抑え、迎えた終業。百合はデパートのトイレで化粧直しをする。緊張が高まってくる。航に会える嬉しさ、お弁当の感想、気になることが頭の中で回る。深呼吸をし、デパートを出て公園に向かう。

 公園に着く百合。航の仕事の終業時間のほうが少し遅いため、百合はひとり公園で待つ。出入口に近いベンチには、前のようにカンカンがふたつ、ぴったりくっついて置いてある。百合はもう一台のベンチに座った。時間が経てば経つほど緊張が高まる。目を閉じる百合。

「おい!」

 百合はパッと目を開け、出入口を見る。航だ。

「ちゃんと受け取れ!」

 航はまた何かをゆっくり投げてきた。

「はい!」

 百合は立ち上がり、航からの何かを受け取った。前と同じ、コーヒーのカンカン。

「…ありがとうございます。」

 公園の中に入ってきた航の手には、朝、百合が渡した紙袋。

「お疲れ。」
「あ、お疲れ様です…。」

 お弁当の感想が一番気になる百合。しかし自分から聞く勇気はない。口が動かない。

 「これ。」

 航は紙袋を百合に返してきた。何も言わずにゆっくり受け取る百合は、不安に溢れた表情をしていた。航にすぐ伝わるほど。だからこそ航はストレートに言った。

「うまかった。すげーうまかった。」
「え…?」
「すげーな、よくあんなの作れんな。」

 百合は目をぎゅっと閉じる。一日分のため息をする。

「…よかったぁ…。」

 すると航がすぐに言う。

「卵焼き。」
「あ、どうでしたか…?」
「うまかったけど、もう少し甘いほうがいい。」

 百合の表情がやっとやわらかくなる。

「はい、明日からそうしますね。」
「それから…。」
「何ですか?何か食べたいおかずありますか?」

 航は百合のメッセージカードの礼を言おうとした。しかし何と言ったらわからない上、恥ずかしくなった航は頭を抱えた。

「いや、何でもねぇ…。」

 不思議に思った百合。しかし航の、頭を抱える癖。それが見れて百合は嬉しかった。

「あんなにすげー豪華な弁当、毎日作んなくていいぞ?無理は…。」
「無理なとこは無理、です。航さんが教えてくれました。」

 航は驚く。少しだけ目を大きくしながら。百合の発言。百合の成長。航はやさしく言った。

「そうだったな。」
「だから明日も届けます、お弁当。だから受け取ってください。」

 百合は気付かない間に、少しずつ素直になっていた。百合の言葉が航に響く。航は素直に嬉しく思った。

「待ってるよ。」

 百合は笑った。まだまだ控え目な笑顔。

「はい。」

 夕顔が咲いた。

 航が百合をアパートまで送る。別れ際、航は言う。

「…あんた、ほんとに…。」
「?何ですか?」
「いや、何でもねぇ…。」

 航は百合を心配していた。お弁当のことより、百合にとっての人目のことを。

「航さん、今日『何でもない』が2回目です…。何ですか…?」

 航は言葉を濁したり隠したりするような人間ではない。百合は当然のように不安になる。すると航は百合のように言った。

「…もう少し、経ったら言う。今は…。」

 百合は航を見ていられず、うつむいてしまう。それを見た航は、航なりのフォローをする。

「でも悪いことじゃねぇ、そんなんじゃねぇんだ…。それだけは、わかってくれ…。」
「はい…。」

 百合は返事をするが、不安は消えない。その不安を百合は必死に抑えた。そんな百合を見て航は頭を抱え、髪をくしゃっとした。無駄な誤解はされたくない。不器用な航はそれ以上の言葉が思い浮かばない。

 航は百合のおでこにキスをした。とても短いキス。

 一瞬だった。百合の時間が止まる。顔を赤くした。久しぶりの百合の赤い顔。その顔を見ることなく航は言う。

「…また明日な。」

 そう言う航のことも百合は見ることなく、百合は動けず、呼吸も忘れるほどだった。やっと息を吸えた百合は航を目で追う。航の姿は小さくなっていた。

 百合はぽーっとする。階段を上り、ドアの前に立つ。おでこに手を当てる。

「熱い…。」

 シャワーを浴び、少し落ち着いてきた百合はノートを開く。航のお弁当ノート。百合にスイッチが入る。

「明日も卵焼きは真ん中。お肉は…。」

 お弁当のことを考えることは、やはり時間を忘れるほど百合にとって楽しいものだった。

 そして翌朝、お弁当はできていた。卵焼きの砂糖の分量も少し増やした。迷っていたのはメッセージカードの一言書き。おでこへのキスが思い浮かんでしまう。

「昨日のことは…書けない書いちゃだめ…。…今日は何て書こう。毎日同じなのは嫌…。あ!」

 今日の卵焼きはどうですか?
            百合

 百合は工場へと向かう。航に会いに行く。
 百合は歩く。一歩一歩、ぶつぶつ言いながら。

「航さんに会ってお弁当を渡す…人にどう見られたっていい…、それから昨日の…昨日の…。」

 百合の足が止まる。

「昨日の…あのおでこの…。」

 やさしい風が百合の頬を撫でる。

「だめだめ考えちゃ…。」

 再び百合は歩き出す。工場が見えてきた。百合の緊張はやはり高まる。昨日と同じ、門の少し手前で足が止まる。

 百合は目線を下に向けた。それ以上は上げられない。百合は航を探す。そして見つけた、航のスニーカー。そのスニーカーは近付いてくる。百合は上を向く。航だった。

「おう、おはよう。」

 いつもの航、やさしい笑顔。百合はホッとし、ホッとした顔をする。

「おはようございます。」
「今日も頑張ったな。」
「はい。」

 航に会えて安心した百合は、緊張から解かれ昨日のことを思い出してしまう。顔が赤くなってしまった。目線を少し下に下げる。

「どうかしたか?顔赤くして。」
「な、何でもないです…。」
「…あ…。」

 航も思い出す、昨日のことを。気まずい恥ずかしい気持ち、空気、空間。

「…今日も、公園でいいか?」
「はい…。」

 百合は変わらない、目線も顔色も。すると航は言う。

「おい、またデコピンするぞ。」
「い、嫌です!」
「やっと向いたな、こっち。」

 航はやさしい目、航のやさしさが百合を笑顔にする。

「航さん?」
「なんだ?」

 百合は微笑む。航へ向ける、百合の初めての微笑みだった。

「行ってらっしゃい。」

 航は微笑み返す。

「行ってくる。」

 その日も朝顔が咲いた。昨日より少し大きい朝顔。

 そしてお昼の時間。百合からのお弁当を見る従業員が騒ぐ。

「航先輩、今日も豪華っすね!」
「今日のもうまそー!」
「いい彼女っすね!」

 航は少し控え目に言う。

「だから、そんなんじゃねーよ…。」
「先輩が照れてる!」
「何恥ずかしがってんすかー!」

 取り巻き達が騒ぐ中、航は見つける。百合からのメッセージカード。百合からの思いやり。

 今日の卵焼きはどうですか?
            百合
 
 航は百合の想いやりを強く感じた。

「ありがとな…。」

 朝顔と夕顔が咲く日々が続く。その日々が続くにつれ、航はお弁当より、百合からのメッセージカード、百合からの一言が楽しみになっていった。何の柄もない、真っ白なカード。百合の文字が引き立つ。

.
.
.
 今日はいつもより暑くなるそうです
 今日のお弁当の出来はイマイチです…
 雨続きますね、体調崩さないようにしてくださいね
 水分補給、ちゃんとしてますか?
 このお弁当で、少しでも疲れが取れますように
.
.
.

 毎日届く、百合からの想いやり。ある日。本当に一言だけ。

 会いたい

 それを見た航はすぐにどこかに電話をする。

「先輩、お久ぶりです。…はい。で、先輩、お願いがあるんすけど…。」

 翌日、待ち合わせ場所は公園ではなく駅を指定してきた航。百合は不思議に思うこともなく、迷わず駅に向かう。

 百合は駅に着くと、航は既に来ていた。少し離れた所から、百合は感じた。いつもとは雰囲気が違う航を。その日の航は、ラフな水色のシャツにジーンズ、そして履きこなしたブーツ。手には百合のお弁当の紙袋。

 服装だけではない、どこか落ち着いた雰囲気をしている航。百合が見惚れない訳はなかった。ぽーっと航を見る百合。そんな百合を航は見つける。航は手招きをした。百合は小走りで航に向かう。

「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
「こっちだ、行くぞ。」
「はい!」
 駅の喧騒を抜け、静かな住宅街も少し抜ける。細い路地。そこだけは周りに何もない。路地に面した小さな真っ白な外壁の店。中央には濃い茶色の木製の扉。左右には同じ木製の小さな窓がひとつづつ。扉には小さな小さなフランスの国旗。何の主張もせず、落ち着いた店。

 航は扉を開け、百合が店に入るのを待っていた。緊張しながら店に入る百合。店内はテーブルが10卓ほどしかない。内装も照明も程よく暗く、とてもお洒落な店だった。航も店に入る。シェフがふたりを笑顔で出迎えた。

「久しぶりだな、航。元気そうだな。」
「はい、先輩も。今日はありがとうございます。」
「お前がそんなこと言うなよ、早く座れ。」
「はい。」

 百合はぼーっと2人の会話を聞いていた。

「こっちだ。」

 百合は航に呼ばれる。一番奥のテーブル。予約席というプレートが置いてあった。席に着くふたり。百合は店内を見渡す。店の中央だけにある豪華なシャンデリア、凝ったデザインの花瓶、オルゴール。そしてテーブルの壁際には小さなキャンドル。おとぎ話の中にいるようだった。そこへシェフが来る。

「何飲む?」
「オレは任せます。」
「百合ちゃんは?」
「え??」
「お酒は弱い?」
「そんなに強くは…。」
「かしこまりました。」

 シェフは去っていった。

「どうして私の名前…。」
「いーだろ、そんなこと。」

 そして美味しい時間が始まった。キラキラ輝くシャンパンと、羽根の付いた髪飾りのように美しい料理。シェフのこだわった優しい料理、百合も航も、自然とやさしく笑っていた。楽しい一時、百合はおとぎ話の中、時間が止まっていた。

 食後のコーヒー。とてもいい香りがした。そのコーヒーの途中。

「そういえば…あのシェフの人、航さんの先輩なんですか?」
「ああ、同じ高校の先輩だ。昔からかっこよかったんだ。店もかっこいいだろ?」
「はい、お洒落です…。」
「見た目もかっこいいだろ?オレの1個上、33には見えねぇよな。」

 百合は考える。カップをソーサーに置いた。

「33歳…じゃあ航さん、32歳ですか??」
「そうだ…ああ、そういえば言ってなかったな。」

 航は平気な顔でコーヒーを飲む。百合はボソッと言った。

「もう少し若いかと…。」
「バカっぽく見えるか?それとももうオジサンか?」

 航は笑う。百合はそれどころではない。

「そんな…、どっちも思いません!そんなことより…。」
「なんだ?」

 百合は思った。航にとって自分は子供でしかないのではないかと。不安になった。子供の面倒を見てきた、ただそれだけだったのではないかと。それまでとは違った、落ち着きがない百合。航もカップを置き、やさしく言った。

「話せ。今何考えてんだ。オレが怖いか。」

 百合は航の目をそっと見る。航はいつものやさしい目。

「…航さんにとって、私は子供…ですか…?」

 航は百合を見つめ返す。航は余計なことは言わない。

「そんな訳ねーだろ。だから今日ここに連れてきたんだ。」

 航は紙袋をテーブルの上に置く。百合のお弁当が入った紙袋だ。そして航はゆっくり話し出す。おとぎ話を語り掛けるように。

「弁当はもういい。」
「え…?」

 百合から表情が消える。お弁当は、唯一、航と会える口実だった。

「よく聞け。その代わり、これからはちゃんと会おう。朝と夜だけじゃなくて、ちゃんと。どこに行きたいかはあんたが決めてくれ。オレはどこだって構わない。」

 百合は航の言葉が、夢の中なのか、現実なのか、おとぎ話の中なのか、すぐに把握できずにいた。息も少し苦しくなる。

「ただ…あんたは若い。オレなんかよりいい男なんて腐るほどいる。」

 航は以前にも言ったことを言う。

「…あんたにはあんたの人生がある。オレにもオレの人生がある…。これからどうするか、それもあんたに決めてもらいたい。」

 その言葉の意味がやっとわかった百合。そんな百合の息苦しさは、涙のせいだった。百合の目には涙。暗い店内、だが涙は光る。それを航はずっと見ていた。そしてずっと百合の言葉を待っていた。変わらず、やさしい目で。百合はやっとの思いで言葉を出す。

「他の…人なんて考えたくない…。私は…航さんなんです…。初めて会った…時から変わらない…。」

 百合は航を見つめる。涙の浮かぶ、ガラス玉のように透き通った目で。

「…いっしょにいたい…。」

 航は答える。その声もやさしかった。

「オレもだ。」
 航はジーンズのポケットをゴソゴソする。そして何かを出した。それをテーブルに置く。百合からのメッセージカードだった。

「悪いな、ボロボロになって…。失くさないようにずっとポケットに入れてたんだ。」

 航は全部残らずとっておいた。

「これ…。」
「毎日楽しみになってったんだよ。あんたに話し掛けられてるみたいに感じてよ。」
「ちゃんと…見てくれてたんですね…。」
「当たり前だろ。」
「よかった…。」

 百合の気持ちは航に伝わっていた。百合は嬉しさが重なり、胸がさらに苦しくなる。

「航さん…?」
「なんだ?」
「ありがとう…ござい…ます…。」

 百合は深く目を閉じる。すると何粒もの涙が流れた。夏の小さな流れ星のように。

「まだ何もしてねぇよ、これからだ。…でも…ありがとな…。」

 航は百合の頭をやさしくなでた。百合は涙が止まらない。止まらないほどの歓喜の涙、百合は初めてだった。

 程なくしてシェフがやって来た。大きなお皿を持っている。百合は慌てて顔をハンカチで隠す。

「どうぞ、お召し上がりください。」

 シェフは百合の前にお皿を置いた。大きなお皿に小さなショートケーキ。一粒の苺、その周りのクリームのデコレーションはリボンのようだった。百合は涙を拭きよく見ると、チョコレートで文字が書かれていた。

 To Yuri

「名前…。航さん…?」
「先輩からの気持ちだ。ありがたく食え。」

 百合の目にまた涙が滲む。嬉しいのに涙が止まらず笑えない。涙が一粒落ちた時。

「食わないならオレが食うぞ。全部食うぞ。」
「…だめです…!私の…ケーキです…!」

 航はやさしい目。

「少しは落ち着いたか?」

 百合を落ち着かせるための言葉。航はどこまでもやさしかった。百合は目を閉じ深呼吸する。何度も。そして目を開けるとチョコレートの文字。おとぎ話の中ではなかった。百合は涙に負けそうな笑顔。

「…いただきます。」
「やっと笑ったな。」

 ふたりは目を合わす。目を合わせ、ふたりは笑った。心が満たされる。笑顔が輝く。

 気持ちがひとつになった瞬間だった。

 食事が終わり、店を出る前。

「先輩、今日はありがとうございました。」
「おう、また来てくれよ。百合ちゃんと一緒に。」
「はい。」

 百合は泣きはらした顔を見られるのが恥ずかしく、シェフのことをうまく見ることができない。礼もきちんと言えない。

「ご、ごちそうさまでした…。とても…美味しかったです…。」

 そんな百合を見たシェフは航に言う。

「お前、大丈夫かー?こんな可愛い子、泣かすなよ?」
「大丈夫です、守ります。」

 航は堂々と言った。百合は驚き、心が高まる。そして航は言う。

「あんたは先出てろ。」
「は、はい…!」

 店を出る百合は、さっきの航の言葉で頭がいっぱいだった。その航が後ろから呼ぶ。

「おい!受け取れ!」

 百合は急いで後ろを向く。百合の胸に、大きなやわらかいものが飛び込んできた。白くてとてもいい香り。

 花束だった。花びらが大きく、立派に咲いた真っ白な百合の花束。

「え…?」

 突然のことで百合は驚いた。

「きれいな花だな。あんたにぴったりだ。」

 歩き出す航。動かない百合。

【百合、花言葉は『純潔』】
 
 その花言葉を航は知らないだろう、そして自分は純潔ではないことも航は知らない、百合はそんなことを考えていた。立派できれいな花束を見ながら、百合は複雑な思いがした。

 再び航は百合を呼ぶ。今度は前から。

「おい!帰るぞ!」

 百合は息を飲み、航を見る。航は腕を伸ばし、手を開いていた。

「来い、置いてくぞ。」

 航の手を見ながら、百合は涙を我慢し航へと急いだ。航に、航の手に。

 航の手。おそらく大きくて長いであろう指はごつごつしていた。そして固い皮膚。その大きな手に包まれる自分の手。百合は初めて航に触れた。手から伝わってしまうのではないかと思うほど、百合は緊張した。しかし何より、嬉しかった。

 ふたりは百合の花の香りに包まれる。
 初めて手をつないで帰るいつもの帰り道。百合はいつもと違った風景に見えた。暗い景色も鮮明に見える。百合の世界が輝き始めた夜。

「緊張でもしてんのか?」
「え?」
「震えてる。」

 やはり百合の緊張は航に伝わっていた。

「手…つなぐなんて初めて…。」

 緊張のせいで、いつも以上に上手く話せない、説明できない。

「でも、嬉しいです…。」

 言いたい、伝えたいことは言えた百合。花束で少し顔を隠す。そんな百合を見て航は思った、百合らしいと。

 次第に、百合の震えが消えてくる。航の手、手のぬくもりが百合に安心感を与えた。表情も和らいでくる。しかし気付けばアパートはすぐ近くにあった。百合は寂しくなる。

「今日はありがとな。」
「いえ…。」

 百合は下を向き、しょんぼりしていた。

「そんな顔すんなよ。いつでも会える。」
「いつでも…いつでも…?」

 航は百合を呼ぶ。

「こっちを見ろ。」

 百合は顔を上げる。

「あんたはオレを選んでくれたんだ。そうだろ?」
「はい…。」
「それを忘れんな。」

 百合は百合の中の航が溢れ、こぼれる。

「航さん…?」
「どうした?」
「…好きです…。」

 航は驚く。百合からのストレートな言葉。大きな言葉。そんな言葉が直接聞くことがあるとは思ってもいなかった。今にもガラス玉が溶けそうな百合の目。航はやさしい声で、ゆっくり答えた。

「わかってるよ。」

 その言葉を聞き、やはりおとぎ話の中なのではないかと、ぽーっとしている百合。航はやさしく百合のおでこにデコピンをする。

「いたっ…!」
「いつでもいい、連絡しろ。どんなことでもいい。わかったな?」
「はい…、ありがとうございます…。」

 百合が言い終わると、航は百合のおでこにキスをした。

「じゃあな。早く寝るんだぞ。」
「はい…。」

 百合はまだ少しぽーっとしていた。航の後ろ姿が小さくなる。手元の花束を見る。

「航さん…。」

 百合はゆっくり階段を上り、部屋に入る。テーブルの上にふんわりと花束を置いた。花瓶を探し、水を入れる。百合は花束を少し眺めた。

「きれい…いい香り…。」

 百合に複雑な思いが蘇る。そしてその思いをかき消す。花束のリボンをほどき、きつく締められたワイヤーを緩めた。その時、花と花の間から何かがぽろっと落ちてきた。それは航に渡していたメッセージカードの1枚。しかも『会いたい』と一言書いたものだった。

「1枚、返ってきちゃった…。」

 少しショックを受けた百合。ふとカードを裏返すと、百合は動きが止まる。

 好きだ
   ワタル

 百合のメッセージの裏に、航からのメッセージが書かれてあった。百合は一言呟く。

「夢じゃない…。」

 息苦しくなると同時に、涙が浮かんでくる。

「航さん…。」

 百合はカードをきつく握り、泣き崩れた。航のやさしさ、その嬉しさ、航への想い、航と出会った日から今まで、生まれてから今日まで。沢山のものが百合の頭の中で回った。目眩がするほど。そして体が渇くほど泣いた。

 そんなおとぎ話のような夜だった。

 そして翌日。休日。百合は目覚める。もう太陽は高い。前日、涙の百合はうまく眠ることができなかった。泣き疲れ、床で寝てしまっていた。百合はゆっくり起き上がる。

 テーブルの上、大きな百合の花。そして航からのカード。まだぼんやりしている百合はスマホを見る。航からのラインが入っていた。

 おはよ
 ちゃんと眠れたか?

 寝ぼけている百合は、躊躇することなく航に電話をする。

「もしもし?大丈夫か?」

 航のやさしさは変わらなかった。

「航さん…おはようござい…ます…。」
「なんだ?今起きたのか?」
「昨日…眠れなくて…。」
「まだ眠そうだな。」
「んー…。」
「無理すんなよ。眠いなら寝ろ。」
「でも…。」
「もし外に出られそうになったら教えろ。飯でも食いに行こう。」
「え…?」
「じゃあな、ゆっくり休めよ。」

 電話が切れた。

「航さ…ん…。会いたい…。」

 百合は再び眠りにつく。
 数時間後、百合は目覚める。少しすっきりした百合。テーブルの上には百合の花。

「あ…また寝ちゃったんだ…。…また?あれ…?航さんと話したような気が…。」

 百合はスマホを見て確認する。

「やっぱり電話してる…。んー…。」

 百合は航の言葉を思い出す。

「あ!」

 百合は急いで出かける準備をする。その後、航にラインする。

 準備できました
 いつでも出られます

 ラインの後、航は百合を迎えに来た。恥ずかしがっている百合に、航は手を広げる。その手に、百合はゆっくり重ねる。航はその百合の手を強く握った。

「目が真っ赤だな。どれだけ泣いたんだよ。」

 航は笑う。

「笑わないでください!…嬉しかったんです…。」
「どこに行きたい。」
「え?」
「あんたの行きたいとこへ行こう。」
「あ…。」
「考えてなかったか?」
「…そんなにすぐには、考えられません…。」

 百合の手は航の手の中。百合はぼーっとしながらも思い付く。

「あの…。」
「思いついたか?」
「私、航さんの知ってる所に行きたいです。」
「オレの?」
「はい。航さんの知ってる所で、航さんのこと知りたいです。」
「…オレの知ってるとこなんてこの辺の飲み屋くらいしかねぇぞ??」

 百合の目は変わらない。

「しょうがねぇなぁ…。ただの居酒屋だぞ?」
「はい!」

 ふたりは歩く。手をつなぎながら。百合の手は少しずつ素直になっていった。

 突然、航の足が止まる。

「やっぱりこっちにしよう。」

 歩いていた方向とは別の方向へ航は向いた。航の手の通り、付いて行く百合。

「…焼き鳥屋さん?」
「うまいんだ。一度食ってみろ。」

 ふたりは店に入る。小さな古い店。年齢層が高い、男性率も高かった。

「今日は…あんたはアルコールは止めといたほうがいいかもしれないけど…ビールに合うんだ。許せ。」

 航はビールと焼き鳥を注文した。運ばれてきた焼き鳥は、どこにでもありそうな焼き鳥だった。

「いただきます。」

 百合は一口食べてみる。百合は驚いた。感動するほどのおいしさだった。

「…おいしい…。」
「だろ?」

 航も食べ始める。

「こんなにおいしい焼き鳥、初めて食べた…。」
「秘伝のタレなんだってよ。昔はよく自慢してたな。あんたは好きなだけ食え。元気出るぞ。」

 百合は食べながら考えていた。そして思い立つ。立ち上がる。

「おい、どうしたんだよ?」

 航の言葉など聞こえず、百合は店主に向かった。カウンター越し。そして大きな声で言った。

「あの!秘伝のタレ、どうやったら作れますか?!」

 航も店主も客まで驚いた。一同、動きが止まる。

「バカなことゆーんじゃねーよ、ねーちゃん。教える訳ねーだろ?」
「じゃあ、何を使えばこの味に近付けますか?!」
「しつこいねぇ。教えねーよ。」
「教えてください!作りたいんです!お願いします!」
「だから教えねーって言ってるだろ?」
「お願いします!お願いします!」

 店主は呆れ、ため息をする。百合の根性を認めてくれた。

「大したもんだな、若いねーちゃんがよ。こんな客、初めてだ。しょーがねーから教えてやるよ。一度しか言わねぇからよーく聞けよ。」
「はい!」

 百合は笑顔で返事をした。航は百合を見たまま、まだ驚いている。百合は熱心に店主の話を聞いていた。今までとは明らかに違う百合。そこには百合の成長した姿があった。

 百合が航の元へ戻ってくる。難しい顔をし、何かぶつぶつ言いながら。

「あんた、どうしたんだよ?なんであんなこと…。」
「え?あ…、本当においしいし、自分でも作ってみたいと思ったし、…航さんに…食べて欲しいって思ったし…。」
「そりゃ嬉しいけど…。」
「けど…何ですか?」
「あんた、あの店長に会うの初めてだろ?」
「はい。それがどうかしたんですか?」
「あんたは、初めて会った人に、あんなに堂々と話し掛けた。」

 百合は自分自身に驚く。それまでの百合にはありえなかった言動。自然と動いた体と口。航に言われるまで気付かなかった。

「自分じゃ気付いてなかったんだろ。オレはそっちのほうが嬉しいよ。」

 百合の驚きは続く。航はビールを飲み、ジョッキを静かに置く。

「それに、よく笑うようになったな。」

 百合の心配していたこと。

「私、笑えてますか?ちゃんと笑えてますか?」
「笑ってるよ。だからもっと笑え。」

 安心し、ホッとする百合。嬉しくなった百合は笑う。

「それは、航さんのおかげです。」

 航は決まったように言いかける。

「だからオレじゃねぇ、あんたの…。」
「航さんが私を笑顔にしてくれてるんです!航さんが私の笑顔を引き出してくれたんです!…友江先輩の結婚式の時、私の腕を引っ張ってくれたみたいに…。たまには、受け入れて欲しいです…。」

 百合は少し拗ねた。その百合の表情はとても愛らしく、航は嬉しくなった。

「色々持ってるじゃねーか。もっと見せろ。」
「え?」
「笑った顔、泣いた顔、でかい声、真剣な顔、拗ねた顔…。もっとあるんだろうな。全部見せろ。オレに見せてくれよ。な?」

 百合はどきっとし、手が止まる。嬉しさで息がつまる。言葉を選び考える前に、つまる息の中、百合は言った。

「航さんがいてくれたら、どんな顔だって…。でも、今はまだ、もっと笑いたいです。」

 控え目に笑う百合。その表情もとても愛らしく、航は少しの間、百合に見惚れる。不器用な航は言葉がすぐに見つからない。そしてやっと言葉が出た。やさしく言う。

「ありがとな。」
 笑い合いながら食べる焼き鳥は、さらにおいしさが増した。おいしい時間。ビールを飲む百合は、壁のポスターに気付き見上げた。航も気付く。花火大会のポスターだった。足立の花火。東京で一番早い花火大会。

「もうすぐだな、花火大会。みんな好きだよな、こーゆーイベント事。特に女は。」

 航は何気なく言った。嫌味もひがみも、何もなかった。百合も言う、嫌味もひがみも何もなく。

「私は、今までイベントなんてひとつもないです。何もしたことないです。」

 その言葉が少し気になった航は百合を見る。百合は平然とした顔でポスターを見ていた。

「花火の日、すごいですよね…。」

 百合は人を、何かを怖れる顔。

「会社のほうまで屋台が並んで。お祭り騒ぎ?なんでしょうね。駅もホームも電車の中も、ずーっと人が多くて…それを通り抜けてやっとアパートに着くって感じで。」

 最後に百合は小さな声。

「いいなぁって…。」

 言い終わった後、百合は一息入れて、おいしそうに焼き鳥を食べ始める。

「おいし…。」

 そんな百合をじっと見る航。頭を抱え、考える。考えていた答えが出た。その答え合わせを百合にする。

「行くか?花火大会。」
「え?」
「見たいか?花火。」

 百合はまたポスターを見上げた。航の質問の答えを考える。

「行きたくないならそれでいい。人がごった返すような場所にわざわざ行くことねぇ。でかい花火大会だから、少し離れた場所からでも充分綺麗に見える。」

 百合も航に答え合わせをする。

「花火が一番よく見える場所はどこなんですか?」
「河川敷か土手だな。河川敷で打ち上げるんだよ。」

 百合の答えはすぐに出る。

「そこに行きたいです。河川敷か土手に。」

 航は百合の答えに疑問を抱く。

「あんた本気で言ってるのか?」
「はい。」
「じゃあ、何万人て人が集まる場所に行ったことがあるか?駅や電車とは訳が違う。人がうじゃうじゃいて真っ直ぐに歩くこともできねぇ…。」
「だからです。人が沢山いるからこそ行きたいんです。」

 航は困惑する。誘ったことを後悔した。航はボソッと言う。

「言うんじゃなかったな…。悪い…。」

 百合でもわかるほど、航は困惑していた。百合は再び考える。しばらく目を閉じ想像する。でも結局は、自分には想像のつかない世界なのだろうと百合は思った。航と一緒なら挑戦できると思った百合は、目を開け答える。

「行きたいです、航さんと一緒に。行って、航さんと一緒に花火を見たいです。連れて行ってください。」

 百合は航に向ける目を強くする。想いが届くようにと。

「行きたいんです…。…隣に…いてもらえませんか…?」

 航はまた考える。頭を抱える。頭を抱えながら言った。

「…絶対、離れるなよ…。」

 百合は笑顔で返事をした。
 おいしい時間が終わり、ふたりは店を出る。

「店長が言ってたこと、後でメモしなくちゃ…。」

 またぶつぶつ言っている百合の後ろ姿を、航は微笑ましく見ていた。

「帰るぞ。」

 航は笑顔で百合に手を広げる。百合も笑顔で応える。

「はい!」

 ふたりは手をつなぐ。帰り道。

「明日は大人しく休め。疲れてるはずだ。」
「はい、そうします。」
「なんだよ、やけに素直じゃねーか。」
「昨日から一日しか経ってないのに、もう何年も経ったような気がして…。」
「大袈裟だな。」
「航さんといると時間が足りません。」

 時々出る、百合のストレートな言葉。百合に自覚がないため、余計その言葉が航の胸にくる。

「今度の花火。あんたにとってのイベント、初めてか?」
「あ…そういえばそうです。」
「他にイベント事って、何があるんだ?」
「私に聞かれても…。」
「何かあるだろ。」
「んー…、夏が花火…、冬は…クリスマス…?それから…年が明けてバレンタインが来て、その後お花見…。あと…誕生日…?とか…?…んー…私にはわかりません!」
「それ全部やろう。」
「ん…え?」
「今言ったやつ、全部やるんだよ。いや、イベントってイベント、全部やってやろうぜ。」

 百合の足が止まる。

「…全部…??」
「そうだ、全部だ。なんだ、嫌か?やるのか?やらねーのか?」

 春夏秋冬、一緒にいてくれる。航がそう思ってくれている。それを知ることができた百合に、安心感と弾む胸。百合は笑顔で答える。百合らしい、小さな笑顔。

「全部…やってやろうぜ、です…。」

 航も笑顔で返す。

「決まり。帰るぞ。」

 笑顔のふたりは仲良く帰る。アパートに着く。笑顔のまま、手をつないだまま。

「じゃあな。ゆっくり休め。」
「はい。」
「焼き鳥、出来たら食わせてくれよ。」
「もちろんです。」

 航は百合のおでこにキスをしようとする。

「あの!」

 百合は声を出した。そして少しうつむく。

「どうした?」

 航は心配になる。うつむいていた百合がゆっくり航を見上げると、航は百合を心配する、想いやる目をしていた。

「あの、そういうことをされると、逆にゆっくりできなくなる…んです…。」
「…なんでだよ。」
「…どきどきしちゃって、落ち着かなくて…。」

 百合はその時でさえどきどきし、その場をどうしたらいいかわからなくなる。その時。

 航の顔は百合の横。航は百合の頬にキスをした。

「じゃあ、これはどうだ?」

 固まる百合。その百合の顔を航は覗く。

「おい、聞こえてるか?」
「え…?」
「オレはこっちだ、こっち見ろ。」
「え…?」

 百合は航を探す。見つける、いつもの位置、いつもの距離。そしていつもの笑顔だった。

「ゆっくり休めるといいな。じゃあな。」

 航は帰っていく。固まっていた百合の体が動き出す。

「あ…航さん…!」

 百合は叫ぶ。航に、自分に。

「航さん!ひどい!」

 航は少し振り返り、笑って手を振った。それを見送った後、百合はアパートの階段を上り、ドアの前に立つ。今度は頬に手を当てる。

「おでこの時より、熱い…。」

 落ち着かない休日の始まり。
 週が明ける。一回り成長し、大きくなった百合。航への想いも大きくなっていた。自分では気付いていない。

 百合は、葵と舞に報告をするため誘う。終業後、居酒屋・古都。

「お疲れー!」
「かんぱーい!」

 すかさず葵は聞いてきた。

「ユリ、どうしたの?ユリから私達誘うなんて。しかも古都。何かあったの?」

 葵と舞はいつもと変わらない。変わったのは百合と航の関係。

「2人に報告があります…。」

 百合は気合いを入れる。

「私、好きな人と、付き合うことになりました。」

 葵と舞は驚き、2人は目を輝かせる。そして。

「イエーイ!」

 二人はハイタッチをする。そしてハグをした。

「やったー!」

 その後、葵は百合にハグをする。

「やったねー!ユリー!」
「ユリおめでとう!」

 2人の迫力に圧倒される百合。

「あ、ありがとうございます…。」
「なーにー?ユリが喜ばなくてどうするのー?」
「ユリー!よかったねー!」
「はい、すごく嬉しい…です。」

 こんなにも大きな祝福をされると思っていなかった百合。葵と舞に心から感謝をした。

「葵さんと舞さん、いつも私を励ましてくれました。それから私の背中を押してくれて…。本当に、ありがとうございました。」

 報告を終えた百合はホッとする。葵と舞は、まだまだ目を輝かせている。

「私達は何もしてないよー!ユリの努力!」

 二人の勢いは止まらない。増すばかり。葵は百合に聞く。

「ねえ!どっちから?ユリ?彼氏?」
「え?か、れし?」
「だってもう彼氏でしょ?で、どっちだったの?どっちが告白したの?」
「え?!」
「それくらいいいじゃーん!」

 百合は2人に勝てない。顔を真っ赤にし、もう一度気合いを入れる。

「…これからどうするか、決めてもらいたいって言われて…。」
「それで??」
「…いっしょに…いたいって…言いました…。」

 百合が落ち着く間もなく、葵と舞は叫ぶ。

「キャー!」

 二人は肩を寄せ、手を握り合っていた。

「なんかいいー!『好きです』とか『付き合ってください』とかじゃなくて、なんかかっこいい!なんていうのかな…ロマンチック??」
「それー!『決めてもらいたい』…なんてかっこよすぎー!言われてみたーい!」

 さらに葵は聞く。

「それで?」
「え…?」
「それから??」

 舞も参戦してくる。

「その後、何かあった??」 

 百合は2人のテンションにも会話にも付いていけなくなる。

「あの…もういいですか…?私、限界です…。」
「じゃあ、他に言える範囲のこと、ある?」
「聞きたいなー、ユリの話…。」

 2人の目はまだ輝いていた。困る百合は、大切なことを思い出した。

「あ…その日、花束をもらいました。百合の花束…。」

 同じように叫ぶ2人。

「キャー!」
「やっぱりロマンチックー!」

 2人の騒ぎよう。百合は聞いてみる。

「そうなんですか…?」
「そう!ロマンチック!そんなふうに言ってくれて花束まで…そんな人いないよー??」
「百合も純粋だし、きっと彼氏も純粋な人なんだねー!」

 すると、ビールを飲んだ葵が思い付いたように言う。

「これからどうするか、ユリに決めてほしかった…。自分が返事を待つくらい…。」
「どうしたんですか?」

 問い掛ける百合に葵は答える。

「すごい、いい人なんじゃないかなって思ったの、ユリの彼氏。自分を押し付けたりしないで、ユリのこと、ユリの性格、ユリの全部を考えられる人。だからそういう告白だったんじゃないかなって思った。」

 すると舞も言う。

「確かに…ガンガン押し付けられたら、ユリ怖がっちゃいそう。いくら好きな人でも。そうじゃない?」

 百合は答えに困る。思ったことを素直に言った。

「わかりません…。ずっとやさしい人なので、初めからずっと…。」

 葵と舞はまた肩を寄せ合う。

「何この惚気。これから毎日聞かされるの?」
「えーそれきつい。毎日はやめてね、ユリ。」
「そんな…惚気なんかじゃ…。」

 2人はいつものように優しかった。

「うーそ!言いたいこと、言いたい時にどんどん言ってね!」
「ユリの話、いつでも何でも聞く!」

 百合は照れながら礼を言う。

「ありがとうございます…。」

 葵は百合をじっと見る。

「ユリの彼氏…うらやましいなぁ…。」
「え?なんですか?」

 舞が答える。百合の頬をつつく。

「彼氏はこんな可愛い顔がいつでも見られるんだよ?しかも独り占め!」
「え?え?」
「じゃあ、改めて乾杯しよ!ユリ!おめでとう!」
「かんぱーい!」

 3人の宴が続く。