・
・【サラサラと食べたい】
・
季節は7月。
どんどん熱くなっていく太陽。
僕は家に帰っても、ノエルちゃんの料理の準備をする日があって、ついに、満を持して、その日がやって来たといった感じだった。
給食が終わって、昼休みの時間にノエルちゃんが元気に僕のところへやって来た。
ちなみに胃はあれから良くなったみたいで、もう変に唸ることは……いや、あることはある。
でも胃が痛そうな感じではないので、どうやら別の理由みたいだ。
それが分かれば、またその部位に効能がある料理を作れるのにな。
聞いてもあんまり答えてくれない。
まだノエルちゃんの信頼を完全に勝ち取っていないって感じかな。
結構料理作っているのに、少し寂しい。
まあそんなことは置いといて、ノエルちゃんが話し掛けてきた。
「最近夏バテ! サラサラと食べられる料理が食べたい!」
相変わらずノエルちゃんのワガママ声はデカい。
基本僕に対してはモジモジしているところもあるんだけども、ワガママの時はやけにデカく、ハッキリしている。
その声に反応した紗英が僕の元にやって来た。
「じゃあまたそういった食材を採りに行こうぜ!」
すると、ノエルちゃんが今度はモジモジしながら、
「その食材採り、大変なのっ?」
と聞いてきたので、僕は普通に、
「サラサラと食べられる料理はそうだなぁ、アマチャヅルにしようと思うから、今回はちょっと大変かもしれないなぁ。地面がぬかるんでいるところにある野草だし、ツルは根を張っているから採りづらいし」
と答えると、ノエルちゃんはう~んと何かを考えてから、
「じゃっ、じゃあっ、大変ならいいけども……」
と少し小さな声でそう言った。
”大変がいい”ってどういう意味だろうと思った。
でも少し考えたら答えが出た。
「もしかするとノエルちゃんも一緒に採取したかったの?」
そう言うと、図星といった感じにノエルちゃんの体が揺れたので、まさしくそうらしい。
「ノエルちゃんも一緒に採取行く?」
と僕は聞くと、ノエルちゃんは
「いや……大変ならいいかな……服とか汚したくないし……」
それに対して、紗英は
「やっぱり都会っ子はぬかるんだところ苦手だろうし、いつも通りノエルは休んでいるといいぞ!」
と言ってノエルの背中を優しく叩いた。
「う、うん……」
そう言ってノエルちゃんは席に戻った。
紗英はそのまま僕の隣にいて、
「というかアマチャヅルって何?」
と言ってきたので、僕は驚いてしまった。
「いやぬかるんだところとか言っていたじゃないか!」
「それは先に誠一が言ったじゃないか」
「そうだけども! ……まあじゃあ、また放課後ねっ」
そう言うと紗英は大きく頷いて、そしていつも通り校庭へ遊びに行った。
さて僕は図書室に行って、料理の勉強でもしようっと。
昼休みも終わり、授業も終わり、放課後になって、早速紗英と合流した。
紗英が大声で叫ぶ。
「アマチャヅル! 何か甘そうだな! でもそんなことない! 何故なら砂糖はサトウキビしかとれないから!」
「いや砂糖は他の野菜からも採れるし、あとアマチャヅルは実際甘いよ」
「甘いのか! すごいな! それ!」
「まあとにかく採取しながら説明するよ」
僕は校庭の裏手の、比較的いつも湿っているような場所へ入っていき、アマチャヅルを指差した。
それを見た紗英が、
「これがアマチャヅルね、もろツルじゃん」
「そりゃツル植物だからね!」
「妙に毛が生えている……熊?」
「毛が生えているイコール熊って! これはどう見てもツルじゃないか! ほっそい緑じゃないか!」
僕がそうツッコむと、紗英は全くもうと言った感じに笑いながらこう言った。
「熊も産まれたてはホソホソの緑だろ」
「全然そんなことないよ! 確実に緑ではないよ! こんな鮮やかな緑色ではないよ!」
「緑のシャツ着ていたら?」
「そんなキャラクターみたいなことはないよ! シャツとか着ないよ!」
そうツッコむと、ハァと溜息をついてから紗英が
「夢無さ過ぎるだろ」
と、呆れるように言ったので、
「熊がシャツ着てて何の夢があるんだ!」
と今日一の声でツッコんだ。
しかし紗英のボケまくりは止まらない。
「熊がシャツ着てたら、いよいよ進化かって思うでしょ」
「だとしたら怖いよ! 熊が進化したら人間太刀打ちできないよ!」
「いやもう友好関係結ぶから。もう森を荒らさないって」
「いや多分一方的な契約! 熊は人間に何してくれるのっ?」
というツッコミには自信満々の顔で、
「シャツ買う」
「いやちょっとした貿易のみ!」
「安ければ買う」
「かなりシビアな消費者なだけ! 案の定、熊が知恵つけたら一方的な展開になっている!」
とツッコむと、紗英はその場に急にしゃがみ込み、
「で、アマチャヅル採取するの? しないの?」
「いやするよ! 紗英が変なこと言うから、それへの対処でいっぱいいっぱいだっただけだよ!」
「じゃあもっと変なこと言おうかっ」
と言って何だか怪しく笑ったので、何を言い出すのかと思ったら、
「やっぱり誠一と一緒に喋るの楽しい! ずっと一緒にいたい!」
といつものことだったので、ホッとしていると、
「何か誠一のこと独占したいぜ!」
と大笑いした。
いや、独占したいって、どういう意味?
紗英は思ったことをそのまま口にする。
だからそのまま独占したいという意味なんだろうけども、いやでも独占するってどういうこと、とか、いろいろ考えていると、紗英が口角を上げながら
「何かノエルのために料理作るとか、ちょっと嫌かもしんないなぁ。もっと俺だけ見てほしいって感じだ!」
と言ったので、僕は『えっ?』と思った。
というか、それって、まさしく、恋とか、そういった感じのヤツじゃ……。
いや僕もよくは知らないから、全然詳しくないから分からないけども。
でも、でも、マンガとかでよくそういう描写があるから……。
「えっと、そ、そっか……うん、ありがとう……」
とよく分からない相槌を打った僕は、紗英の言葉をかき消すようにアマチャヅルの採取を始めた。
「できるだけ若い葉を採る感じでっ」
何だか会話を最小限にしないと気が持ってかれそうで。
そこから僕と紗英は無言でアマチャヅルの採取をした。
そしてその静かな間を切り裂いたのは、紗英だった。
「……迷惑か?」
明らかに不安そうにそう言った紗英。
僕は、どう思っているのか。
紗英のことは友達で、師匠で、それ以上に思うことなんて、あるのかな、ないのかな。
いやでも。
「迷惑ではないよ、というかそう思ってくれることってすごく有り難いことだと思う」
「ゴメンな、俺もよく分かんないんだ。でもノエルと誠一が仲良さげに喋っているの見ていたら、何か、気になっちゃって」
何を言おう。
いや考えても何も出てこない。
こういった時は考えずに出てきた言葉が正解だ。
「分かんないでいいと思うよ。僕も分からないから。きっと分からないまま変わっていくんだと思う。気付いた時、ふと振り返った時、そうだったと後付けのように言葉が出てくるだけだと思うから」
そう僕が言うと、紗英は少し息を整えてから
「やっぱり優しいな、誠一は」
と言って満面の笑みを浮かべた。
いや優しいことは言っていないような気もしたけども、とりあえず頷いた。
そしてアマチャヅルの採取を終えて、それとまた少し別の野草を採取して、僕と紗英はそれぞれ家路に着いた。
・【サラサラと食べたい】
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季節は7月。
どんどん熱くなっていく太陽。
僕は家に帰っても、ノエルちゃんの料理の準備をする日があって、ついに、満を持して、その日がやって来たといった感じだった。
給食が終わって、昼休みの時間にノエルちゃんが元気に僕のところへやって来た。
ちなみに胃はあれから良くなったみたいで、もう変に唸ることは……いや、あることはある。
でも胃が痛そうな感じではないので、どうやら別の理由みたいだ。
それが分かれば、またその部位に効能がある料理を作れるのにな。
聞いてもあんまり答えてくれない。
まだノエルちゃんの信頼を完全に勝ち取っていないって感じかな。
結構料理作っているのに、少し寂しい。
まあそんなことは置いといて、ノエルちゃんが話し掛けてきた。
「最近夏バテ! サラサラと食べられる料理が食べたい!」
相変わらずノエルちゃんのワガママ声はデカい。
基本僕に対してはモジモジしているところもあるんだけども、ワガママの時はやけにデカく、ハッキリしている。
その声に反応した紗英が僕の元にやって来た。
「じゃあまたそういった食材を採りに行こうぜ!」
すると、ノエルちゃんが今度はモジモジしながら、
「その食材採り、大変なのっ?」
と聞いてきたので、僕は普通に、
「サラサラと食べられる料理はそうだなぁ、アマチャヅルにしようと思うから、今回はちょっと大変かもしれないなぁ。地面がぬかるんでいるところにある野草だし、ツルは根を張っているから採りづらいし」
と答えると、ノエルちゃんはう~んと何かを考えてから、
「じゃっ、じゃあっ、大変ならいいけども……」
と少し小さな声でそう言った。
”大変がいい”ってどういう意味だろうと思った。
でも少し考えたら答えが出た。
「もしかするとノエルちゃんも一緒に採取したかったの?」
そう言うと、図星といった感じにノエルちゃんの体が揺れたので、まさしくそうらしい。
「ノエルちゃんも一緒に採取行く?」
と僕は聞くと、ノエルちゃんは
「いや……大変ならいいかな……服とか汚したくないし……」
それに対して、紗英は
「やっぱり都会っ子はぬかるんだところ苦手だろうし、いつも通りノエルは休んでいるといいぞ!」
と言ってノエルの背中を優しく叩いた。
「う、うん……」
そう言ってノエルちゃんは席に戻った。
紗英はそのまま僕の隣にいて、
「というかアマチャヅルって何?」
と言ってきたので、僕は驚いてしまった。
「いやぬかるんだところとか言っていたじゃないか!」
「それは先に誠一が言ったじゃないか」
「そうだけども! ……まあじゃあ、また放課後ねっ」
そう言うと紗英は大きく頷いて、そしていつも通り校庭へ遊びに行った。
さて僕は図書室に行って、料理の勉強でもしようっと。
昼休みも終わり、授業も終わり、放課後になって、早速紗英と合流した。
紗英が大声で叫ぶ。
「アマチャヅル! 何か甘そうだな! でもそんなことない! 何故なら砂糖はサトウキビしかとれないから!」
「いや砂糖は他の野菜からも採れるし、あとアマチャヅルは実際甘いよ」
「甘いのか! すごいな! それ!」
「まあとにかく採取しながら説明するよ」
僕は校庭の裏手の、比較的いつも湿っているような場所へ入っていき、アマチャヅルを指差した。
それを見た紗英が、
「これがアマチャヅルね、もろツルじゃん」
「そりゃツル植物だからね!」
「妙に毛が生えている……熊?」
「毛が生えているイコール熊って! これはどう見てもツルじゃないか! ほっそい緑じゃないか!」
僕がそうツッコむと、紗英は全くもうと言った感じに笑いながらこう言った。
「熊も産まれたてはホソホソの緑だろ」
「全然そんなことないよ! 確実に緑ではないよ! こんな鮮やかな緑色ではないよ!」
「緑のシャツ着ていたら?」
「そんなキャラクターみたいなことはないよ! シャツとか着ないよ!」
そうツッコむと、ハァと溜息をついてから紗英が
「夢無さ過ぎるだろ」
と、呆れるように言ったので、
「熊がシャツ着てて何の夢があるんだ!」
と今日一の声でツッコんだ。
しかし紗英のボケまくりは止まらない。
「熊がシャツ着てたら、いよいよ進化かって思うでしょ」
「だとしたら怖いよ! 熊が進化したら人間太刀打ちできないよ!」
「いやもう友好関係結ぶから。もう森を荒らさないって」
「いや多分一方的な契約! 熊は人間に何してくれるのっ?」
というツッコミには自信満々の顔で、
「シャツ買う」
「いやちょっとした貿易のみ!」
「安ければ買う」
「かなりシビアな消費者なだけ! 案の定、熊が知恵つけたら一方的な展開になっている!」
とツッコむと、紗英はその場に急にしゃがみ込み、
「で、アマチャヅル採取するの? しないの?」
「いやするよ! 紗英が変なこと言うから、それへの対処でいっぱいいっぱいだっただけだよ!」
「じゃあもっと変なこと言おうかっ」
と言って何だか怪しく笑ったので、何を言い出すのかと思ったら、
「やっぱり誠一と一緒に喋るの楽しい! ずっと一緒にいたい!」
といつものことだったので、ホッとしていると、
「何か誠一のこと独占したいぜ!」
と大笑いした。
いや、独占したいって、どういう意味?
紗英は思ったことをそのまま口にする。
だからそのまま独占したいという意味なんだろうけども、いやでも独占するってどういうこと、とか、いろいろ考えていると、紗英が口角を上げながら
「何かノエルのために料理作るとか、ちょっと嫌かもしんないなぁ。もっと俺だけ見てほしいって感じだ!」
と言ったので、僕は『えっ?』と思った。
というか、それって、まさしく、恋とか、そういった感じのヤツじゃ……。
いや僕もよくは知らないから、全然詳しくないから分からないけども。
でも、でも、マンガとかでよくそういう描写があるから……。
「えっと、そ、そっか……うん、ありがとう……」
とよく分からない相槌を打った僕は、紗英の言葉をかき消すようにアマチャヅルの採取を始めた。
「できるだけ若い葉を採る感じでっ」
何だか会話を最小限にしないと気が持ってかれそうで。
そこから僕と紗英は無言でアマチャヅルの採取をした。
そしてその静かな間を切り裂いたのは、紗英だった。
「……迷惑か?」
明らかに不安そうにそう言った紗英。
僕は、どう思っているのか。
紗英のことは友達で、師匠で、それ以上に思うことなんて、あるのかな、ないのかな。
いやでも。
「迷惑ではないよ、というかそう思ってくれることってすごく有り難いことだと思う」
「ゴメンな、俺もよく分かんないんだ。でもノエルと誠一が仲良さげに喋っているの見ていたら、何か、気になっちゃって」
何を言おう。
いや考えても何も出てこない。
こういった時は考えずに出てきた言葉が正解だ。
「分かんないでいいと思うよ。僕も分からないから。きっと分からないまま変わっていくんだと思う。気付いた時、ふと振り返った時、そうだったと後付けのように言葉が出てくるだけだと思うから」
そう僕が言うと、紗英は少し息を整えてから
「やっぱり優しいな、誠一は」
と言って満面の笑みを浮かべた。
いや優しいことは言っていないような気もしたけども、とりあえず頷いた。
そしてアマチャヅルの採取を終えて、それとまた少し別の野草を採取して、僕と紗英はそれぞれ家路に着いた。