・
・【サヨナさんは威勢が良い】
・
「う~、筋肉痛だよ……」
妻籠健康マラソンから三日が経ったけども、未だに体が痛い。
もう歳かもしれない。
小学五年生から老化が始まっているのかもしれない。
「オミソ、ババアじゃん」
いやだからって!
ハッキリ言うな!
「全然ババアじゃないし! ピチピチの鮮魚だし!」
「皮膚がだるんだるんの深海魚な」
「めちゃくちゃハリがある鰹だわ!」
「やたら黒い鰹節にしかならなくて、すぐ捨てられたヤツ」
「全然ちょうどいい色になるし! 高級なたこ焼きに掛けられるし!」
「低級な政治家に食べられて」
「政治家は全部高級だわ!」
「だから誰がなっても一緒だと思って大人になっても投票に行かないヤツ」
「小学五年生からもう政治に興味津々だし!」
「裏金、裏金って」
「全然そういうところに目がいってなかったし! 安心な未来を作ることしか考えていないし!」
「オミソの未来だけ真っ暗」
「そんなピンポイントな政策無いし!」
「オミソ税」
「何か料亭にかかった税金みたいだし! 私じゃないし!」
「オミソは歩数分、毎日税金をとられる」
「いや動かないヤツのほうがダメだろ!」
「まさにそう、筋肉痛で全然動けていないオミソには税金をかけるべき」
「そんなっ、いいじゃん、いつも私のほうが接客多いんだから、琢磨もたまには動けよっ」
「俺はただの手伝いだもんな、別にいなくなったっていいんだぜ?」
何だよ。
そんな悪口言うんだったら、いっそのこといなくなれよ。
まあ私はオトナだから、そんな酷いことは言わないけどね。
あーぁ、琢磨が何も言わず、ただただ働くロボットだったら良かったのになぁ。
あっ。
「いらっしゃいませ!」
和智埜神社祭礼のあやかしさんのサヨナさんだ。
サヨナさんは男らしくて私に優しいから、結構好きなあやかしさんなんだよね。
でも琢磨はこの表情。
苦虫を噛み潰したような表情。
何で琢磨はサヨナさんに対しては、いつもこんな感じなんだろう。
サヨナさんみたいにカッコイイ出で立ちに嫉妬しているのかな。
はーぁ、これだから男子は……子供なんだから。
「今日も可愛いな! 美園ちゃんはっ!」
そう言って私の頭をナデナデしてくれたサヨナさん。
でもいつもより回数が少ない。
あっ、琢磨がサヨナさんの手を掴んだからだ。
「サヨナさん、オミソは子供じゃないんで、子供扱いしないで下さい」
いやまあ確かにそうだけども、琢磨が言うな。
いつも子供を相手するみたいに馬鹿にしてるだろ。
「おっと、それは悪かった! でも俺は子供扱いしたつもりはないんだっ、あまりにも美園ちゃんが可愛くて、お近づきになりたくてさっ!」
サヨナさんは会う度に可愛い可愛いと言ってくれて有難い。
何だか気分が上がるなぁ。
「美園ちゃん! 今日も仕事頑張ってるみたいじゃん! たまには休んでもいいよ……と言いたいところだけども、頑張っている美園ちゃんを見ると、こっちも元気が出るからさ、つい頑張っててもらいたくなるんだよねっ!」
わーい!
元気が出るとか言われると本当に嬉しい!
ちゃんと見ててくれている感じも何かウキウキするかもっ!
「いやいやいや、何”見”てんだよ、このロリコンあやかし」
「ロリコン? 俺はそうやって人を年齢で見ないんだ、全ての女性は等しく接していきたいからね。そんなことをいちいち気にしていたら疲れるだろ、琢磨。今日は休んだらどうだ?」
おっ、サヨナさんから休んだらと言われた。
自ら『いなくなってもいいんだぜ?』とかウザいこと言ってたし、これで帰るかな?
「ずっとここにいてやるよ、少なくてもオマエがいるうちはなっ!」
いやいなくならないんかい!
渡りに船と思ってもいいのに!
んで、サヨナさんがいるうちはいるってどういうことだよっ。
あんまり相性良くないならば、逆だろっ。
サヨナさんがいる時だけいなくなって、それ以外の時はいろよ。
まあいなくていいけども。
いや働き手はほしいから、結果いてくれたほうがギリギリいいけども。
「あんまりカリカリする男はモテないぜ、まあ琢磨は何してもモテないか」
「別に、モテるとかどうでもいいし」
「まあ小学五年生には難しい話かっ」
「というかそんな不特定多数に良い顔して楽しいか? それよりも一人の女性から愛されたほうがいいんじゃないか?」
「ほほう! 小学五年生にしては良い恋愛観じゃないか! じゃあ俺は美園ちゃんから愛されようかなっ!」
そう言ってウィンクを飛ばしてきたサヨナさん。
いや、カッコイイなぁ。
真っ白の服に透き通った肌、短髪の茶髪が爽やかだ。
「だからやめろって! ドロリコン!」
「ドロリコンってなんだよ! 泥みたいに言うな!」
「オマエは誰かと愛し合ってもすぐ泥の離婚劇になる!」
「おまっ! 泥だけに飽き足らず、余ったリコンという言葉まで使いやがって!」
「変態野郎がっ!」
「ついに直球で貶めてきた! そういう口の悪いところは本当に直したほうがいいぞ!」
珍しく琢磨が熱くなって、語気を強めているなぁ。
いやまあサヨナさんと喋っているといつもこんな口喧嘩のトーンになるけども。
ちなみに私と喋っている時も言っている言葉は似たようなモノだけども、琢磨は笑いながら喋っている。
だから私のことを余裕で馬鹿にしているんだ。腹立つ。
で、今は余裕無く、攻撃しているってところかな。
それにしても私がサヨナさんから好かれることの何が嫌なのかな。
あぁ、私が誰かから好かれているだけでムカつくってことね。
私を最底辺だと思っているから。
……めちゃくちゃ腹立つじゃん。
ここは。
「サヨナさんの言う通り、口の悪いところ直したほうがいいと思う!」
「やっぱりそうだな! 美園ちゃんもそう言っているんだ! 琢磨! まず俺との言い合いをやめろ!」
「……くっ、とにかくっ! オミソに近付くんじゃねぇ!」
何でそんな私をハブらせようとしてくるんだよ。
孤立させて馬鹿にしようとしてくるんだよ。
全く。
「ほほう! やっぱりそうか! 琢磨!」
「……! そうかって、何だよ……」
「いやいやいや! 本人以外にはバレバレだってことだよ!」
「いっ! 言うんじゃねぇぞ!」
「俺は野暮じゃないからな、大丈夫だ、でも想ってるなら早く言えよ」
「うるせぇよ! 口出しするんじゃねぇっ!」
……何の話だろうか。
もしや、琢磨は今のこの私を馬鹿にしている感じ」以上に、もっと馬鹿にする計画があるのかっ。
怖すぎる! いやでもサヨナさんにその計画を聞こうかな! 分かってるみたいだし!
でも怖い! 自ら聞くって怖すぎる!
ここは知らぬが仏のスタンスで生きていこう……。
「全く、琢磨はうるさいヤツだな。ところで、今日は依頼があって来たんだ」
というと。
「こういう料理を作ってほしいみたいな話ですか?」
「美園ちゃんは勘が鋭いね、まさしくその通りだ」
やっぱり私は勘が鋭いんだ!
オトナだからなぁっ!
と、優越感に浸っていると琢磨が水を差した。
「いやどこが、勘が鋭いんだよ」
そう言った琢磨に私は思い切りツッコんだ。
「いや鋭いだろ!」
私がそう言ったあと、サヨナさんが琢磨へ不敵に笑いながらこう言った。
「ん? 琢磨、言うのか?」
「いや別に……」
一気にトーンダウンした琢磨。
というか言うとか言わないとか怖すぎる……琢磨は私に対してどんな悪口を用意しているんだ……。
いくら私の勘が鋭かったとしても、その言葉自体は察さないことにしないと……。
「ではサヨナさん! どんな料理を作ってほしいんですか!」
「俺が作ってほしい料理は精力が付く料理だ!」
「元気が出る料理ってことですか?」
「まあそうだな、これからずっと精力満タンで生きていたいからな! それに七月の下旬には和智埜神社祭礼があるから、それに向けてどんどん強くなっていきたいしな!」
「ニンニク擦って食べてろよ」
「料理にしてくれよ、できれば今風の料理が良いなっ!」
「ニンニク擦って食べてろよ」
「じゃあまた明日来るから、よろしく頼むよ! 美園ちゃん!」
そう言って私の手の甲にキスをしたサヨナさん。
なんたるキザ! でも悪くは無い!
でもそれを悪いと言うヤツがいた。
琢磨だ。
「何してんだテメェェェェ!」
そう言ってサヨナさんの背中を思い切り叩いた琢磨。
「おっ! 元気が良いなぁっ! でも俺は太鼓じゃないぜっ?」
そう言って、何事も無かったようにカフェから出て行ったサヨナさん。
フーフーと荒く肩で息をしながら怒っている琢磨。
別にいいじゃん、それくらい。
本当琢磨は私を孤立させて馬鹿にしたいんだな。
嫌なヤツだ。
こんな嫌なヤツと一緒にレシピを考えないといけないなんて。
少し憂鬱だなぁ。
・【サヨナさんは威勢が良い】
・
「う~、筋肉痛だよ……」
妻籠健康マラソンから三日が経ったけども、未だに体が痛い。
もう歳かもしれない。
小学五年生から老化が始まっているのかもしれない。
「オミソ、ババアじゃん」
いやだからって!
ハッキリ言うな!
「全然ババアじゃないし! ピチピチの鮮魚だし!」
「皮膚がだるんだるんの深海魚な」
「めちゃくちゃハリがある鰹だわ!」
「やたら黒い鰹節にしかならなくて、すぐ捨てられたヤツ」
「全然ちょうどいい色になるし! 高級なたこ焼きに掛けられるし!」
「低級な政治家に食べられて」
「政治家は全部高級だわ!」
「だから誰がなっても一緒だと思って大人になっても投票に行かないヤツ」
「小学五年生からもう政治に興味津々だし!」
「裏金、裏金って」
「全然そういうところに目がいってなかったし! 安心な未来を作ることしか考えていないし!」
「オミソの未来だけ真っ暗」
「そんなピンポイントな政策無いし!」
「オミソ税」
「何か料亭にかかった税金みたいだし! 私じゃないし!」
「オミソは歩数分、毎日税金をとられる」
「いや動かないヤツのほうがダメだろ!」
「まさにそう、筋肉痛で全然動けていないオミソには税金をかけるべき」
「そんなっ、いいじゃん、いつも私のほうが接客多いんだから、琢磨もたまには動けよっ」
「俺はただの手伝いだもんな、別にいなくなったっていいんだぜ?」
何だよ。
そんな悪口言うんだったら、いっそのこといなくなれよ。
まあ私はオトナだから、そんな酷いことは言わないけどね。
あーぁ、琢磨が何も言わず、ただただ働くロボットだったら良かったのになぁ。
あっ。
「いらっしゃいませ!」
和智埜神社祭礼のあやかしさんのサヨナさんだ。
サヨナさんは男らしくて私に優しいから、結構好きなあやかしさんなんだよね。
でも琢磨はこの表情。
苦虫を噛み潰したような表情。
何で琢磨はサヨナさんに対しては、いつもこんな感じなんだろう。
サヨナさんみたいにカッコイイ出で立ちに嫉妬しているのかな。
はーぁ、これだから男子は……子供なんだから。
「今日も可愛いな! 美園ちゃんはっ!」
そう言って私の頭をナデナデしてくれたサヨナさん。
でもいつもより回数が少ない。
あっ、琢磨がサヨナさんの手を掴んだからだ。
「サヨナさん、オミソは子供じゃないんで、子供扱いしないで下さい」
いやまあ確かにそうだけども、琢磨が言うな。
いつも子供を相手するみたいに馬鹿にしてるだろ。
「おっと、それは悪かった! でも俺は子供扱いしたつもりはないんだっ、あまりにも美園ちゃんが可愛くて、お近づきになりたくてさっ!」
サヨナさんは会う度に可愛い可愛いと言ってくれて有難い。
何だか気分が上がるなぁ。
「美園ちゃん! 今日も仕事頑張ってるみたいじゃん! たまには休んでもいいよ……と言いたいところだけども、頑張っている美園ちゃんを見ると、こっちも元気が出るからさ、つい頑張っててもらいたくなるんだよねっ!」
わーい!
元気が出るとか言われると本当に嬉しい!
ちゃんと見ててくれている感じも何かウキウキするかもっ!
「いやいやいや、何”見”てんだよ、このロリコンあやかし」
「ロリコン? 俺はそうやって人を年齢で見ないんだ、全ての女性は等しく接していきたいからね。そんなことをいちいち気にしていたら疲れるだろ、琢磨。今日は休んだらどうだ?」
おっ、サヨナさんから休んだらと言われた。
自ら『いなくなってもいいんだぜ?』とかウザいこと言ってたし、これで帰るかな?
「ずっとここにいてやるよ、少なくてもオマエがいるうちはなっ!」
いやいなくならないんかい!
渡りに船と思ってもいいのに!
んで、サヨナさんがいるうちはいるってどういうことだよっ。
あんまり相性良くないならば、逆だろっ。
サヨナさんがいる時だけいなくなって、それ以外の時はいろよ。
まあいなくていいけども。
いや働き手はほしいから、結果いてくれたほうがギリギリいいけども。
「あんまりカリカリする男はモテないぜ、まあ琢磨は何してもモテないか」
「別に、モテるとかどうでもいいし」
「まあ小学五年生には難しい話かっ」
「というかそんな不特定多数に良い顔して楽しいか? それよりも一人の女性から愛されたほうがいいんじゃないか?」
「ほほう! 小学五年生にしては良い恋愛観じゃないか! じゃあ俺は美園ちゃんから愛されようかなっ!」
そう言ってウィンクを飛ばしてきたサヨナさん。
いや、カッコイイなぁ。
真っ白の服に透き通った肌、短髪の茶髪が爽やかだ。
「だからやめろって! ドロリコン!」
「ドロリコンってなんだよ! 泥みたいに言うな!」
「オマエは誰かと愛し合ってもすぐ泥の離婚劇になる!」
「おまっ! 泥だけに飽き足らず、余ったリコンという言葉まで使いやがって!」
「変態野郎がっ!」
「ついに直球で貶めてきた! そういう口の悪いところは本当に直したほうがいいぞ!」
珍しく琢磨が熱くなって、語気を強めているなぁ。
いやまあサヨナさんと喋っているといつもこんな口喧嘩のトーンになるけども。
ちなみに私と喋っている時も言っている言葉は似たようなモノだけども、琢磨は笑いながら喋っている。
だから私のことを余裕で馬鹿にしているんだ。腹立つ。
で、今は余裕無く、攻撃しているってところかな。
それにしても私がサヨナさんから好かれることの何が嫌なのかな。
あぁ、私が誰かから好かれているだけでムカつくってことね。
私を最底辺だと思っているから。
……めちゃくちゃ腹立つじゃん。
ここは。
「サヨナさんの言う通り、口の悪いところ直したほうがいいと思う!」
「やっぱりそうだな! 美園ちゃんもそう言っているんだ! 琢磨! まず俺との言い合いをやめろ!」
「……くっ、とにかくっ! オミソに近付くんじゃねぇ!」
何でそんな私をハブらせようとしてくるんだよ。
孤立させて馬鹿にしようとしてくるんだよ。
全く。
「ほほう! やっぱりそうか! 琢磨!」
「……! そうかって、何だよ……」
「いやいやいや! 本人以外にはバレバレだってことだよ!」
「いっ! 言うんじゃねぇぞ!」
「俺は野暮じゃないからな、大丈夫だ、でも想ってるなら早く言えよ」
「うるせぇよ! 口出しするんじゃねぇっ!」
……何の話だろうか。
もしや、琢磨は今のこの私を馬鹿にしている感じ」以上に、もっと馬鹿にする計画があるのかっ。
怖すぎる! いやでもサヨナさんにその計画を聞こうかな! 分かってるみたいだし!
でも怖い! 自ら聞くって怖すぎる!
ここは知らぬが仏のスタンスで生きていこう……。
「全く、琢磨はうるさいヤツだな。ところで、今日は依頼があって来たんだ」
というと。
「こういう料理を作ってほしいみたいな話ですか?」
「美園ちゃんは勘が鋭いね、まさしくその通りだ」
やっぱり私は勘が鋭いんだ!
オトナだからなぁっ!
と、優越感に浸っていると琢磨が水を差した。
「いやどこが、勘が鋭いんだよ」
そう言った琢磨に私は思い切りツッコんだ。
「いや鋭いだろ!」
私がそう言ったあと、サヨナさんが琢磨へ不敵に笑いながらこう言った。
「ん? 琢磨、言うのか?」
「いや別に……」
一気にトーンダウンした琢磨。
というか言うとか言わないとか怖すぎる……琢磨は私に対してどんな悪口を用意しているんだ……。
いくら私の勘が鋭かったとしても、その言葉自体は察さないことにしないと……。
「ではサヨナさん! どんな料理を作ってほしいんですか!」
「俺が作ってほしい料理は精力が付く料理だ!」
「元気が出る料理ってことですか?」
「まあそうだな、これからずっと精力満タンで生きていたいからな! それに七月の下旬には和智埜神社祭礼があるから、それに向けてどんどん強くなっていきたいしな!」
「ニンニク擦って食べてろよ」
「料理にしてくれよ、できれば今風の料理が良いなっ!」
「ニンニク擦って食べてろよ」
「じゃあまた明日来るから、よろしく頼むよ! 美園ちゃん!」
そう言って私の手の甲にキスをしたサヨナさん。
なんたるキザ! でも悪くは無い!
でもそれを悪いと言うヤツがいた。
琢磨だ。
「何してんだテメェェェェ!」
そう言ってサヨナさんの背中を思い切り叩いた琢磨。
「おっ! 元気が良いなぁっ! でも俺は太鼓じゃないぜっ?」
そう言って、何事も無かったようにカフェから出て行ったサヨナさん。
フーフーと荒く肩で息をしながら怒っている琢磨。
別にいいじゃん、それくらい。
本当琢磨は私を孤立させて馬鹿にしたいんだな。
嫌なヤツだ。
こんな嫌なヤツと一緒にレシピを考えないといけないなんて。
少し憂鬱だなぁ。