部長は私を甘やかしすぎです!



昼前に竜二の携帯が鳴る

竜二は無意識にとった

「はい」

「竜二?」

「うん」

「今、仕事?」

「いや…………えっ、兄貴?」



「なんだ、見ずに電話取ったのか?」

「うん、寝てた。今日休みとってる。今、日本?」


「そう、帰って来たから昼でも食おうと思ってかけた」



「夕方に家に行くよ」

「わかった。じゃあ後でな」



竜二は携帯の時間を見た

(昼か……)

隣に寝ている雫を見る

竜二は雫にぎゅ~と抱きついた

「うーん、朝?」

「昼」



雫はパチッと目をあけた

雫の目の前は竜二のパジャマが視界を塞いでいた

「雫ちゃん」

「ふぁい、苦しいです」

「しーずくちゃん!」

「どうしたの?」

「んー、ひっついてると気持ちいいね」




雫は竜二の背中に手を回す

「竜二さん、暖かいね」

「ん、もう少しひっついてたい」

「二時までだよ」

「ん……」

竜二はもう一度目をつむった




「竜二さん、起きて。二時だよ」

「うん、わかった」

身体を起こす

「筋肉痛?」

「うん(笑)」

「ゆっくり起きてね」

「俺、雫ちゃんを抱いてなかったっけ」


「トイレ行きたくて十二時半に私は起きたよ。よく寝てたから私が動いても起きなかった(笑)」

「そっか……」



二人は食事をとった

「あー、味噌汁旨い」

「もう一日終わっちゃうね」

「うん、たまにはいい。よく寝た(笑)」

「それならよかった」

「ご馳走さま。支度できたら送るよ」

「うん!」


竜二は雫をバイト先に送り実家へ向かった




真中家

「ただいま」

「おかえりなさいませ」

お手伝いの土居が迎えてくれる



「土居さんこの間はありがとう。助かったよ」

「いえ、可愛らしいお方ですね」

「(笑)だろ?」



竜二はリビングに行く

「母さんただいま」

「あら、おかえり。兄ちゃんが連絡したの?仕事は?」

「今日は有給取ってた、昼に電話かかってきた。いる?」




「呼んでまいります」

「雫の足はどう?」

「うん順調だよ。雫ちゃんをバイト先に送っていったとこ。また迎えにいくから長くは居られないけど」



トントンと階段を降りてくる音がした

「竜二」

「おかえり」

「ただいま」

「昼、電話寝ぼけててごめん」

「構わないよ」



「昨日テニスの試合だったんだよ。優勝したんだ。それで夕べは家で打ち上げしたから最初から有給とってた。親父は?もうすぐ帰る?」



「飲み会で今日は遅い」

兄ちゃんが帰ると竜二はご機嫌だな〜と母は思った

「そっか」



「母さんから聞いたけど婚約したんだって?」

「うん」

「雫はいつ来れるの?」

「ギプスがあと二週間でとれる」

「二週間かー」

「すぐだよ」

「雫はねとってもいい子よ。今は月曜日が後期授業が午前中だけになったからランチ行ってヨガして帰るの。

他の曜日はバイトが夕方からあるからゆっくり話せないのよね」



「えっ、授業って……学生?」

「うん、大学三年でサクラスーパー三沢店のバイト(笑)いい子見付けちゃった」

「マジかよ、ギプスっていうのは?」



「この間自転車で転げて足を骨折して大学とバイトに送り迎えしてるんだ」

「竜二、そんなにマメだったっけ?」

「いや、雫ちゃんだから(笑)」

「でれでれじゃないか、全く」



「皆に言われる(笑)日本にいるうちに会ってよ。雫ちゃんは月曜日の夜空いてるんだ」

「じゃあ次の月曜日に会おうか」

「わかった、言っておく」

土居さんがダイニングから声をかける

「竜二さん、お食事は?」


「あっ、じゃあ軽く食べる。ありがとう」

「ではお支度しますね」




竜二と母、兄の三人で食事する

「お前の方が先に結婚するのかー」

「大学卒業してからだよ。多分ね」



「多分て……ちょっと子供が出来たからって言うのは雫が可哀想だからちゃんと大学は卒業させてあげてよ」



「子供はちゃんとする。多分てのは雫ちゃんが資格を取るからだから」


「はぁ、あれだけ遊んでたお前がねー、家庭作るか……」



「会社入ってからは必死で働いたよ。だいぶ落ちついてきたところに癒される彼女を見つけたんだ」



「どっちが結婚してもいいわ。元気なうちに孫と遊びたい」



「竜二、明日昼メシ行ける?」



「明日は無理、店舗まわるから。雫ちゃんにもタクシーでバイト行って貰おうと思ってるから、明後日なら大丈夫だよ」

「そうか……じゃあ、俺が明日連れて行こうか?」

「えー、二人?」



「まあまあ、顔合わせってことで、写真送れよ」


「会うの?本当に?」

竜二は携帯から雫の写真を出して兄に送った



「絶対に名刺渡してよ。不審者扱いになるよ」

「わかったよ」



竜二は時間になり、雫を迎えに行った




夜、竜二のマンション

「今日実家に行ってきた」

「うん」



「久しぶりに兄貴が帰ってきてさ、明日ね俺が雫ちゃんを大学に迎えに行けないって言ったら兄貴が来てくれるって」



「悪いよ、お兄さんまで迷惑かけて。タクシーでいくよ」

「そう、言ったんだけど兄貴にも逆らえないんだ」

「そうなの?」



「いつもの所に車停めるように言ってあるし、名刺渡すようにいってるから必ず名刺確認してから車に乗ってね」

「わかった」



「明日夕方から三沢店にも行くよ。久々に夜回るんだ。予定では六時から七時くらいに入れると思う」


「恥ずかしいな。夜来るのって面接の時以来じゃない?」


「だなー、基本あんまり行かないからね(笑)あー、今日は休みだったのに一日早かった」

「だって寝てたもん(笑)」

「じゃあまた寝ますよ。お姫様」



雫を寝室に連れていく

「おやすみ、チュッ」

「おやすみなさい」


大学

雫は大学の門を出て竜二がいつも停める場所へ向かった

白い高級車が停まっていた

(あれかな?)

雫が近付いて行くとドアが開いた

「こんにちは、雫ちゃん」



雫に名刺を渡す

「初めまして、若宮雫です」

「どうぞ」



助手席のドアを開けてくれて、雫は車に乗った



(竜二さんも最初車のドア開けてくれたっけ、行動が同じだ)

兄が運転席に座る

「わざわざすみません」

「構わないよ、今は暇だから(笑)」



「竜二さんにもいつも迷惑かけてしまってます」

「いいんだよ、あいつは好きでやってるんだから申し訳ないと思うより可愛く笑ってありがとうっていってあげる方が喜ぶよ」

「そうですか?」



「うん、竜二は頑固だからね。自分が思った通りにしてあげた方が喜ぶよ」

「そうなんですね(笑)じゃあありがとうございます」

雫はニコッと笑ってお礼を言う

「俺?頑固じゃないよ」

「でも、私を送ってくれるって言ったんですよね?竜二さんお兄さんには逆らえないって言ってました。似てるのかなって」



「あー、まーそうだな。似てない……いや、似てる……とこもあるかな(笑)」

「あの、お兄さんは竜二さんといくつ違うんですか?」



「二つだよ、大学も一緒だった」

「そうなんですね、土居さんから仲が良かったと伺ってますが一緒に住んでたんですか?」



「いや、別々。俺は勉強ばっかしてたから、竜二がいると勉強にならない。うるさくて(笑)」



「うるさいんですか?でも確かに竜二さんはよく話しますね。仕事柄かと思ってました」



「お互い彼女もいたし、邪魔だろ?竜二はモテたからな」

「そうみたいですね。カッコいいので仕方ないです。今さら美咲さんにヤキモチ焼いてもしょうがないですけど……竜二さんのお仲間ですから」


「美咲ちゃんのこと知ってるんだね。でも今は雫ちゃんにゾッコンだけどね。顔つきが変わっててびっくりしたよ。一年くらい会ってなかったから」

「昔の顔はわかりませんが竜二さんは甘えん坊ですね」

「そうだね、俺にも甘えてくるね。母さんが仕事を始めたのが寂しかったみたいだよ」

「佐和子さんが……」

「母さんのこと、名前で呼んでるんだ」

「はい。でも、佐和子さんもヨガ頑張って教えてて凄いと思います」



「竜二が小学校上がってからかな、ヨガにどっぷりはまってね、母さんは社交的で外に出たい人だったから……俺は特に思わなかったけど、竜二はねー、だから家庭的な雫ちゃんが好きになったのかなー」

「私はただ家事が好きなだけですよ」



三沢店に到着した

「ありがとうございました」

「月曜日に食事に行こうね」

「あっ、はい」




三沢店

竜二は六時に三沢店に到着した

「部長、お疲れ様です」

「お疲れ様です。夜来るのは久しぶりなのですが客層はどうですか?」

「そうですね、あまり変わらないですね。この場所は住宅街ですからね」

「三十分ほど店内を回らせて下さい」

「はい」



「あっ、澤田さんはどうですか?」

「今は休憩中です。最初よりよく動くようにはなってきましたね。時々まだお酒の匂いがする時もありますが減ってはきてます」


竜二はスタッフルームをノックして入った

「お疲れ様です」

「あっ、お疲れ様です」

澤田は立ち上がった



「あっ、どうぞ食べてください。どうですか?三沢店は」

「あっ、はい。みんないい人ばかりでよくしてもらってます」

「少し痩せたみたいですね」

「こっちはよく動くので……ちゃんと食べてます」

「そうですか、食事できてるなら良かったです。食事中失礼しました」



竜二は部屋から出た

(これから慣れてまたどうなるかだな)

店舗を回る

(相変わらず雫ちゃんの列は多いな~)

竜二はお惣菜コーナーを見て回る



(あと二時間ほどか、弁当が足りないかな)

厨房へ入っていく

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」


「悪いんですが唐揚げ弁当だけ七個作ってくれませんか。仕事帰りの人が来たら弁当類が足りないので」

「あと三十分したら値下げしますが出来立てはどうしますか?」

「四割にしてください」

「はい」

(買う弁当なくてコンビニに行かれるとな~)




竜二は店長室に向かった

「店長、弁当を追加しました。試しで……これからサラリーマンが増えるから」

「わかりました」

「今日さばけるようなら追加してみて下さい」



「一人用のサラダとか出してみたいんですが、ポテトサラダではなくキャベツとか」

「少し小さめで弁当の横に置いてたら一緒に買いそうですね。弁当の中にも少しありますがもう少し欲しいって感じですよね」

「はい」

「いいですよ。好評なら他の店舗に勧めるのでまたメールでも入れておいて下さい」



「はい。部長、若宮さんがもうすぐ休憩に入りますが」


店長室にあるモニターを見る

「相変わらずレジには人がいますね」

「人がバラけます(笑)」

「そうか(笑)澤田さんに入ってもらいましょうか?」

「試してみますか?」

「お願いします」





店長はスタッフルームへ行きすぐに戻ってきた

澤田が雫のレジへ行く

「変わります」

「あっ、はい」
雫がレジから出ようとすると子供が話しかけてきた


「若ちゃん、終わり?」


「三十分休憩なの。でも交代してくれるおじさんはベテランだから打つの早いから待てるかな?」

「本当?待つよ僕。ねっママ」

「そうね」



「うわぁおじさん、若ちゃんの言った通り打つの早いね」

「ありがとう、一応年数は長いからね。おじさんに変わってごめんね」


「ううん、僕待てるから。若ちゃん打つの早いからみんな並ぶんだよ。それにお話してくれるし」

「そうかー、おじさんもじゃあ今度来たら僕のこと覚えておくよ。また来てね」

「うん!」


竜二はスタッフルームに入っていった



「お疲れ」

「あっ、お疲れ様です」

「りゅ、あっ、部長の仕業ですか?澤田さんに交代させたの」


「よく、わかったね。雫ちゃんが休憩に入ると列がバラけるって店長が言うから見てみたかったんだけど……何か子供に言っただろ?」

「はい、おじさんベテランだから打つの早いから待ってって(笑)」

「それで列がバラけなかったのか(笑)」


竜二は食事をしている雫の頭を優しくなでた

「雫ちゃんは誰にでも優しいな」

雫は真っ赤になってお弁当の唐揚げを差し出す

「食べる?」



竜二はパクっと口に頬張った

「もう帰る?」

「一度会社に戻ってから帰って迎えに来るからね。兄貴はちゃんと来てた?」

「うん、話やすかった」

「雫ちゃんは誰とでも話せるからな」

「そっかな……昔は話せなかったよ。バイト始めてからだよ」

「へぇ、まだまだ雫ちゃんのこと知れるね。あっ、行かなきゃ」

「気をつけてね」

「うん、後で……」




店長室に行く

「おじさんはベテランだから打つの早いから待っててと言ったそうです」

「(笑)そうでしたか」


二人でモニターを見る

「暫く短い時間でいいからレジを……笑顔が必要ですね」

「そうですね、澤田さんが笑ってるの始めて見ました」

「では、私はこれで失礼します」

「はい、お疲れ様でした」


竜二は雫を迎えに行きマンションに帰ってくる




竜二のマンション

「疲れたでしょ」

「大丈夫」

「お風呂すぐ溜めるね」


竜二はお風呂が湧くと湯船につかりタオルを目の上に置いた




(竜二さん出てくるの遅い……長風呂の人じゃないのに)

浴室を覗きにいく

「竜二さん」

「……」


ドアを開けた

「竜二さん、大丈夫?」

「えっ、どうした?」

竜二はタオルを取った

「こっちがどうした?だよ。返事ないし出てこないから心配したよ」

「悪い」



竜二は立ち上がった

「キャッ、もう急に立たないで」


雫は恥ずかしがって部屋に戻っていった

「今さら?(笑)可愛いなぁ」

竜二は頭にタオルをかぶり出てきた

「もう、竜二さんたら」

「ごめん、今日回った店舗のこと考えてた」



「考えるのはお風呂では禁止です!竜二さんはのぼせるから」


雫は足にナイロンを巻いてお風呂の準備をする

「一緒に入ろうか?」

「大丈夫です。ビール呑んでて下さい」

「はーい」

雫は浴室に入っていった



(最初の三日間しか一緒に入らせてもらえなかったもんな(笑)何でも自分でしちゃうし……照れるとこも可愛いけど俺我慢してんのわかってんのかねー)

竜二はビールを一気に飲み干した


「あの、竜二さん」

顔だけ出してきた雫

「ん?」

「着替え持って入るの忘れたからちょっと向こうむいてて」


竜二はバスタオル姿の雫を抱き上げた

「バスタオル巻いてるんだから大丈夫でしょ、家には二人しかいないんだから恥ずかしがらなくていいのに」


ソファーに運んで雫にキスをした



「病院いついく?」

「えっと水曜日の午前中に予約入れた」

「ついていく」

「仕事あるからいいよ」

「俺が聞かなかったら一人で行くつもりだったんだろ?土曜日もあるのにさ」



「土曜日は混んでるかなって……」

「自転車も買わなきゃだろ?」

「あっ、そうだ」

「まだまだ甘えるのが下手だね」


竜二は雫の唇にキスして首筋、鎖骨へキスしていく

「ギプス取れるまで我慢するからね」

「我慢してたの?」

「うん、当然。一度しちゃうとね(笑)」




竜二は雫の頬に軽くキスをした

「ごめん、風邪引くね。服着ておいで」

「はい」

(竜二さん、優しい……)


週明けの月曜日、本社ビル


「今日直帰にするから」

「はい、わかりました」

「あと、水曜日は午後から出社する。病院連れていくから」

「やっとですね」

「あぁ、君にはスケジュール変更させて悪かったな」

「いえ、部長は普段から外も多いですし、何とでも言えます。部長こそ時間調整が大変だったでしょう」



「まあ、大学終わりの時間がな。でもなんとかなるものだよ。年末だったら出来なかったけど、雫ちゃん甘えないからさ。もっと甘やかせたいのに」



「でも、そういうお嬢様だから好きになられたんですよね?甘えてばっかりだと今までの人と変わらないですよ」



「……そう……だな。遠慮するのが可愛いのかもしれない。だいぶ欲しい物は言うようになったけど家の物ばかりだし……ワンピース買ってから服も靴も買ってないみたいだし、でもそういう子を俺は確かに選んだんだよな。

雫ちゃんの意見も尊重しなきゃ」



「お若いのにしっかりしてらっしゃるから側にいてあげるだけで雫さんは嬉しいのではないでしょうか」



「そっか……ん?俺、今までの彼女の事、なんで君に当てられないといけないんだ?」


「進藤様を見てるとそういう感じでつきあってらっしゃったのかなと(笑)」

「確かに……」



「あ、あと舟木店の内田さんの店長試験の合格の報告を課長から受けてます。近いうちに書類が回ってくるかと」


「じゃあ回ってきたら十二月一日付けで舟木店の店長に辞令を出す」

「はい」




雫の大学

「あれ、今日は会社の車じゃない。早退?」

「早退ではなくて直帰、一つ寄るところがあるんだけど車で待ってて。で、社にはもどらない」

「うん、わかった」


車中で話す

「どこで待ち合わせ?」

「家に迎えに行く」

「お兄さんは実家なの?マンション借りてたんじゃないの?」



「海外によく行くからマンションはもう解約してる。実家に自分の部屋あるしね」

「実家って遠いの?」

「大学からだと車で一時間くらいかな」

「それでマンション借りてたの?二年同じとこ通うのに別々のマンション借りて?」



「雫ちゃん、兄貴にどこまで聞いてるの?」

「えー、お互い彼女いたしやっぱり別々じゃないとー、竜二うるさいしー(笑)」

「ちょ、ちょっと兄貴は何を雫ちゃんに……」

「ふふっ、大丈夫。何とも思ってないよ」

「雫ちゃん、兄貴の言うこと全部信じちゃ駄目だよ」

「それは私が決める。同じ大学なのに一緒に住めばいいのにって思った」



「まあ、それぞれ諸事情があってさ」

「女の都合でしょ。竜二さんモテたから仕方ないけど」

「兄貴もモテたよ」

「まあ、カッコいいとは思う」

「えっ、俺より?」

「竜二さんのほうがカッコいい(笑)」

「よかった」