「ねぇ、この木は「クスノキ」って言うんだって。お母さんが教えてくれたの。漢字だと、木に南って書くんだって。時雨、知ってた?」
「へー!知らなかった。楠かー。じゃあ、ミキだね」
「え?」
「だから、南の「み」に木の「き」でミキ。名前はミキだ!」
「………え?楠だよ」
「いいの。ミキに行こう!とか名前で呼べるだろ?」
「なるほどー………わかった。じゃあ、これからは、この木の事はミキね!」
木に名前をつける何て、バカだなと自分でも思いながらも今はそれがよかったと思っている。ミキが喜んでくれたのだから。
この日は、何故か木へ登るのが上手くいき、上の方まで行ってしまった。もちろん、その楠は大木なので一番上には行けない。
時雨はまだまだ大丈夫だったが、薫が先に音を上げた。
「時雨………ちょっと疲れたよ……それにもう上にいくの怖い」
「何だよー!あと少しだけ。怖いならそこで待ってて………」
「えー………じゃあ、もう少しだけ頑張る」
薫は一人にされるのが嫌だったのか、悲しい表情を見せながら、また大きな木のミキに抱きついて登り始めた。けれど、次の大きな枝までは、少し長い間隔があった。