十歳の誕生日を迎えたその日の朝、桜都は
早起きをしてすぐにアトリエへ向かった。

この日は日曜日だった。

桜都にとって、今日が何の日かなんて
そんなことは頭になかったから、
今日が自分の誕生日であることでさえも
忘れていた。

アトリエに向かう途中、
サーッと風が吹いて
心地の良い秋の香りがした。

朝の日差しと風受けて、
ちょっぴり幸せな気持ちで
アトリエの鍵を空けようとしたその時、

妙な胸騒ぎがした。

桜都はドアノブを握って、
ゆっくりドアを開けた。


、、やっぱり。


ドアが開いている。

いつもきちんと鍵をかけているのに。

もしかしたら母がいるんじゃないかと
一瞬頭をよぎったけれど、
土日に桜都より先にアトリエにいることは
今まで一度もなかった。

まさか泥棒に入られたのだろうか、
そう思って桜都の心臓はドクッドクッ
と音を立てた。

手にはじんわり汗が浮かび上がっていた。
 
アトリエの中は奇妙なほど静かだった。

桜都はなるべく足音を立てないように、
ゆっくり歩いて行って、母の椅子にそーっと
座った。

すると、さっきまでの緊張感は収まった。