三神さんが腕を伸ばして来る。殴られる!
 身を固くして目をきつく閉じたけれど、どこにも痛みは訪れなかった。
 代わりに足を触れられる感覚が走り、全身に鳥肌が立つ。

 恐る恐る目を開けると、三神さんは私の足枷を外していた。
 どういうつもり? この隙に逃げるべきなのか……。
 判断がつかずに戸惑っていると、三神さんに強く腕を引っ張られた。

「どこに行くの?!」

 私の手を引き玄関に向かっていく三神さんに、焦りながら問いかける。
 三神さんは無言で、私を部屋から出した。
 裸足のままアパートの廊下に出され、そのまま隣の部屋に連れていかれそうになる。

「離してよ!」

 大声を上げて、暴れたけれど力では適わない。結局部屋に連れ込まれてしまった。

「……何これ?」

 三神さんの部屋を目にした瞬間、動揺のあまり呟いた。

 何も無い部屋。

 人の住む為に必要なものは何も無いだけでなく、荷物置き場にすらなってない。

 三神さんは、やはりこの部屋で暮らしていなかった。
 ただ私に制裁を加える為だけに、ここへやって来たんだ。
 胸が締め付けられるように苦しくなる。呆然とする私の足を、三神さんは再び拘束した。

「これは犯罪だと分かってる。でも君を許せないんだ……君は自分には何の非も無いと思ってる。自分の価値観が絶対で、合わなければ切り捨てていく」

 私は抵抗も出来ずに、三神さんの話を聞いていた。

「初めは少し痛い目に遭わせるだけのつもりだった。だから歩道橋から突き落としたりしたけど……」
「あれは、三神さんだったの?!」

 衝撃的な発言に、私は一際大きな声を上げた。

「そうだよ、あの時は偶然だったんだ。君を見かけて、怒りがこみ上げて突発的にやってしまった」
 
 あの歩道橋での事件が、三神さんの仕業だったなんて……。

「あの後、君のことを調べて決めたんだ。君に自分の罪を自覚させるには、こうするしか無いって……」
「罪って……私は悪くない、あなた頭おかしいんじゃないの?」

 そう言うと、三神さんは馬鹿にしたように笑った。

「自分は悪くないか……そう言って妹も拒絶してたな」
「……え?」
「この前、妹が来てただろ? 君は受け入れずに追い出してたけど……大声だったし、耳を澄ましていたからね、よく聞こえたよ」
「盗み聞きしてたの?!」

 様子を伺われていたと思うと、背筋が冷たくなる。私の非難をものともせずに、三神さんは続けた。