「「大嶽丸を封じる!?」」

 私の提案を聞いて、どくろさんとろくろさんが目を見合わせる。
 
「だって、このままだと皆追いやられるんでしょう?」
「そうだけどよ……」
「でも怜ちゃんが言うからには、なにか思いついたことがあるんだよね?」
「はい、ろくろさん」

 もちろん無策ではない。
 
「ここに来る前、どくろさんが理科準備室であることについて話してくれたんです」
「俺が? なんか言ったっけ?」
「カメラやスマホがなかった時代、昔の人はあやかしを絵によって情報化していたっていう話があったじゃないですか」

 その中でこんな事も言っていた。

「かつての陰陽師は、絵を使って(、、、、、)あやかしを(、、、、、)封印していた(、、、、、、)

 どくろさんはそういう人間が過去にいたと公言していたのだ。
 
「た、確かにそう言いはしたけどよ……大昔の話だぜ? 現代でその技を再現できるのかっていうと……」
「でもやるしかない。私たちには限られた選択肢しかないんですから」
「……むむむ。だが仮にやるとして誰が描くんだよ? 今から京都にでも行って陰陽師探してくるのか?」
「まさか。私がやりますよ」
「へ?」
「私が描くと言っているんです」

 封印の類いは人間の領分だと先述していた。
 ならばこそ担い手になりえるのは私だけだろう。

「お、おま――絵なんて描けんのか?」
「描けます」
「え、えらい自信だな。虚勢だったりしねーだろーな? 笑ったりしないから正直に言ってみ?」
「バカにしないでください。私は上手い絵を描きます。むしろ上手いことだけが唯一の取り柄だったぐらいですから」

 だが今なら上手いだけの絵じゃない、もう一歩先の特別な絵を描ける気がする。
 それは覚悟を決めたから。
 彼らが覚悟を決めるキッカケを与えてくれたから。

「れ、怜がそこまで言うならあれだな、本当なんだろうな。でも昔の技だ、詳細な封印のやり方が分からねぇんじゃ絵が描けたところで……」
「一通りの手順はあたしが知ってる」
「え、まじかよろくろ」
「ふふ、実際にやられたことがあるからね」
「うわぁ、そりゃまたご愁傷様で……」

 ろくろさんは私に確認を取るように会話を繋げる。

「だけど技の性質上、あなたは封印対象である鬼のすぐ近くで筆を走らせる必要があるわ。がしゃどくろなどとは違って怜ちゃんは人間――最悪、死んじゃうわよ?」

 ろくろさんの口調は相変わらず優しいものだったけれど、その瞳には悲愴の色を薄らと帯びていた。
 
「そりゃそうさ。あやかしと違って人間はそう頑丈じゃない。ヘタをすればすぐ死んでしまう。あたしは何百年と生きてきて、身近な人間を何人も失ってきた。また今回もそうなるかも――と思うとね」
「リスクは承知しています。それでも私は挑みたい。挑まずにはいられない。私自身もうこれ以上逃げるのはウンザリですから」
「ふふふ、可愛いだけじゃなくて果敢なのねあなたは――よろしい、協力しましょう。もちろんがしゃどくろも力を貸してくれるわよね?」
「当然! 大嶽丸なんてまったく怖くないからな! 俺の方が怜よりも勇猛果敢に立ち回ってやるさ!」
「あらそう。じゃあ一番キツイ役割をあなたにお願いするわ。最悪魂ごと消し飛ばされるから気をつけて」
「え――あの、ろくろ? 怖くはないんだがな、やっぱりもう少しだけ安全そうな……」
「じゃ、作戦を練りましょうか、怜ちゃんまだ時間は大丈夫?」
「問題ないです。今帰ったところで寝れないでしょうし」
「あの、おふたりさん? 俺の声届いてる? というか俺のこと見えてる?」

 ということで。
 私の冒険は、私たちの冒険へと変わった。
 クライマックスはすぐそこだ。