「泣かないで………楽しい誕生日にすんだろう?」
 「………だけど、ミキが………」
 「綺麗で優しい薫とデートが出来て、手を繋げて、薫が好きなプラネタリウムを見れて。最高に幸せな時間だった。薫、ありがとう」
 「…………ミキ………」


 薫がミキの顔を見つめる。
 そして、ゆっくりと空いている手で彼の緑色の髪に触れる。少し冷たいけれど、優しくふわふわとした髪。茶色の頬は温かい。
 今は目の前に居るのを感じられるのに、終わりが近い事を感じらるのだ。それは勘に似た予感なのだろう。

 ミキは薫の頬に触れる。
 そこには薫が流した涙があったのだろう。 
 そのままミキは頬に触れる。「柔らかくて、温かいね」と言い、嬉しそうに笑顔を見せる。


 「………薫、愛してるよ。………また、夢で会えるといいね」
 

 ミキは悲しみを堪えながらも、いつものように少年のように眩しい笑顔を見せた後、薫に顔にゆっくりと近づいた。
 そして、薫の頬に小さなキスを落とした。

 頬のキスは「親愛」の証。

 まさしくそんな証を感じられる、とっても優しくそして慈しむようなキスだった。

 薫の頬からミキが離れていく。
 彼の温もりは、冷たい風が全てさらってしまった。


 「ミキ………ねぇ、ミキ…………?」
 「…………」


 薫が瞬きをした後か、唇を離れた後か。
 辺りは濃い霧のような靄がかかった。
 あっという間に2人は靄に囲まれ、少しずつ目の前のミキの顔も見えなくなっていく。
 焦り、不安に駆られて薫はミキを呼んだ。彼の香りも温もりも感じられなくなる。ミキはそんな薫をただ悲しげな顔で見つめるだけだった。そして、ついに、彼の姿は見えなくなり霧が光を覆い、真っ暗闇になる。
 

 「ミキーーっっ!!!」


 自分の叫び声で、薫はハッと目を見開いた。

 起きていたはずなのに、目を開くというのはどういう事なのか?自分でもわからなかった。
 

 「薫………大丈夫か?」
 「……………し、時雨…………」


 薫は時雨の寝室のベットに横になっていた。

 窓からは、柔らかな太陽の光りがうっすらと見える。その視界はぼんやりとしている。
 薫は目を擦ると、自分の手には温かな涙があった。
 自分は泣いていたのだ。


 目の前にいる時雨は、薫を心配そうに見つめている。

 薫は、ただただ泣くことしか出来なかった。

 緑色の髪に褐色の肌の子どものような彼を、薫は忘れてはいなかった。