雪香はあの人のどこが良かったのだろう。偉そうで、無礼で思い込みが激しくて、優しさなんて見当たらなかった。
それとも雪香の前では、別人のように穏やかで思いやりに溢れた態度なのだろうか。
彼の態度は最低だったけれど、雪香を心配してるのは確かだ。
鷺森蓮は雪香を大切に想っている。
そう考えると気分が沈んだ。
あんな男に好かれたいわけじゃないけど、皆に大切にされる雪香が妬ましい。
どうして、雪香ばかりが愛されるのだろう。
直樹は二年も付き合った私より、出会ったばかりの雪香を迷う事なく選んだ……どうして?
立ち止まり大きな溜め息を吐いたとき、バックの中のスマートフォンが振動した。
マナーモードにしたまま、戻すのを忘れていたんだった。
急いで取り出し画面を確認する。その瞬間、驚きのあまりスマートフォンを落としそうになった。
雪香の名前が表示されていたのだ。
動揺しながら、応答ボタンを押す。
「……はい」
「……沙雪? 私……雪香」
寒いのか、怖いのか、分からないけれど雪香の声は震えていた。言いようの無い不安がこみ上げる。
「雪香……何してるの?! どうして居なくなったの?」
雪香が居なくなっても、心配すらしなかった私が、今ひどく動揺している。
電話越しの雪香の様子は普段と違っていた。まるで何かに怯えているようで、それが私を不安にする。
「私もう戻れない……だからお別れを言おうと思ったの……今までありがとう。そして、直樹のことごめんなさい」
鼓動が一際激しくなる。
「戻れないって、どうして! 何があったの?」
「戻っても決して許されない……決めたの。何もかも捨てるって」
弱々しいのに意志の力を感じる声だった。私は返す言葉を失っていた。
許されないと雪香は言ったけれど、何に対して? 誰に許しを請うているの?
私に対してではない。
だって、雪香は私に謝罪をした。許されないとは思っていないからだ。
「沙雪」
考え込む私の耳に、雪香の声が届く。同時に、大きな鐘の音が鳴り響いた。
嘘……私は信じられない思いで目を見開いた。
これは教会の鐘の音だ。雪香は今、教会にいるの?
皆で散々探しても見つからなかったと言うのに、
盛大な鐘の音は続いている。けれどそれが途切れた。
「さようなら」
雪香の別れの言葉と共に、電話は切られてしまったから。
それとも雪香の前では、別人のように穏やかで思いやりに溢れた態度なのだろうか。
彼の態度は最低だったけれど、雪香を心配してるのは確かだ。
鷺森蓮は雪香を大切に想っている。
そう考えると気分が沈んだ。
あんな男に好かれたいわけじゃないけど、皆に大切にされる雪香が妬ましい。
どうして、雪香ばかりが愛されるのだろう。
直樹は二年も付き合った私より、出会ったばかりの雪香を迷う事なく選んだ……どうして?
立ち止まり大きな溜め息を吐いたとき、バックの中のスマートフォンが振動した。
マナーモードにしたまま、戻すのを忘れていたんだった。
急いで取り出し画面を確認する。その瞬間、驚きのあまりスマートフォンを落としそうになった。
雪香の名前が表示されていたのだ。
動揺しながら、応答ボタンを押す。
「……はい」
「……沙雪? 私……雪香」
寒いのか、怖いのか、分からないけれど雪香の声は震えていた。言いようの無い不安がこみ上げる。
「雪香……何してるの?! どうして居なくなったの?」
雪香が居なくなっても、心配すらしなかった私が、今ひどく動揺している。
電話越しの雪香の様子は普段と違っていた。まるで何かに怯えているようで、それが私を不安にする。
「私もう戻れない……だからお別れを言おうと思ったの……今までありがとう。そして、直樹のことごめんなさい」
鼓動が一際激しくなる。
「戻れないって、どうして! 何があったの?」
「戻っても決して許されない……決めたの。何もかも捨てるって」
弱々しいのに意志の力を感じる声だった。私は返す言葉を失っていた。
許されないと雪香は言ったけれど、何に対して? 誰に許しを請うているの?
私に対してではない。
だって、雪香は私に謝罪をした。許されないとは思っていないからだ。
「沙雪」
考え込む私の耳に、雪香の声が届く。同時に、大きな鐘の音が鳴り響いた。
嘘……私は信じられない思いで目を見開いた。
これは教会の鐘の音だ。雪香は今、教会にいるの?
皆で散々探しても見つからなかったと言うのに、
盛大な鐘の音は続いている。けれどそれが途切れた。
「さようなら」
雪香の別れの言葉と共に、電話は切られてしまったから。