部長は私を甘やかしすぎです!


忍は食べ終わった鍋をダイニングに持っていく


「ご馳走さま、美味しかったよ」

「はい、ありがとうございます。竜二さん食べますか?」



リビングに向かって声をかける

「食べる」

「はーい、すぐ支度しますね」



雫は鍋焼きうどんを運んでくる

「どうぞ」

「ありがとう」

「あの」

「何?」



「昨日、たばこの吸殻あったんですけど、吸うのはいいんですけど、灰皿を流しに置いて水をかけて置いて下さいね。危ないですから」

「わかった。気をつけとく」

「(笑)お願いします」



ダイニングに戻っていった

「意外と言うのな」

「うん、ワガママは言わないけど必要なことはちゃんと言える子だよ。すごく周りが見える子なんだ。家事が好きで、胃袋もつかまれたという(笑)」

「俺はもうしばらく一人でいいや。実家だし飯には困らないから、楽だな」




竜二の電話が鳴った

雫が気づいて寄ってくる

「お仕事の携帯ですね」

「うん、もしもし、お疲れ様です。はい、はい、対応は?わかりました。今から伺います」


雫は寝室に入っていきスーツの支度を始めた

寝室から出てくると

「スーツ用意してますから」

「ありがとう。忍、仕事だ。駅まで送る」

「わかった。サンキュー」



竜二は洗面所で支度を整えた後着替えを終えた

「竜二さん、夕食は?」

「何か作ってくれるなら家で食べる」

「じゃあ、作って置くので時間になったら私バイト行きますね」

「ごめんね、ゆっくり出来なくて」

「お仕事ですから(笑)」



忍が先に玄関に行くと竜二の革靴が磨かれて用意されていた

(いつの間に……昨日は革靴なかったのに……ふっ、そういうところか、竜二が惚れたのは)


竜二が支度を終えて玄関にやってくる

「お邪魔しました」

「こちらこそ、たいしたお構いも出来なくて」

「じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃい」

雫は手をヒラヒラと振った


二人は玄関を出ていった



二人が出掛けて一人になる雫

「さて、やること一杯あるな。何からしよう」

雫は頭の中で考える


(まずは、肉じゃが作って部屋の掃除、お風呂とトイレかなー)

雫がリビングを片付けているとイヤリングの片方を見つけた

(片方だけかな?昨日の人の忘れ物だよね……もっと前とかだったらどうしよう…………信じなきゃね……)



雫はメモを残してバイトに出かける



『竜二さんへ、イヤリング片方落とし物です。昨日の人なら返してあげてください。不便だと思うので、あと肉じゃがお鍋に炊いてます。お仕事お疲れ様でした』



(よし、帰ってバイト行こう。少ししか話せなかったなー、やっぱり一緒に住んだほうがバイト終わってからも朝も話はできるよね。甘えていいのかなー)


雫は鍵を閉めて竜二のマンションを後にした



夜七時、竜二がマンションに帰ってくる

「意外と手間取ったな」

鍵を開けて家に入る

シーンとした中入っていく

「雫ちゃんに居て欲しいな……」


メモを読む

(イヤリング?誰のだ。美咲?綾?)

スーツを脱いでスウェットに着替える



「肉じゃがー」

一人なのに思わず声を出した自分に驚いた

肉じゃがとビールを持ってリビングへ



(旨い~)

テレビを見ていると玄関の鍵がガチャガチャと音をたてた

(ん?エントランスは鳴ってないし、雫ちゃんはバイトの時間)


ピンポーン

モニターを見る

(はぁ、美咲か)

イヤリングを持って玄関に行く

「あっ、いたんだ」

「ああ」

「鍵、やっぱり変わってたね(笑)」

「これだろ?」


美咲にイヤリングを見せる

「あ、見つけてくれたの?探しに来たのに、上がっていい?」


玄関で靴を脱ぎはじめる

「勝手に入るなよ」

「昨日は入れてくれたじゃないの」

「昨日はみんないただろ?」

「片付けに来てあげたのに」


スタスタとリビングへ上がっていく

「おい!」

「片付いてるじゃない」


「もう、来なくていいから……イヤリングもわざとだろ?今日来る口実の」


「どうかな?(笑)昨日久しぶりに楽しかった。ますますいい男になってるし。ねえ、やり直さない?」



美咲は竜二に抱きついてキスをしようと近づく

「いや、お前とはもう終わってるから」


美咲を押して自分から離れさせる

「俺、付き合ってる彼女いるから帰ってくれないか」

「彼女いたんだ……わかった」



玄関を出ていった

(意外とあっさり引いたな。エントランスの番号変えよう。雫ちゃんの誕生日にするかな……もうすぐだ)

竜二は雫にメールを送る


‘雫ちゃん、お疲れ様。今日はゆっくりできなくてごめんね。今、肉じゃがとビール呑んでます。エントランスの番号かえたから次から間違えないでね0804だよ’

九時過ぎて返事がくる


‘お疲れ様です。休日出勤ご苦労様でした。番号了解しました。お休みなさい’





別の日、雫の家

雫がお風呂に入っていた間に竜二からメールが入っていた

‘今帰って晩酌中~、旨い~、布団干してくれたんだね。暖かかった。無理しないでね、俺はとっても嬉しいけど’


写真つきで送られてきた

‘お疲れ様です。竜二さんの為を思ったら家事も楽しくてついやっちゃいます。やり過ぎだとおもったら言ってくださいね’

‘全然!助かる。おかずが美味しすぎてビールがすすむ。運動しなきゃ(笑)’

‘暑くなってきましたからね、ビールの美味しい季節です(笑)飲み過ぎないように’

‘はーい、お休み’

‘お休みなさい’



(これが付き合うってこと?メールだけで緊張する。何かおかしなこと書いてないかな)

雫は一人で真っ赤になっていた

(写真可愛い……保存しよっと)



土曜日、竜二のマンション

ピンポーン

(ん?美咲はもう入れないはずだしエントランスじゃなく玄関が鳴った)

モニターを見ると布団が写っていた

ドアを開ける


「ぷっ、可愛い雫ちゃんという荷物が届いたね」

竜二はシーツとカーテンを雫から受けとる


「すみません。荷物が一杯でボタンは押せたんですがドアが開けられなくて」

「言ってくれたら取りにいくのに」

「私が引き換えもってましたから」

「ありがと、しまっておく」

「はい、お願いします」



「雫ちゃんこっち来て」

「はい?」

「この部屋使っていいからね。荷物運んでくるといいよ。雫ちゃんの部屋」

「でも、竜二さんの仕事部屋では?」

「ううん、物置いてただけ。基本家では仕事しないようにしてる。パソコン一台あれば大丈夫だよ。少し狭い部屋だけどクローゼットあるから大丈夫だと思うよ。何か大きい荷物ある?」


「いえ、そんなには」

「いつでも運んでいいからね」


「本当に私と住んでいいんですか?」

「うん、いいよ。荷物運んだらアパート解約していいから」



二人はリビングに行く


「布団も俺運ぶからね。いつでも言って。今日はリビングの模様替えしよう。雫ちゃん午後からくると思ってたけど早くきたから出かけるよ」

「あっはい、ちょっとこれ冷蔵庫にしまってきます」



雫は買ってきた食材を冷蔵庫にしまう


大型家具店



「何買うんですか?」

「カーテンとソファーと絨毯、カーテンは寝室は変えたけどリビングは陽が当たるから厚めのがいいから、ここで買うつもりだった。ソファーも座ってみて」


「私、ソファーなんてあまり……よくわからないです。座椅子しかないので」

「だから座って確かめるんだよ」

二人は順番に座っていくと店員から声がかかる


「いらっしゃいませ、真中様」



「ああ、店長。今日はソファーとカーテンと夏用のラグを買いにきたよ」



(すごい、顔パスで店長自ら……竜二さんてすごい人なんだな)

「全部配達して今あるもの持って帰ってくれる?」


「かしこましました。何からお探ししましょうか?」

「じゃあ、絨毯から。雫ちゃん行くよ」

「はい」

「夏は素足で気持ちいいのがいいな」

「今はスリッパですよね」

「うん」



「真中様、広さは全面にいたしますか?」

「雫ちゃんどうする?」

「言ってもいいんですか?」

「いいよ」



「えっと、ダイニングでスリッパ履きたいのでリビングもスリッパがいいです。ソファー周りだけ夏用のラグがあれば……」


「じゃあソファーの大きさによって後で決めよう。ソファー前に床に座れてソファーにもたれるくらいだよね」

「はい!」

「じゃあカーテン行こう」



三人はカーテンコーナーへ

「中の遮光カーテンはしっかりしたものがいいです。あっこれ夏らしい水色でグラデーションになってる」

「じゃあ、これで(笑)」

「はい、カーテンは今のを冬に使われますか?」

「いや、また冬は見にくるよ」

「かしこまりました」

「サイズはわかってるよね?」

「はい」



「雫ちゃん、ソファー行くよ」

「はーい」

「明るい方ですね(笑)」

「だろ?一緒に住むんだ。だから明るく模様替えしたくてね」



「レザーはやっぱり高いですね。掃除はしやすいですけど」

「レザーでいいよ。少し明るめで茶色かアイボリーとか、黒以外でね」

「ソファーに竜二さんが一番座るんだから決めてください」



「横になれて雫ちゃんに膝枕してもらうくらいの大きさが欲しいな」

「もう~こんなところで、恥ずかしいです」

「これくらいかな~」

「はい」



「じゃあラグも明るい色のものを」


「これくらいはいかがでしょう?」



「いいかもです」


「ありがとうございます。真中様、配達はいつにいたしましょうか?」

「雫ちゃん、来週の予定は?」

「来週は日曜日の昼間なら大丈夫です」

「じゃあ、それで」

「かしこまりました」


二人は店を出た


竜二のマンション

竜二がリビングから呼び掛ける


「雫ちゃん、土曜日用事あるの?」


「はい、オープンキャンパスがあって、お手伝いをしないといけなくてですね、友達と一緒にするんですよ。その後食事に行くのでバイトもお休みいただいてます」



「じゃあ、金曜日にバイト終わったらこっちに帰っておいでよ。ここからなら歩いて大学行けるだろ?自転車は呑んだら乗れないし」

「あー、そうですね。そこまで考えてませんでした(笑)」

「荷物夏休みに運んでね」

「はい」



カレーがダイニングテーブルに置かれ、竜二は移動した

「いただきます」

「いただきます」

「旨い!ねえ、雫ちゃんはいつから料理するようになったの?」

「そうですねー、私の母が弟を産んだ頃ですね。高齢で産後も調子が悪くて自然とするようになって……中学くらいですね」

「いくつ離れてるの?」



「十二才です。私産まれた後、二人目なかなか出来なかったみたいで……弟の離乳食も作ってました。食べてもらえるのが嬉しくて」

「雫ちゃんてさ、商品のバーコードの位置どこにあるか覚えてるよね?」

「えっ、何で知ってるんですか?」



「だって、バーコード通しながらお客と話してるでしょ?」

「そこまで見てたんですか?」

「そりゃ、雫ちゃんを見てたんだからね。列が早くはけるのは何でかって思ったもん。雫ちゃん見てると改善するとこが浮かんでくるんだよ」



「母が調子悪い時、レジに並ぶのが辛いみたいでなるべく早くと思ってて……」


「俺としてはそういう貴重な意見が欲しいんだよね。女性にしかわからないことまだまだ沢山あると思うんだよね。また聞かせてほしいな……あっ雫ちゃんを利用して付き合ってるんじゃないよ。そこは勘違いしないで、本当に好きだからね…………ご馳走さま」



竜二は真っ赤な顔を隠すようにリビングに向かった



(俺、好きだって言っちゃった。何で今さら照れるんだ?あー、恥ずかし……自分で言うの恥ずかしいな、今まで軽く言ってたから何とも思わなかったけど本気でって……)



竜二は後ろをチラッと向いた



雫は両手で赤くなったほっぺたを押さえていた



サクラスーパー本社ビル

竜二の席に内線電話がかかる



「はい、真中です」

「一階受付です。部長にお客様です。アポはとってないそうです。名前は進藤美咲(しんどうみさき)様という方で名刺をお持ちです。お通ししますか?」



(美咲?)
「いや、下に降りる」

「かしこまりました」


部長室を出ると専属の秘書で真木(まき)という女性が座っている



「受付に客が来てるから行ってくる」

「はい」

エレベーターを下りると受付が立ち上がり美咲の方を手で案内する

竜二は受付に軽く手をあげて、ありがとうと声をかける

「美咲?何か用か?」


「今日はちゃんと仕事の話よ。こちらのスーパーで夏休みイベントをしてもらえないかと思って」


企画書を竜二に見せる


「俺は総務の人間なんだけどな、企画に言えよ」


軽くパラパラと書類をめくっていく

「そうなの?でも知り合いから入るのもいいでしょ?使えるコネは使わなきゃ(笑)じゃあ、企画の人に会わせてよ」

「全くお前は……」

目を通した

「そっちにとっても集客できるからいいでしょ?」


「企画の人間が駄目だと言ったら俺の名前出しても駄目だからな」

「ありがとう竜二、あっ部長(笑)」

「ちょっと待ってろ」


竜二は企画部へ顔を出す


「山口!ちょっと来てくれ」

「はい」


「今一階ホールにイベントの企画を持って来ている会社がいる。会って話を聞いてやってくれないか?」

「部長のとこに行ったんですか?」

「ああ、大学時代の友人だ。俺に関係なく企画部として駄目なら断ってくれて構わない。ちゃんと言ってあるから」

「はい」

「企画部長には言うなよ」

「はい、行ってきます!」



竜二は自分の部屋に戻った



「悪い、コーヒーを頼む」

真木にそう言って椅子に座る



暫くして山口が部屋を訪ねてきた

「あの、企画書をコピーしてきました」

「別にそっちで進めてよかったのに」


「一応、いい企画ではあったので意見を伺いたくて、アドバイスとかいただけたら」

「アドバイスねー、さっき軽くは目を通したんだがな。まあ集客はできるがどの店舗でやるかを決めないと……夏祭りねー」

「全店舗は難しいかと思います」



「……だろうな。広い店舗とうちの商品が売れなければ何もならない。イベントだけ開いても場所貸すだけじゃな」

「今晩呑みに行きませんか?日がないので詰めたいんです」

「わかった。後で店は連絡する」

「はい、失礼します」



「これをもう一部コピーしといてくれ」

真木に渡す

「はい」




竜二はコピーを受け取り

「今日は直帰する」

「かしこましました」


竜二は二店舗を回り時計を見た


(汗かいたな、一度帰って着替えるか)


竜二は一度マンションに戻ってきた

雫の靴があった

音がして雫が玄関に出てくる



「どうしたんですか?体調でも?」

「いや、飲み会が入ったから直帰にしたんだ。仕事早く終わったから着替えようと思って、シャワーするよ」


「はい、スーツですか?」

「いや、社内の後輩だから、シャツだけでいい」

「わかりましたー」


竜二はシャワーから出てきた

「何作ってたの?」

「酢豚です」

「(笑)俺の好物だ」



「じゃあ冷めてから冷蔵庫入れときますから明日食べてくださいね」

「味見したい」

「じゃあもう少し待ってください」


暫くして出来立ての酢豚が出された

「いただきまーす。熱っ、旨い!」

「よかった(笑)」



「あっ、これ読んでみて」

企画書を渡す

「気付いたことあったら書いて……旨い…今日企画の後輩と呑むんだけどアドバイスくれって言うからさ、女性目線とかない?」

「夏祭りですかー、そうですねー、人は集まりますけどこれだけじゃ……」



「うちの商品を売らないと意味ないだろ?まだこれはイベント会社の企画だけなんだ。これからうちがどういう風に持っていくかなんだよ。日がないからね」



「ですねー、主婦目線ならもうここで夕食は済ませたいなと、子供が遊べるものがないと……子供が行きたいって言わないと親は動きませんからね。ビールは絶対必要だし、神社のお祭りなんかは屋台が出ますけどそれならうちで唐揚げとか出せますしね。いつものお惣菜の中から何品か作って食べれますよね」



「イベント会社の企画だからそれぞれの売上も分けないといけないしな」



「ですねー、出来れば食べる場所も広く取れば売れるんじゃないですかね。日があるなら二週間3000円以上お買い上げの方にガラガラくじが引けるように抽選券配ったら当日前から売上も伸びますし、子供はくじを喜びますよねー」

「何でそんなにアイデアが出てくるの?」

「えっ、やってるとこありますよね?旅行券が抽選で当たるとか……でも普通に景品でお米五キロとかビールを一ケースとか嬉しいですよ(笑)」

「雫ちゃんおかわり」

「はい(笑)」

おかわりの酢豚を持ってくる



「屋台の唐揚げって高いじゃないですかー、でも買っちゃうんですよね。うちのお惣菜を出してるパックはやめて白い上が開いてる入れ物とかトレーとかにしたほうがいいですよ。串で食べやすいようにとか持って帰る人には袋渡してあげて、いつものパックだと量と金額がだいたいわかってしまうでしょ?店からどんどん作って出せば温かいの食べれるし」



竜二は食べながら頷いていた

「ご馳走さま、これからちょっとまとめる」

「はい(笑)」

竜二は雫の言ったことを書き出していく


「あっ」

「何?」

「雨の日のことも考えておいて下さいね」


竜二は急いでメモした

「駐車場もどこか借りれるなら……」

「ほぼ雫ちゃんの企画だね(笑)俺も総務なのにいいのかな」

「でも、頼まれたんでしょ?慕ってくれていいじゃないですか?」

「ありがと」




山口と個室のある居酒屋にて話していた



「部長、人集まりますよー」

「だろ?」

「明日すぐまとめてうちの部長に通しますね。日があまりないので、通ったら進藤さんに連絡します」

「上手くいくといいな(笑)」

「はい!酔う前にもっと詰めていいですか?」

「だな(笑)」





タクシーで竜二のマンションに到着した



(あー、呑みすぎた)

「水……」

冷蔵庫をあけるとマグカップにスープが入っていた


ダイニングテーブルにメモが置いてあった

『朝スープ温めて飲んで下さいね 雫』


(ふっ、可愛いすぎるだろ、メールじゃないところが雫ちゃんらしいな(笑)呑み会を邪魔しないところが………)

水を飲み干して寝室に向かう