雪香の言葉に胸が苦しくなり声が震えた。
あの時、自分でもどうしてだか分からないまま、必死になって雪香を探した。

 辺りが暗くなっても、息が切れても立ち止まらないで走り回った。

 あれ程雪香を恨み憎んでいたのに、消え入りそうな雪香の声を聞いた瞬間、強い不安を感じて体が勝手に動いた。それは、ただ雪香の身を案じる心からの行動だった。

 大嫌いで、憎んでいる雪香だけど、たった一人の妹を心の底から嫌いにはなれていなかった。完全に切り捨てられなかった。それなのに、雪香は……。

「私は……自分でも馬鹿みたいと思うけど雪香を心配してたんだよ……それなのに雪香は彼と結婚式をしてたなんて」

 悲しみと悔しさが入り混じった気持ちで、目の奥が熱くなった。

「沙雪……ごめんなさい……」

 雪香は頭を下げながら震える声で言った。私は答えられず目を閉じた。

 雪香と再会してから今日まで、本当に酷い目に有って来た。
 恋人を失い、訳の分からない事に巻き込まれ……最後は監禁までされて。
 ろくな目に遭わなかったなと思う。

 それでも……そんな中でも得たものは確かに有った。
 それはかけがえの無い出会いで、自分自身の考えすら変わるような、救いの有るものだった。
 もし雪香と再会してなかったら、それは無かった。

 蓮ともミドリとも会うことは無く、私は直樹に騙されたまま結婚していた。
 そして、いつか直樹の裏切りを知って苦しんだのかもしれない。

 どちらが良かったのか分からない。もう全て過ぎ去った事なのだから。

 雪香への気持ちが憎しみだけでは無いと自覚している。
 分かり合えないし、呆れるばかりの行動をする雪香だけど、心の深いところで、たった一人の妹への情は確かに残ってる。

 それでも、やっぱり元には戻れないと思った。

「雪香の話は分かった……共感は出来ないけど、雪香も大変だったんだと思う」

 雪香は黙ったまま、不安そうに私を見ている。

「雪香、これを最後に私達は会わない方がいいと思う」
「え?!……沙雪待って、私は……」

 雪香が動揺したように、高い声を上げる。その様子を見ていると、苦しくなった。

「雪香はどうして私に謝ったの?」
「え……それは悪いと思ったから、ただ謝りたくて」
「それは本心かもしれないけど、他にも有ったでしょ?」

 雪香はハッとしたように顔を強張らせた。

「それは……」

 雪香は視線を泳がせ、言葉に詰まった。