部長は私を甘やかしすぎです!





「竜二さん起きて」

「うーん、朝?」

「そう、時間ないよ」



竜二は起き上がった

「眠い、だるい」


ダイニングにぼーっと歩いて行く

「食べれる?」

「あんまり食欲ない」

「味噌汁だけでも飲んで」

「わかった」



「竜二さんは外で呑む時は日本酒のんじゃだめだよ」

「なんで?」

「何でも!わかった?」

「うん」





水曜日、病院

「はい、いいですよ。きれいにひっついてます」

「ありがとうございました」


「自転車とりに行こうか」

「うん、軽い。浮いてるみたい(笑)」

「俊に連絡してマッサージしてもらおうな」

「はーい」



自転車屋に寄り雫は取り置きしてもらっていた新しい自転車に乗って一度家に帰り、竜二はそのまま仕事に向かった






「ただいまー」

「お帰り。自転車大丈夫だった?」

「うん」

「お風呂今でたところだから入っておいで」

「はーい」




「雫ちゃん、新しいパジャマ可愛いじゃん。モコモコ(笑)」

「足が治ったら着ようと思ってたの。足首のゴムが伸びるから」


「可愛いよ、あっ、俊に連絡ついて土曜日の午前中にマッサージ来てくれるよ」

「ありがとう」

「しばらくはまだ大人しくね」

「竜二さん、本当にありがとう。お仕事あるのに大変だったでしょ。感謝してます」



竜二の隣にひっつく

「我慢もさせててごめんなさい」

「いや、雫ちゃんも大変だったんだからお互い様だよ。協力できることはするから、これからも俺の世話してね。もう雫ちゃんがいないとダメな生活になってるから(笑)」

「私、役に立ってる?」

「勿論」



竜二は雫を抱き上げると寝室に向かった

竜二は雫にキスをして優しく抱いていく



「足……まだ色が……持っても大丈夫?」

「大丈夫……恥ずかしい……あっ」



竜二は雫の頭を撫でる

「無理させた?」

「ううん。あの、好き……竜二さん」

雫から竜二にキスをした

「可愛いな~」



雫の身体を指で這わしていく

「あっ」

「ん?ここ感じるの?」



「違うの。あのね、私竜二さんに言わなきゃいけないことがあってね」


雫は竜二の顔を見た

「うん」

近づいてきた雫にキスをした


「もう~話」

「ごめん(笑)」



「私勘違いしてて、十一月下旬から管理栄養士の願書を配布ってことは頭にあってね、取り寄せようともう一度調べたら栄養士とれても実務経験が三年ないと受けられなくて……えへへ」

「えっ!」



「就職しないといけないみたい……です、ごめんなさい!」





「えーーー!」

雫はパジャマを着て部屋へ書類を取りに行き竜二に見せた

「大事なとこ見落としてて、もっと調べればよかった」

「これってうちでもいいんだよね?」

「あーー!そうね」

「じゃあ、うちに入社して三年たったら受ければいいよ。あ~もっと俺も調べとくんだった。開発部の管轄だからな、ベテランばかりだから俺が入社してから書類も発行したことないや」



「ごめんなさい。就職のお世話までまた甘えることになっちゃって」


「雫ちゃんの役に立てるなら何でもするよ。でも一つだけお願いがある」

「うん」

「結婚はすぐしたい!といってもまあ準備もあるし卒業頃に……」

「えっ、でも働かなきゃ……」



「子供は雫ちゃんの資格がとれるまで我慢する。我慢て言い方もよくないな(笑)んー雫ちゃんの資格をとるってことをまず優先してほしい」



「でも、もし仕事辞めたらあまり使わないかもだよ」


「それはその時によるし、仕事やりたかったら産休とって会社に残ってもいいし、別の会社で働いても構わない。雫ちゃんはまだ若いんだからやりたいことやって構わないよ」



「そんなこと言ったら竜二さんだってやりたいことなかったの?会社継ぐって高校生で決めちゃって、お兄さんのこと羨ましくなかった?」



「そうだなー、兄貴が継いで俺は就活もせずに親父の会社入って営業でもするかなってくらいしか考えてなかった(笑)」

「この間お兄さんと一緒に仕事したかったって言ってたじゃない」


「いつ?」

「お兄さん来た日、泣いてたよ。やっぱり覚えてないんだ」


「覚えてない……でも、もうそれは叶わないからいいんだよ」

雫を抱き寄せる

「夢のある兄貴が羨ましかったかな(笑)今の俺は雫ちゃんと楽しい家庭を築くことが一番だな」



「……竜二さん、私幸せだよ」

「俺だってだよ、よし!でもそうなったら結婚に向けて動けるし、やる気もでる!」



竜二は雫の身体を触り始めた

「ちょっと、こそばい。やる気ってこっち?」

「んー、色々だよ(笑)チュッ」



雫は竜二に抱かれた後眠りについた




(結婚までのスケジュールを組まないとな……年明けたら実質一年てとこか。兄貴のスケジュールもあるから早いほうがいいな。年明けたら動こう)



雫の寝顔を見て頬を触る

雫はピクッとなった

「うーん」


(ふっ、可愛い……)






本社ビル

「失礼します。コーヒーお持ちしました」


「ありがとう」

「何か部長、ご機嫌ですか?」

「えっ、顔に出てる?」

「なんとなくですけど……」



「どうかな、いいことがあったとも言えるし残念とも言えるかな」

「はい?」


竜二は雫の足が治ったことと管理栄養士の資格のことを話した


「まあ、お子様はまだ雫様がお若いですからね。結婚は一年と少しですか……」

「そうなるな、ん?まだ大きなスケジュールは入ってないだろ?」



「そうですけど……あの私事なのですが産休を……」



「ん?子供出来たのか?」

「はい、やっと授かりまして……そのお式の準備がお手伝いできないかと……」

「出産は終わってるよな?」

「まあ、夏予定なので」



「式に出席してくれれば構わない。自分の身体のことを考えて産休に入るといいよ」

「ありがとうございます」


「よかったな、結婚して五年か」

「はい」

「無理して動くなよ(笑)俺が動くから」

「ありがとうございます」

「八階に行ってくる」

「はい」




八階社長室


「そうか、そういうことなら雫ちゃんの入社を許可しよう。詳しいことは正月に家に来て決めればいい」

「ありがとう」

「真木くんの後任もお前に任すよ」

「春の新入社員が来てから決めるよ。じゃあ戻る」




竜二のマンション

「雫ちゃん忘年会三十一日になった。みんな忙しくて」

「わかりました。じゃあ午前中にバイト出て、昼から上がらせてもらいます」

「そうだね、午前中忙しいだろうね」

「竜二さんは休み?」



「休み。三十、三一、一日が休みで二日は各店舗を回るから出勤して三日が休みで四日から通常通り仕事かな」

「わかった」



「一日は俺の実家に行って色々決めるよ。で三日に雫ちゃんの実家に挨拶に行きたいから予定聞いておいてくれる?」

「はい、あっじゃあ三十一日バイト終わって買い物して帰りたいから車で送ってもらっていい?」

「わかった」


竜二は真木の妊娠のことも話す

「そっか、簡単に出来る人もいれば中々授からない人もいるね。命って不思議」




十二月三十一日、大晦日、居酒屋

幹事の祐介の音頭で全員で乾杯する

来年結婚する紀之と彼女、忍の彼女も紹介された



「俺らも正月に具体的に決めるよ。再来年の二月に結婚する予定。お前ら空けとけよ」


「あと、急で悪いけど来年の四月に俺らも……」

広樹は照れて頭をかいた



「紀之はさ、彼女いるの聞いてたけどさ、竜二と広樹は付き合いだしたとこじゃん。ビックリしかないんだけど」



「まあ、春に雫ちゃん見付けて半分職権濫用で食事に行ったからな~」

「もう~でも嫌だったら断ってるよー(笑)」


「年齢的にさ、次付き合うなら結婚も頭に入れるだろ?」



「俺は逆に去年振られたぞ(笑)」
祐介が愚痴る



「そうだったな。みんなで慰めたな(笑)」


「美咲、飲まないの?」


「うん、禁酒、禁煙よ(笑)」

「それってもしかして……」

「そうなの、だから式することにしたのよ。ウェディングドレス着たくてね、お腹が目立つ前に写真も撮りたいじゃない」



「広樹はデキ婚かよ」

「まあな、でも結婚するつもりだったからやっちまった感は全然ないぞ」



「じゃあ、お腹の子供に乾杯~」

「乾杯~」

「雫ちゃんお料理教えてね」

「私でいいんですかね。広樹さんのお母さんとかでなくて」


「県内にいないからね。私の実家に広樹も住むかもしれないのよ」


「婿養子じゃなくて?」

「うん、多分ね。でもまだわかんないけど私一人っ子だしね。広樹が雫ちゃんの料理を美味しいって食べてたからそれだけでも覚えたくて」

「美咲が料理ねー」




一次会が終わり三組のカップルが帰っていった

残りは竜二のマンションへ




「一気に人数減ったな(笑)」

俊が寂しそうに言う

「でも、まあ……いつも全員揃ってたわけじゃなかったからな」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ」

「俺も客の指名入ってたら行けないしな」


「あっ、貴志さんは確かにそうですね」


「年に一度くらいは集まりたいよな」

今日の幹事の祐介も言う



「美咲がこれなくなっちゃったら淋しいな、来年試合出れない……雫ちゃんどう?」



「私、運動はあんまり得意ではないので綾さんとは実力の差がありすぎますよ。練習する時間もないですし」



「ハア、お見合いでもして見よっかな~」

「見合い?見合いするなら俺と付き合えよ」



みんなシーンとなる

「えっ、貴志、冗談?」

「冗談じゃないよ。そんなことみんなの前で言えるか」

「急すぎて……」

「お前の髪は俺がずっとカットするんだよ」



雫は竜二の手を繋いだ

「今のはプロポーズかな?」


竜二の耳元で囁く

竜二は雫の手を握り返した



「貴志は指名がよく入るくらいモテるし、女の子に誘われるでしょ?それに休みも私と合わないし……」

「客に手はださないよ。何かあったら今は何でも広がる時代だぞ」



「綾?俺らも休み合わなかったけどお互い話して一緒にいれる時間を考えて同棲という形にしたんだ。

最初食事に行ってから一ヶ月会えなくて、だから俺が強引にだけど一緒に住みたいって、朝の一時間、夜の二時間でも話したかったから。お互い話せば一緒にいる時間は作れるよ」



「俺もそうしたい。これから二人で話そう、行くぞ」

綾の手を繋いで帰ってしまった

「カップルが成立しましたね」

「急だな、なんかあぶれた感半端ないんだけど……」

「貴志って本当モテるんだぜ」

「確かにカリスマ美容師っぽいですよね、背も高いしスラッとしてて」



「雫ちゃん……」

「あっ、竜二さんもカッコいいですよ」

「も?」

「竜二、めんどくさい」

「はい」



竜二は大人しくなった

「貴志も竜二みたいに綾が最後の客になった時は食事には行ってたみたいだしSNSあげて貴志のことを知ってもらおうとしてカット行けば拡散してたから少しは意識してたんじゃないかな。

自分の顔は隠して貴志の顔は出してたから」

「あっ、そういえば見たことあるな」



「じゃあ、よかったということで……もう少ししたら年があけますよ」

残りのメンバーで新年を迎えた




年が開けて
真中家、昼

兄も帰って来ていて五人で正月を過ごした

雫と母は二人でお喋りをし、男三人でお酒を呑んでいた


「来年の二月か、わかった。空けておく」

「うん、ありがとう兄貴」



「竜二、四日の日の仕事の予定は?」

「二日に回りきれなかった店舗があれば四日にと思ってるけど……」


「じゃあ明日頑張って終わらせて四日は八階で接客しろ」

「接客?ってお茶出しとか?」

「お茶は秘書がいるだろ?お前も来客に挨拶しろってことだよ。顔を覚えてもらえってことだ」


「えっ……」



「時期社長の紹介ってことだよ、よかったな。竜二」

「まだ、早いよ親父は役職定年なんだからまだ年数あるし」



「バカ、まだワシは引退せんぞ。でも顔を覚えてもらうには早いほうがいいんだよ。今は跡継いでも誰もついてこないよ。今の役員が可哀想だ」

「横に立ってればいいってこと?」

「そうだ、後ワシが挨拶行く時にも連れていくから秘書同士で日程合わせろ」



「……わかった」

父はそう言うと雫と母の方へ行った



「結婚関係あると思う?」


「いや、結婚は直接関係は無いだろうけどお前が雫ちゃんを大事にしてることがわかるから社員も大事にできるようになってきたと判断したんじゃないか?」

「そっかな……」



雫がやってくる

「竜二さん、お父さんから聞いたよ。あれ、泣いてる?」

「雫ちゃん……」


「お兄さんにまた言われた?」

「またって?俺別に何も悪いこと言ってないよ」


「あっ、いえ悪い事ではなくてですね、この間も感謝してるってお兄さんに言われて帰ってきてから泣いちゃって……日本酒呑むと泣き上戸になるみたいで」



「あっ、こいつ三杯呑んだし、さっき誉めたわ(笑)」

「やっぱり~、可愛いんだけど日本酒注意なんですよ(笑)」


雫は竜二の頭をよしよしとなでる



夜まで真中家では賑やかな声が響いていた






四日には竜二は父の横に立ち来客に紹介された
そして年始の挨拶などで一月はバタバタと過ぎていった



紀之と、広樹の結婚式も二人で出席し
そして……

翌年の二月の大安の日曜日



式場

「雫ちゃん、出来たよ」

「貴志さん、ありがとうございます。お客様なのに頼んじゃってごめんなさい」

「いやいや、去年の二組もやってきたし、花嫁が綺麗になるのは嬉しいね。雫ちゃんは若いから化粧のノリもいいね」


「竜二さんの秘書の方にブライダルエステをしたほうがいいよって言われて通ったんですよ」


「確かにね、今度綾にも薦めてくれるかな(笑)」

「はい(笑)」



コンコン

「雫ちゃん、準備できた?」

竜二が入ってきた

「はい」


「可愛いね、貴志ありがとう」

「いや、まだまだこれからお色直しもあるから」


「雫ちゃん、ごめんね。仕事の関係で少し長くなってしまうけど」

「大丈夫です。竜二さんのこれからの支えになる人達ですから」

「じゃあ、行こうか」

「はい」




教会式が終わり雫はブーケトスをした

みんなが取り合う中、雫はもう一つ花束を持った


「綾さん、これどうぞ」

「えっ!」

「ブーケです。二つ用意してもらってました(笑)貴志さんとお幸せに……」



「ありがとう。さすが貴志のヘアアレンジだなって思う。可愛い」

「はい、可愛くしてもらいました」



「雫ちゃん、そこはまた……控えめに(笑)」

「あっ、また言っちゃった(笑)」

「男はほっといていいの。可愛いものは可愛いんだから自分で可愛いと思わなきゃ」


「俺が言いたいのに」



「雫ちゃん、可愛いよ」

「あっ、お兄さん。ありがとうございます」

「兄貴まで……」



「結婚式は花嫁が主役だからな。可愛いじゃないか」

「へへっ、竜二さんもカッコいいよ。後で前髪おろしてかわいくなってね(笑)」

「かわいいって……雫ちゃん、それは家で言って」

「はい(笑)」



二人の楽しい結婚披露宴が始まった



竜二のテニス仲間が盛り上げてくれ華やかな式となった






サクラスーパー本社ビル

四月一日、入社式

社長の挨拶

「七名のみなさん、入社おめでとう。これから三ヶ月の研修を受け各配属が決まります。まずは本社総務課付けとする」



辞令を次々に渡していく

「真中雫」

「はい」



「頑張ってください」

「はい!」



辞令を受け取った左手の薬指には結婚指輪が光っていた





END