・
・【オオバキボウシ収穫】
・
「オオバキボウシって何だっけ?」
放課後、紗英と校庭を歩いている時に聞かれた。
「オオバキボウシというのは、別名ウルイとか、ヤマカンピョウとか言われるモノで、まあこれも食べられる野草なんだ」
「いやまあそうだろうけども、スベリヒユと何が違うんだよ。もしかすると採取しやすいのか?」
「ううん、採取の難易度は普通だよ、ほら、あった」
僕は校庭の中をちょろちょろと流れている小川の傍にあったオオバキボウシを指差した。
「何かアスパラガスみたいだな」
「実際アスパラガスのように一本の軸になっているわけじゃなくて、葉っぱが巻かれた状態で出てきているんだ」
「でもまあヒョロヒョロ・ミサイルだな」
「いやヒョロヒョロならもうミサイルとしての尊厳無いでしょっ、綺麗な黄緑色だし」
僕と紗英はオオバキボウシの近くにしゃがんだ。
紗英はオオバキボウシを指でピンピンはじきながら、
「瑞々しいな、まるで水」
「いやその場合は水でたとえないでしょ、果物とかでたとえなよ」
「いやでも頑なに水だな、だって水って瑞々しいじゃん」
「水は正直瑞々しいとは言わないよ、水はもう、マジで水だよ、水でしかないよ」
すると、紗英はどうしようもないな、といった感じの表情を浮かべながらこう言った。
「いや、瑞々しいイコール水だろ、二度も”ミズ”って言ってるんだから間違いない」
「じゃあもう分かったよ、こっちが折れるよ、紗英もノエルちゃんみたいに頑固だね!」
「いやノエルよりは頑固じゃない、ノエルは岩だし、俺は砂まぶした粘土くらい」
「砂まぶしてあったら、もはや粘土も岩だよ」
「じゃあ砂糖まぶした揚げパン」
「急においしそうになった!」
「だろっ!」
と親指を立てながら言った紗英。
いや。
「おいしそうに言うことを正解としていないから! そんな嬉しそうにされても分からないよ!」
「いやもうおいしそうは正解だろ! おいしそうなだけで全て正解だろ! この世は!」
「そんな単純じゃないよ、世界は!」
「いやでも、おいしそうが不正解な時はほぼ無いだろ?」
「確かにそうかもしれないけどもっ」
そう僕が言ったことで、満足げに頷いた紗英。
いやいや。
「何でスベリヒユからオオバキボウシにするのかの話、聞きたくない?」
「それよりも揚げパンに鰹節をまぶしてみたい」
「急に何の話! あとおいしそうじゃない! 不正解じゃん!」
「俺、最近、体から、鰹節って出るんじゃないかなと思い始めているんだ」
「出ないよ! 出たと思ったモノはきっと垢だよ!」
僕がそうツッコむと、紗英はムッとした表情になりながら、
「垢なんてない! 綺麗にしているから! その垢を越えた向こう側から鰹節が出てきそうなんだよ!」
「垢を越えた向こう側は皮膚だよ! グロテスクな話になっちゃうから止めてよ!」
「じゃあもう必殺技! 必殺技的に鰹節手裏剣が手と手を重ねた隙間から出るんだ!」
「また必殺技になった! 何で紗英の必殺技は体から食べ物が最多なんだ!」
「やっぱり食べ物っていいよね、という想いが強いです」
と言いながら、頭をぺこりと下げた紗英。
「いや別に頭は下げなくていいよ、というかもうこっちが頭下げるからオオバキボウシにする理由を話させてよ」
「いいよ、そんなことしなくて、普通に理由を話してくれよ、気になってはいるんだ」
「じゃあ必殺技がどうとか言わないでよ……」
「教えて、教えてっ」
やっと言える流れになったので、僕は一息ついて、ちゃんと覚えたことを言えるようにしてから話し出した。
「オオバキボウシは健胃(けんい)や整腸(せいちょう)などに効く、漢方薬のような一面があるんだ」
「なるほど、偉くなれるわけだ」
「いや権威じゃないよ、権利に威力の権威じゃなくて、健やかな胃で健胃だよ」
「胃が健康になるってこと?」
「そうそう」
紗英は分かったらしく、ニコニコしながら頷くと、こう言った。
「伊賀、健康になるか……伊賀、忍者か! 鰹節手裏剣!」
そう言って手のひらを手のひらで、すごい速度でこすり合わせたので、全然分かっていないと思った。
「伊賀って、伊賀忍者の伊賀じゃなくて、胃! 内臓の胃! が! 健康になるってこと!」
「じゃあ鰹節手裏剣は関係無いということか?」
「いやまあ伊賀忍者の時点で鰹節手裏剣は関係無いよ!」
「まあまあ、本当はちゃんと分かっているよ、大丈夫大丈夫、胃が健康になるってことか……それ! ノエルにうってつけじゃん!」
「いや今そのテンション! やっぱり分かっていなかったんじゃないのっ!」
「そんな野草があるなんて、すごいな野草! もうお医者さんじゃん!」
「いやまあ本当はちゃんとお医者さんに見てもらったほうがいいんだけども、そういう効能がある野草もあるということで」
「サバイバルって食えればいいと思っていたけども、そういうのもあるってのは勉強になるなぁ」
そう言ってどこからともなくメモ帳を取り出して、書き始めた紗英。
そういう目指すべき方向に対して勤勉なところは、本当に尊敬できるなぁ。
というわけで。
「今日はこのオオバキボウシを採取します」
メモを書き終えた紗英は、
「俺もちゃんと手伝うぜ! 忍者並の素早さでな!」
と言って明るく笑った。
そして僕たちはオオバキボウシを採取していった。
・【オオバキボウシ収穫】
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「オオバキボウシって何だっけ?」
放課後、紗英と校庭を歩いている時に聞かれた。
「オオバキボウシというのは、別名ウルイとか、ヤマカンピョウとか言われるモノで、まあこれも食べられる野草なんだ」
「いやまあそうだろうけども、スベリヒユと何が違うんだよ。もしかすると採取しやすいのか?」
「ううん、採取の難易度は普通だよ、ほら、あった」
僕は校庭の中をちょろちょろと流れている小川の傍にあったオオバキボウシを指差した。
「何かアスパラガスみたいだな」
「実際アスパラガスのように一本の軸になっているわけじゃなくて、葉っぱが巻かれた状態で出てきているんだ」
「でもまあヒョロヒョロ・ミサイルだな」
「いやヒョロヒョロならもうミサイルとしての尊厳無いでしょっ、綺麗な黄緑色だし」
僕と紗英はオオバキボウシの近くにしゃがんだ。
紗英はオオバキボウシを指でピンピンはじきながら、
「瑞々しいな、まるで水」
「いやその場合は水でたとえないでしょ、果物とかでたとえなよ」
「いやでも頑なに水だな、だって水って瑞々しいじゃん」
「水は正直瑞々しいとは言わないよ、水はもう、マジで水だよ、水でしかないよ」
すると、紗英はどうしようもないな、といった感じの表情を浮かべながらこう言った。
「いや、瑞々しいイコール水だろ、二度も”ミズ”って言ってるんだから間違いない」
「じゃあもう分かったよ、こっちが折れるよ、紗英もノエルちゃんみたいに頑固だね!」
「いやノエルよりは頑固じゃない、ノエルは岩だし、俺は砂まぶした粘土くらい」
「砂まぶしてあったら、もはや粘土も岩だよ」
「じゃあ砂糖まぶした揚げパン」
「急においしそうになった!」
「だろっ!」
と親指を立てながら言った紗英。
いや。
「おいしそうに言うことを正解としていないから! そんな嬉しそうにされても分からないよ!」
「いやもうおいしそうは正解だろ! おいしそうなだけで全て正解だろ! この世は!」
「そんな単純じゃないよ、世界は!」
「いやでも、おいしそうが不正解な時はほぼ無いだろ?」
「確かにそうかもしれないけどもっ」
そう僕が言ったことで、満足げに頷いた紗英。
いやいや。
「何でスベリヒユからオオバキボウシにするのかの話、聞きたくない?」
「それよりも揚げパンに鰹節をまぶしてみたい」
「急に何の話! あとおいしそうじゃない! 不正解じゃん!」
「俺、最近、体から、鰹節って出るんじゃないかなと思い始めているんだ」
「出ないよ! 出たと思ったモノはきっと垢だよ!」
僕がそうツッコむと、紗英はムッとした表情になりながら、
「垢なんてない! 綺麗にしているから! その垢を越えた向こう側から鰹節が出てきそうなんだよ!」
「垢を越えた向こう側は皮膚だよ! グロテスクな話になっちゃうから止めてよ!」
「じゃあもう必殺技! 必殺技的に鰹節手裏剣が手と手を重ねた隙間から出るんだ!」
「また必殺技になった! 何で紗英の必殺技は体から食べ物が最多なんだ!」
「やっぱり食べ物っていいよね、という想いが強いです」
と言いながら、頭をぺこりと下げた紗英。
「いや別に頭は下げなくていいよ、というかもうこっちが頭下げるからオオバキボウシにする理由を話させてよ」
「いいよ、そんなことしなくて、普通に理由を話してくれよ、気になってはいるんだ」
「じゃあ必殺技がどうとか言わないでよ……」
「教えて、教えてっ」
やっと言える流れになったので、僕は一息ついて、ちゃんと覚えたことを言えるようにしてから話し出した。
「オオバキボウシは健胃(けんい)や整腸(せいちょう)などに効く、漢方薬のような一面があるんだ」
「なるほど、偉くなれるわけだ」
「いや権威じゃないよ、権利に威力の権威じゃなくて、健やかな胃で健胃だよ」
「胃が健康になるってこと?」
「そうそう」
紗英は分かったらしく、ニコニコしながら頷くと、こう言った。
「伊賀、健康になるか……伊賀、忍者か! 鰹節手裏剣!」
そう言って手のひらを手のひらで、すごい速度でこすり合わせたので、全然分かっていないと思った。
「伊賀って、伊賀忍者の伊賀じゃなくて、胃! 内臓の胃! が! 健康になるってこと!」
「じゃあ鰹節手裏剣は関係無いということか?」
「いやまあ伊賀忍者の時点で鰹節手裏剣は関係無いよ!」
「まあまあ、本当はちゃんと分かっているよ、大丈夫大丈夫、胃が健康になるってことか……それ! ノエルにうってつけじゃん!」
「いや今そのテンション! やっぱり分かっていなかったんじゃないのっ!」
「そんな野草があるなんて、すごいな野草! もうお医者さんじゃん!」
「いやまあ本当はちゃんとお医者さんに見てもらったほうがいいんだけども、そういう効能がある野草もあるということで」
「サバイバルって食えればいいと思っていたけども、そういうのもあるってのは勉強になるなぁ」
そう言ってどこからともなくメモ帳を取り出して、書き始めた紗英。
そういう目指すべき方向に対して勤勉なところは、本当に尊敬できるなぁ。
というわけで。
「今日はこのオオバキボウシを採取します」
メモを書き終えた紗英は、
「俺もちゃんと手伝うぜ! 忍者並の素早さでな!」
と言って明るく笑った。
そして僕たちはオオバキボウシを採取していった。