・【ノドに良い料理って何?】


「ノドに良い料理ということは逆算的にノドに良い食材を使うってことだよね」
「というと、やっぱりハチミツじゃないか。あとは刺激的な料理にしないってことだな」
「刺激的な料理って?」
「辛みを使った料理ってこと。辛みは厳密には味覚じゃなくて痛みだからな。辛みのある食材は口の中やノドとかを痛めてしまうんだ」
「じゃあここはついにカフェの本番、甘いケーキだね!」
「何だよカフェの本番って、いっつも大切な本番だから」
「えっと、じゃあ本領発揮という意味!」
「というかカフェにはカレーもあるんだから、刺激的なカレーも本領発揮になるだろ」
「揚げ足ばっかりとるな!」
「いやいや、意味分かんないことを言うからだろ」
「大体分かるだろ!」
「本領発揮はまだしも本番は分からない、オミソはいつも人生を練習だと思って生きているのか?」
「この前言っていたじゃん! 子供なら失敗しても許されるって!」
「練習気分で失敗したら怒られるだろ。本気でやって失敗するなら仕方ないって話だ」
「何だよ琢磨って。すぐ、こう言ったらああ言って、ニュアンスで大体分かるでしょ!」
「ニュアンスとか大体とか好きだな、そんな曖昧なことだけじゃないだろ」
「だからレシピはいっつもちゃんと量って作ってます!」
「まあそうだけどさ」
「というか琢磨の料理は曖昧じゃん! 包丁も使わず、ゆるゆるゆるゆる手ばかりで!」
「まあそれを言われるとなぁ、なんともだ」
「なんともだ、て! ちゃんと包丁使えるようになれよ!」
「そうか、確かにそうだ、それに、よくよく考えれば曖昧なこともあるもんな、うん」
 そう言って何か頬を赤くした琢磨。
 おやおや? 包丁を使えないと言われて怒っちゃったのかな?
 可愛い頬だこと、オホホホホ。
 ここはイジワルしてやろうかな。
 この赤くなった頬をいじってやろうかな?
 でも言い返せないよな? 包丁使えないんだもんな?
「琢磨、頬赤くなってるぞぃ?」
「えっ! マジかっ!」
 そう言って何だか必要以上に驚く琢磨。
 いや包丁を使えないことディスられて怒っているから頬が赤くなっていることは自分で分かるだろ。
「いやっ、別に赤くなって、ないし……」
 さてと、包丁を使えないということを改めて言わせてやるかな……自らなぁっ!
「あれれれ? 琢磨の曖昧なことって何かな? 何かなぁ?」
「……くっ、コイツ、俺の気も知らないで……」
 知ってる知ってる、包丁を使えないことが恥ずかしいんだろう?
「いつか言う! いつか言うから今は言わない!」
「何で今は言わないんですかぁ? えー? 何で? 何でぇ?」
「……もっと、好きにさせてから言う」
 ……好きにさせてから言う?
 どういう意味だ?
 私に、好きに何をやらせてから言うんだ。
 私に、好きに料理をやらせてから言う、かな?
 いやいや私が好きに料理をしたあと言ったら、もっとみじめになるだろ。
 包丁できない自分がもっとみじめになるだろう。
 まあいろいろ言われて混乱しているのかな?
 可愛いところもあるじゃないか。
 いいだろう、この辺で許してやるか。
 なんせ私はオトナだからな。
 子供じゃないから。
 全部分かってるから。
 さて。
「まあ包丁の話はいいや、今回のケーキは多分包丁使わないし。使ったとしても柔らかい果物を切るだけだ。それくらい私は余裕だしなっ」
「……包丁って……まあいいや、うん、包丁な、包丁」
 ちょっと呆れているような表情を浮かべながら包丁包丁言った琢磨。
 まあそうか、しつこくディスったからちょっと呆れちゃったわけか。
 いけない、いけない、ちょっと大人げなかったかな。
 オトナなのに。
 私は琢磨と比べて、すごいオトナなのに。
「じゃあケーキということで、何ケーキがいいかな」
「やっぱりそうだな、優しい、刺激の少ないケーキがいいということだから……」
 そして私と琢磨は二人で一緒にレシピ本やハーブの本を見ながら、料理のレシピを決めていった。