あやかしの花嫁に選ばれる事は名誉な事だ。
 両親が花梨を大事にすることは仕方がないのかもしれない。

 あやかしは花嫁に何かあれば、その手を汚すことを厭わない程に、花嫁を溺愛するから。

 勘気を恐れる気持ちは分かる。
 だが、両親は最初から姉妹の間に愛情の差を子供達に分かるように接していた。

 それを見て育ったせいか、花梨も姉に対しどこか軽んじるようになっていった。
 幼い頃は普通の姉妹だったはずなのだが、明らかに柚子を下に見ているのを言葉の端々から感じる。


 家に居場所がないと感じるようになった。

 けれど柚子に味方がいなかったわけではなかった。
 祖父母だけはいつだって柚子の味方で、花梨ばかりに気を使う両親に何度となく苦言を呈してきた。


「花梨だけでなく、柚子の事ももっと気に掛けろ」

「お前達の娘は花梨だけじゃないのよ」


 そう言って、何度も両親に訴えてくれたが、両親には届かず。


「花梨は花嫁なのよ。優先するのは当たり前じゃない」

「そうだ。それに柚子はしっかりしているから大丈夫だ。けれど花梨には俺達がいなければ」


 確かに柚子はしっかりしている。
 けれど、それはそうせざるを得ない状況に両親がしたからだ。
 だって、自分で何とかしなければ、両親は助けてはくれないのだから。


 幾度となく繰り返された、祖父母と両親の話し合いは、いつも平行線。

 花梨は花嫁だから。大事な子だから。


 なら、自分は大事ではないのか?
 その答えを聞くことが怖くて、柚子は言葉を飲み込むしかない。

 結局、両親が変わることはなかった。