部長は私を甘やかしすぎです!


本社ビル六階

竜二は書類に目を通していた


(ん?三沢店、一人募集申請か……)



三沢店に電話する


「あっ、本社の真中です。店長、今募集申請を見たんですが」

「はい、午後からの人がご主人の転勤で辞めるんです。それで出しました」



「ちょっと考えることがあります。とりあえず若宮さんが大学生だから夕方少し早く入れるかどうか聞いてみて下さい。ひとまずそれで」


「はい、わかりました。」



電話を切ると舟木店の店長の勤務時間をパソコンで確認する



(休みが相変わらず多いな、有給は確かに使うのは自由だが……四か月で何回使ってるんだ。

内田さんが店長の休みの時はフルで出てるし残業もしてるか。もう少ししたら新人でもつけて……)



竜二はドアを出て真木に声をかける


「人事異動出す。舟木店の店長を三沢店のチーフマネージャーに、舟木店の内田さんを店長代理で九月一日付けで作成してくれ」

「はい」


「上の了解がでたら舟木店へ行ってくる」

「わかりました」



サクラスーパー舟木店

店長室をノックする


「部長!お疲れ様です」

「内田さんを呼んできてください。二人にお話があります」

「はい」


二人が揃った

「二人に辞令を持ってきました」

二人に紙を渡す

「三沢店ですか?」



「人が足りないんだそうです。三沢店の店長はしっかりしてるから、よく行動を見て勉強しなおしてください。内田さんに引き継ぎして下さいね」

「はい」

「九月から三沢店の方に行って下さい」


「はい」

「じゃあ、そういうことで……」



竜二は事務所を出ていく

後ろには内田がついて来ていた



「あの、部長」

「なんでしょう?」

「僕でいいんでしょうか?」


「ちょうど三沢店が募集をかけたいと申請書類がきてまして、まあ、店長もよく休んでるし、内田さんが妥当だと僕が判断しました。

年齢は関係ないです。暫くは店長代理ですが秋に試験を受けてもらいます。まあ今の店長に足りないところは……今の状況ですね」

「えっ?」



「僕が帰るまで見送ってくれる。この前もそうだったし、エアコン掃除の日からも変わるかなと思ったが来るのも相変わらず遅いみたいですからね」

「変わりませんね、確かに」



竜二は内田の肩を軽く触る

「大丈夫です。自信持ってというか今のままでちゃんとやってればいいんですよ。じゃあ頑張ってください」

(部長、カッコいいです!ちゃんと僕を見てくれてる。年下なのにあの振る舞い、ついていきます)



サクラスーパー三沢店

「部長、お疲れ様です」

「お疲れ様です。明日辞令を出します。舟木店の店長をこちらへよこします」

「店長移動ですか?」


「いえ、ちょっと訳ありで降格させました。もう一度仕事を教えてもらいたいんです。自由に使って構いませんから、九月一日にこちらに来ます」

「わかりました」



夜、竜二のマンション

「ただいまー」

「おかえり、お疲れ様」


「竜二さんもお疲れ様です。あの相談があるのですが……」

「うん、先にお風呂に入っておいで」

「はい」


雫はお風呂から出てソファーに座る

「今日店長からお話があったんですけど」

「うん」

「午後から五時までの人が辞めるらしくて」


「知ってる。書類が回ってきた」

「あっ、そうですよね」


「明日辞令を出す。舟木店の店長を三沢店に行かす」

「ああ、あの言ってた人ですか?」

「うん」


「夏休みなので入れるときに入って欲しいって言われて……」

「いいよ、俺が月曜日休みにさせたからね、長期休みとか土日でも入りたかったら入っていいよ」

「はい」


「無理はしないこと。ちゃんと休憩はとること。いいね?」

「はい」

「お弁当持っていくといいよ(笑)」

「うん」



「雫ちゃん、今週の飲み会にシメで素麺が食べたいな」

「うん、いいよ。ダシ作っておくね(笑)」

「寝よっか」

竜二は雫にキスをして二人で寝室に行く……



土曜日、朝から雫はせっせと料理を開始する

竜二はリビングの掃除と忍の寝具の準備などをすませる


「じゃあ、竜二さん私先に出るね」

「いってらっしゃい、チュッ」




雫のバイトが終わり玄関を開けると靴が沢山あった

(あれ、まだ店にいる時間じゃないのかな、十人?料理足りるかなー)


雫はそっとドアを閉めて買い物に出かけた

竜二は時計を見ていた

(もう、帰っていいはず……)


竜二は玄関の方に向かう

(靴が揃えてある……)


ドアが開いた

「あっ、竜二さん」

「おかえり。遅いからどうしたのかと思って、靴が揃えられてたから一度帰った?」

「うん、人数多かったから少し買い物に」


「疲れてるんだからお菓子とかでいいのに……シメもあるんだから」

「でも、せっかく来てもらってるから……」



「もう、可愛いんだから。チュッ」

おでこにキスをした

「やー、自転車こいで汗かいてるのに、酔ってますか?」

「まだ、そんなには(笑)みんな雫ちゃんに会いたいって二次会がここになった」



「それで早かったの?」

「うん、ごめんね。行こう!」

リビングのドアを開ける

「お待たせ~」

雫は拍手で迎えられた

「こんばんは」

雫はダイニングに向かい、冷蔵庫を開ける



(竜二さん、食べるもの一つしか出してないじゃない)

雫は冷蔵庫から料理を出していく

「どうぞ」



皿を置いて竜二をひっぱっていく

「何時に来たの?」

「九時過ぎだよ。みんな食事は店で食べてるよ。ゆっくりでいいよ」

「飲み物が足りなくなると思うよ」

「じゃあ買ってくる?一緒に行こうか?まだそこまで酔ってないし」


「そうしてくれると助かる。重いし」

「じゃあ、他にいるもの聞いてくる」

二人は買い物に出かけた




二人は買い物に出て行き残されたメンバーは美咲の方を見た

「美咲、お前諦めたの?」

広樹が尋ねた



「うん、竜二が選んだんだもの。それにね、この間私仕事で会ったのよ。すっごく気が付く子でね、かなわないって思った。竜二が求めてたのは家庭的な子なんだと思う。私料理できないし、今日見てれば多分わかるはず(笑)」


美咲ともう一人、綾と言う女性がいた


「大学の時は二人お似合いだと思ってたけど結婚は別ってことね。この中に結婚しようと思ってる人いるの?」

「俺、来年する予定」

紀之が答える



「おー、竜二が帰ってきたら乾杯しようぜ、おっ、この料理うめえ。さっき出してくれたやつ」

広樹は料理に食らいつく


みんなは次々と料理に手をつけていく


「ただいまー」

「おかえり」

全員が迎えた



「竜二さん、空いてるお皿下げてきて」

「はーい」



雫は飲み物をすぐ冷やしていく

リクエストのあった焼酎とワインを作っておぼんに載せ竜二に渡す



雫が料理を作っていると竜二が呼びに来た

「雫ちゃん、来年結婚が決まったやつがいるんだ。乾杯するから雫ちゃんも呑もう」

「あっ、はい」



雫は竜二の隣に座った

「そんなに急いで作らなくても大丈夫だから……」

耳元で竜二が囁いた

(わかってはいるんだけどね……足りないのは駄目なんだよ、もてなす側としては……)



雫はつまみを作りたくてウズウズしていたがとりあえず乾杯に参加することにした

広樹が指揮をとる

「じゃあ、紀之の結婚を祝って乾杯~」

「乾杯~」




忍が紀之に尋ねた  

「いつするんだ?」

「来年の二月だよ。会社の子」

竜二も聞く

「社内恋愛か?」

「まあな」



「俺らも婚約はしたよ」

竜二がさらっと言った

「えっ、決まったの?」

美咲が驚いていた

「お互いの両親に挨拶したよ」

事情を一番よく知ってる忍が呟く

「付き合って何ヵ月だよ(笑)」



竜二は聞こえてたようで

「確かに……この間(笑)今月の四日に婚約指輪渡した」



みんなが雫の指を一斉に見た

雫は手を隠した

「大切にしまってあります(笑)」



「ちょっと、竜二、四日って私と仕事した日じゃないの」

「そう、誕生日だったんだよ。夜にプロポーズして指輪渡したんだ」

「誕生日だったの?」

「はい」

「ごめんなさいね、手伝ってもらって」



「いえ、楽しかったです(笑)多分一生忘れられない日になりましたよ」


「美咲の会社の企画で俺の会社で夏祭りしたんだよ。そしたら俺の両親に会って、次の週に向こうの両親に会って、ちょっとバタバタしたけどな」

「うん」

「結婚はまだ先だけど」



雫は空いたお皿を下げて席を立つ

新しい料理と焼酎に変えた忍におかわりを渡す

「ありがとう」

「いえ(笑)」

雫はまたダイニングに行く



(何を作ろうかな~)

冷蔵庫を覗く

「何か手伝いましょうか?」

美咲がダイニングにやってきた


「あっ、美咲さん、そんなお客様ですから座って呑んでてください(笑)お仕事の方はどうですか?」

「そうね、まあまあね。これからまた秋に向かって何かいい企画ないかしら?」



「そうですねー、行楽シーズンですね。家族持ちの人は忙しいですけど独身の人も何か楽しめたらいいですね、一人でも足を運べるようなイベントとか」

「そうね!みんな今独身だものね。みんなに聞いてみなきゃ!」



「男の人でもきっとやりたいことありますよ、あっ、これ持っていってもらっていいですか?」

「えっ、今話してる間につくったの?」

「これは簡単ですから~」

「今度料理の企画考えてみるわ、私全然できないのよ」

「はい(笑)」


美咲はお皿を持ってリビングに戻った






雫はもう一品作り焼酎を歩(あゆむ)に渡して竜二の隣に座った


「よく見てるね、ありがとう。えっと……竜二、俺らも雫ちゃんて呼んでいいのか?」

「えー」



竜二は露骨に嫌そうな顔をした


(竜二さん、そんな顔もするんだ(笑)友達といると色んな顔が見れる。かわいい……)

「お前は何で自分の女なのに呼び捨てにしてないんだ?」

だいぶ酔ってきた広樹が口数が多くなる



「そうよ、竜二が呼び捨てにしてないなんて逆に貴重なくらいだからね、この人は名字覚える方が苦手な人だから」

綾も絡んできた



竜二と雫は顔を見合わせた



「何かイメージかな~、年も離れてるし可愛いんだよね。雫!っていうより雫ちゃんって感じしない?俺の店で雫ちゃんは見つけたんだけどお客さんは雫ちゃんのことを若ちゃんて呼ばれてるんだよ」

「若ちゃんも可愛いけど名字で呼んでたら結婚したら名字が変わるじゃん」

広樹が竜二にビールを注ぎながら言う



「そうだなー」

「名前でいいですよ(笑)」

「雫ちゃん……」

「いいじゃない、呼び方くらい」

「じゃあ、俺が雫って呼ぶ」

「別にいいけど……佐和子さんも呼び捨てだし……」


「ん?佐和子さんて?」

「えっ、自分のお母さんの名前でしょ」

「何で?」

「えー、だってお母さんて呼ばないで名前で呼んでって言われたから」

「いつの間に……」



みんな、大笑いする

「竜二、お前のイメージ変わったわ」

紀之がお腹を抱えて話す

「そうそう、いつもかっこつけの竜二が雫ちゃんに敵わないって、メロメロだな(笑)」

広樹のつっこみも入る



「うるさいよ、お前ら」



俊(とし)が口を開く

「雫ちゃん、竜二ね、いつも呑みに行っても格好つけてるんだよ。足組んでふんぞりかえってる」



「でも、いいと思います。それが竜二さんらしいなら……人に迷惑かける態度は駄目ですけど、みなさんの前だけならきっと気を許してるんじゃないでしょうかね。お仕事でいつも謝ってますし」

「なんて、いい子なんだ。雫ちゃん感動したよ。美咲と別れて正解!」



「ちょっとー、ひどい……でも私この間竜二に謝られたんだよ、びっくりしたよ」

「雫ちゃんの言うことなら聞くよ」

「絶対亭主関白だと思ってたのにな」

広樹が竜二の肩に手をまわす



全員が頷く

「雫ちゃんはお酒強いの?」

綾が尋ねた


「程々です。竜二さんと軽く呑むくらいですね」

「テニスの打ち上げもここでしようぜ」

「いいけど、金集めるぞ」

「オッケー、オッケー」


だいぶお酒が回ってきたのか次々とおしゃべりがみんな止まらない




「周り気にせず話せるな。店なら人数多いし、テーブル分かれるしな」

「食べたい物あったら作りますよ」



「やった、雫ちゃんの料理旨いよな」

「ありがとうございます。いつですか?」

「十一月三日だよ」

「十人みんな出るんですか?」

「今年は久々に全員だな」

「だな、みんなだいぶ仕事が落ち着いてきたってことかな?」

「確かに仕事にも慣れて休みやすくなってきたわね。後輩もできてきたし」

「美咲なんかは平日が休みだから特にな」



「竜二さんは毎年出てるんでしょ?」

「うん、忍と」

「何も練習してませんけど、大丈夫なんですか?」

「これからかな(笑)」

「みなさん、そんな感じですか?」



「忍以外はそうだな……忍はテニスのインストラクターしてるから」


「ラケットは持ってるけど、指導だけじゃなー、自分の練習はやっぱり別でしないと」

「竜二さん、頑張らないと……」



「そうだな、雫ちゃんの料理が美味しくてビール飲み過ぎだから走ろうかな(笑)」

「私見に行っていい?」

「いいよ」



「やった!楽しみ~」





雫は席を立って素麺を茹で始める

「雫ちゃん、素麺?」

「うん、竜二さん、空いてるお皿下げてきて」

「わかった」



「竜二が動いてる(笑)」

「うるせーよ(笑)」

「一人の女でこれ程変わるかね?」



雫はみんなに素麺のダシを配る

「おっ、素麺?」

食欲旺盛な広樹がすぐに手をつける



「はい、竜二さんのリクエストです」

みんなで素麺をすする

「うめえ」

「うん、美味しい。手作りのダシ」

「だろ?」


竜二は得意気にみんなに勧めていた


みんなはお腹いっぱいになり横になる者もいた

「もう、食べられないし呑めないお腹はち切れそう」

「店より食った気がする」

「確かに(笑)」



「あー、明日仕事だから俺そろそろ帰るわ」

「貴志(たかし)はそうだな、いつも悪いな、土曜日がどうしても多くて」

「いや、大丈夫。それこそ、店に一番に出なくてよくなってきたから」



「お店やってるんですか?」

雫が聞いた

「貴志は美容師なんだよ」

「へえ」



「雫ちゃんの髪もカットしてあげるよ。ご指名お願いします」

名刺を渡す



「えっ、ここって有名なお店……高いところですね?」


「竜二と一緒に来るといいよ、竜二に支払いしてもらうといい(笑)」

「いいよ」



「貴志もだいぶ指名増えてきたよね、予約が取りにくくなってきたし」


「おかげさまでな(笑)綾にはいつも指名してもらってるから」

「私、短いからさ、やっぱりショートカットは月一くらいでいかなきゃね、襟足が気になっちゃって」


「俺とほぼ同じ頻度じゃねーかよ」


「竜二さん、いつカットに行ってるのかわかんない(笑)」


「貴志の一番最後が空いてる時に行って食事して帰る」

「なるほど~」


「雫ちゃん、今度行こうね、貴志の店」


「ヘッドスパしてあげるよ。気持ちいいよ」



「あれは気持ちいいわよ、雫ちゃんお勧めするわ」

「贅沢ですー」



「あっ広樹、起きろ。お前寝たら運べないんだから」

広樹は大きな背伸びをした

「あー、眠い。そろそろ帰るか」


「電車まだあるか?タクシー呼ぼうか?」

「ギリギリいけそう。出るか」


皆は重い腰を上げて帰っていった



雫は洗い物を始める

「疲れただろ?明日でいいよ」

「すぐ終わるから大丈夫、それより忍さんのお布団敷いてあげて」

「わかった」



竜二はリビングに布団を運んでくる

「忍、ここで寝てくれ」


「うん、ありがとう。遠慮せずにヤっていいから(笑)」

「(笑)バーカ、しねえよ」


片付けも終わり二人は寝室にいた


「今日ありがとね。バイトもあったのに疲れたでしょ」

「ううん、十人はびっくりしたけど」


「この間六人だったからな(笑)十一月はまたよろしくね」

「うん、大きい鍋が欲しい」

「買おう(笑)今日はみんなに紹介できて良かった」


「私もありがとう」


二人は抱き合って眠りについた

朝、竜二が先に起きシャワーに行く


リビングに戻ると忍が座ってぼーっとしていた

「起きたか?」

「ああ、喉乾いた。水もらう」




竜二はカーテンと窓を開けて換気をする

忍がシャワーから出てきた

「この間言ってたように部屋の印象変わったな」


「ああ、二人で選びにいった」

「お前が婚約ねー(笑)」

「何?意外?」


「まあ、俺は結構お前と対等な女を選ぶと思ってた。まあはっきり言うと美咲みたいなタイプ」



「美咲と付き合ってる時は確かに結婚まで行くかもと思うこともなくはなかった……浮気してたのも事実だけどバレなきゃいいと思ってたし、しっかりした女も嫌いではない、それなりに多分付き合えると思うんだけど……」



「次期社長としたらどうなんだろうな。社交性も必要だし、内助の功とどっちがいいのか……雫ちゃんは派手なほうじゃないだろ?」



「派手じゃないけどとにかく可愛い(笑)俺は癒しをとったんだよ。お客さんともかなり話せるから意外と社交的なのかもしれない、親も気に入ってくれたしな」



「癒し系か……」

「忍は好きな女とか気になる子はいないのか?」

「そうだなー、昨日の竜二見てるとそろそろ俺もって思うな。最近夜のレッスンに来始めた子がいるんだよ」



「おっ、積極的に行くのか?」

「いや、まだ行けないな(笑)」


「少しずつでいいから話かけろよな」

「お前みたいにその日に誘うとかは無理だから(笑)」

「確かに(笑)店にいけば会えるはずなのに仕事にかこつけてすぐ誘ってしまった」