「だから別れるとか言わないで。俺お前大好きだからさ」


「……あのね」


「ん?」


「…いや。あたしもごめんなさい。悠希はクリスマスしたかったんだよね。ケーキすら食べなくて…ごめんなさい」


悠希はこたつ布団から顔を離し、上目遣いでまじまじとあたしの顔を見てくる。


見ないでってくらい恥ずかしい。


ごめんとか言っちゃってるし…


「ううん。いなくならないならいい。仲直り出来たからいいや!」


「馬鹿っ…」


悠希は暗い表情からまばゆい表情になり、突然パッと両手を広げ、力一杯抱き締めてきた。


あたしも自然と笑顔を取り戻し、拒まず受け入れている。


「でもさ…」


「ん?」


「来年は一緒にクリスマスしような」


「うん!しような!」


悠希の唇が頬に触れ、何度も頬の上を滑るキスし、徐々に唇へ移動する。


あたしは照れくさい反面、首に手を回し、悠希の唇に自分の唇を重ねた。


「ん~まっ。よし、やるぞ!」


「はっ?何をやるの?」


わざと唇を離し、いやらしい表情を浮かべる悠希は布団を指差す。


「やる事はただ一つ。あれだよ、あれ」


「あれって!?」


「ぶっ。エチィ~だ!」


「…ムードねえなぁ~あはははっ」


「笑ってんじゃねえよ~いただき!」


「ちょっ、これじゃ聖なる夜が性なる夜じゃねぇかよ!」


「オヤジギャグうるさ~い!」


キャーキャーふざけていたらあたしはそのまま布団に連れていかれ、服を剥がされた。
悠希も服を脱ぎ、あたしを求め上で激しく動くたび体はのけぞり、無我夢中で布団を掴んでいた。


愛して


愛してって悠希を確かめた。


クリスマスはなしになってしまったけど、来年までには素直になると自分自身に誓う。


来年のクリスマスは二人で祝っている。


必ず二人は一緒だと信じてる。


絶対なんてこの世に存在しない。


でも、絶対二人でいるんだと思えてならなかった。


悠希はあたしを


あたしは悠希を


こんなにも求めているのだから。


二人に別れがくるなんて


ありえない話。


あたし達は大丈夫だよって自分に言い聞かせ、あたしは悠希の腕に抱かれ、幸せを噛み締めていた。
悠希。


あなたはいつも優しさがさりげなかったよね。


あたし最近笑えるようになってきたんだよ。


運命の出逢いとか馬鹿らしいってずっと思ってたんだ。


でもね、あなたに逢って出逢いを馬鹿に出来ないんだなって心から思えるようになったんだよ。


出逢いを馬鹿にしてたあたしが本物の大馬鹿。


あなたはあたしの為にいつも必死だったよね。


心に真っ直ぐぶつかってくる。


あたしはあなたの真っ直ぐさが時々怖かったんだ。


でも


とてもうらやましかった…


あなたは眩しく輝いていました。


あたしにはもったいない


最高の彼氏でした。


そして


とても


とても


素敵でした。
クリスマス・正月と年を跨ぎ、まだ冷えは続いているがいつもの年より雪が少ないおかげか、暖かい日差しが時折差しかける。


その日は天気がよく、雪でガチガチだった路面は氷が溶け、外に出たくなるような空だ。


久しぶりにカーテンを全開にして全身に光を浴びる。


何色にも折り重なる陽射しの元には悠希がいて、いつも通りこたつに入り、まったりと過ごす二人の時。


部屋の暖かさと陽射し。


そいつが眠気を誘い、あたしは目を閉じかけた。


“ガサガサ”


するとどこから取り出したのか擦り合わせた音と共に、悠希はおもむろに紙袋を目の前に差し出した。


あたしは状況が掴めなくて、紙袋を見つめアホ面で頷き、ただただ笑う。


「ん!!」


「んっ?」


「ん!!」


手も出さず突きだされた紙袋を見てるだけのあたしに悠希は痺れをきらしたのか、紙袋に手を入れ、真っ白なパーカーを取り出した。


「鈍感すぎ。おまえ笑ってんじゃねえよ。ほれ、これあげる」


悠希の香水の匂いが付近を漂い、踊る心。


「この匂い大好き」なんて思いながらパーカーに手を伸ばし受け取って広げてみたら、サイズは大きい。


「香水の匂いするけどもしかしてこれ悠希着てたとか?」


「そう。お前に似合いそうだなって思って持ってきたんだ。着てみ!」


「え~似合うかなぁ~」


急なプレゼントが恥ずかしかったけど、照れて着てみたらぶかぶかで袖が手を覆う。


ますます全身が悠希の匂いに包まれ、鼻を袖に押し当て、大好きな匂いをかぐ。


まるで悠希に抱きしめられてるみたいで幸せだ。


「お~似合うじゃん。これ古着屋で買ったんだ。俺東京いた時、趣味で買いだめしてたんだぁ」


「悠希、めちゃオシャレだもんね」


「年代物とかヴィンテージ好きだかんな」


「つうかさぁ~」


「ん?なんだ?」


「いきなり変な提案しゃうのは可能?」


「変な提案ってなんだよ!?金ならやらんぞ!」


「いらねえよ!馬鹿か!そうじゃなくて近くでいいからこれ着て買い物行きたい」


あたしは嬉しさのあまりこの幸せな姿をみんなに見せて回りたい衝動にかられ、唐突に提案してみた。
さすがに急過ぎな展開に悠希は驚いている。


「今から!?」


「今、今!」


「いや、別にいいけどさ。う~ん…で、どこいこう…」


「歩、コンビニでお菓子い~っぱい買いたい!」


近場で人が出入りする場所といったら間違いなくコンビニだ。


勢いまかせで悠希に思いつきを言ってみると


「オケ!よし行くか」


一つ返事であっさりコンビニ行きが決定した。


思い立ったらすぐ行動なあたしが即立ち上がり、財布を手に寝癖頭で部屋を出ようとしたら、悠希は後ろに立ち、口に手を当て何か言いたげにしている。


「何?文句ある?」


「ん~文句はねんだ。ただ…」


「なんだよ。ハッキリ言えや」


「歩ってケツひよこみたいだな。口もとんがってるし」


「はぁ!?」


「ちっこい小動物っつうの?」


「さりげ失礼じゃね!?」


何を言い出すかと思えばあたしのコンプレックスを露骨に指摘して、失礼極まりない発言を悠希は発した。


下から顔を覗き見上げ、睨み付けたら


「でもそこが可愛くて。たまんねぇ~はははっ!ひよこケツが!」


「なっ、ちょっと」


力一杯抱きしめられ、焦りが隠せない。


「悠希ってば!離せ!!」


そう口にしたわりに本心は1つ1つが幸せで、こんなに幸せでいいのか戸惑ってしまう。


慣れない恋愛の流れにどうリアクションしていいかわからないし、調子が狂い、戸惑うんだ。
悠希の車に乗り、歩いて数分のコンビニではなく、結局隣の市に入る一歩手前のコンビニに向かった。


目的のコンビニに到着し、弾む胸を踊らせ貰ったパーカーの裾を引っ張り


“見て見て”といわんばかりに周りを見渡す。


「誰かいないかな~」


周りを見渡す限り外どころか店内に入っても客は一人もいなく、あたし達二人と女の店員のみで、見せて回るつもりがこれでは来損だ。


「ちくしょう。なんなんだよ」


テンションは下がる一方で独り言をぶつぶつ呟き、店内を歩いていると


「お菓子い~っぱい買うんだろ?」


悠希はオレンジ色の買い物カゴを手に持ち、肩を上げ下げしてクスクス笑い出した。


「よっしゃ!いっぱい買う!」


遊び心に火を着けたら止まらない。


人がいなかった不満もぶつけ、手当たり次第満杯になるまで商品をカゴにぶち込んだ。


大好きな板チョコ、新発売のスナック菓子、定番のポッキー…


手に触れたものは全て自動でカゴ行きになり、似た種類を鷲掴みしては店内を小走りに歩く。


お菓子


お菓子


お菓子…


みるみるうちにカゴはお菓子で山になり、手で抑えつけてもずり落ち、しぶしぶ数個戻す。


「お前やりすぎじゃねえか?」


「い~い~の!」


「待てって」


「うっさい!悠希はあっち行けぇい」


呆れ顔の悠希を放っておき、あたしはカゴを横から奪い、レジに持っていった。
「これください」


あまりのお菓子の量に店員はたじろぎ、腰が引け驚いた顔で固まっている。


「あの…これ全部ですか?」


「はい。全部お願いします!」


あたしは腰に手を当て「どうよこれ」と鼻の穴を広げ自慢気にポーズを決める。


店員はそんなあたしを見て吹き出しそうになっていたが、咳払いでごまかしていた。


お菓子を手にバーコードを一つ一つ読み取り始めた店員。


さりげなく二人をチラッと見ては、何か言いたげに口元を動かす。


あえて声をかけず知らんぷりをしていたら、店員はいきなり申し訳なさそうに声をかけてきた。


「あの~こんなに大量のお菓子を買うってお子さんにですか?」


「お子さん?へっ?誰の?」


「いや、まさか二人で食べるわけじゃ…ない…ですよね?」


この場には悠希とあたしの二人きり。


子供など連れていないのに不思議な事を言う店員だ。


「あの、あたし子供いませんよ?」


「あ、すいません。凄いお菓子の量なんでてっきりお子さんいらっしゃるのかと思いまして。でも見た感じお二人はめちゃくちゃ若いですしね。ふふっ」


ニ、三秒の間。


ちょっと待てよと頭は動く。


悠希との子供?えっ、夫婦!?


あたしは理解に困ったが段々状況を把握しだし、顔が熱くなった。


隣にいる悠希は肩を小刻みに震わせ、笑いをこらえている。


「お前なんだよ!」


「いってえぇ~」


照れを隠せなくて思いっきり力を込め背中を叩くと本当に痛かったらしく、顔をしかめた悠希。


「ざまあみろ!はははっ」


自分の照れを打ち消す大声で笑い、腹を抱える自分。
店員は二人のやりとりを見て一緒になって笑い、にぎやかにレジの会計は終わった。


「また来てくださいね」


「は~い。でも次はこんなにお菓子は買いませんよ。あははっ」


「そう言わずに二人でいらしてくださいよ」


「次はふたカゴ分のお菓子買いますんで~ってのは冗談でまたきま~す」


袋いっぱいのお菓子を悠希が持ち、あたしは店員に手を振り、愛想よく外へ向かった。


「ありがとうございました!」


外まで一緒に出てきた店員が深々と頭を下げる姿を確認し、車に乗ってドアを閉める。


と同時に「ぷっ。ぷははははっ」


悠希がこらえていた笑いを一気に放出し、大声で笑い始めた。


「お子さんだって。ははははっ!」


あたしも悠希の笑いにつられ、大声で笑えてしまう。


「うちら夫婦に見えたってよ!なんかすげえ~」


悠希はあたしと夫婦に間違われたのを嫌そうにせず、いい笑顔を浮かべていた。


若干鼻の下も伸び気味だ。


「子供いそうに見えたなんて、歩、老けた?」


「そうそう。年寄り!う、うそだからな!!」


「あぁん!?」


「でも、歩との子供かぁ~」


互いにかわす冗談。


言いあうのがなんかくすぐったい。


この雰囲気を壊したくない。


このまま語り合いたい…


あたしは自分の気持ちが止まらなくなっていた。


「悠希はジャニ系だから男の子でも悠希に似たら女顔だろうなぁ~目がパッチリで色白の超かわいい子になるね」


「歩に似たら、口悪くて態度デカくてとんでもない子になるな!」


「それひどくない!?」


あたしが笑って軽く肩を叩くと、悠希は真剣な顔付きになった。
「二人共真っ直ぐストレートだから髪はさらさらだな。鼻はどう頑張っても高くはなんねえ。まっ、俺に似たら頭は良いぞ~なんてな…」


一人でべらべら話す悠希。


その横顔に見とれていたあたしは


「お前どんだけ自分好きなわけ?」


幸せな会話に心地よさを感じたが、わざと悠希をちゃかした。


互いに凄いにやけ顔でまだ見ぬ二人の子供の想像が膨らんでいく。


二人に子供なんていない。


結婚の約束すらかわしていない。


繋ぐものなど何一つない。


それなのに悠希と夢中になってこの世に存在しない我が子について話していた。


「歩はどんな子に育って欲しい?」


「まぁ、あたしの子だから犯罪まがいをやらかすのは覚悟しなきゃね。でも人に不自由しない人に愛される子にはなって欲しいかなぁ」


「犯罪は困るが愛される子にはなって欲しいな」


「じゃ、悠希は?」


「俺は定番だけど五体満足なら文句ない」


「健康にはかなわないよな…バカでもいいが病気ばかりじゃ親も子もまいるしさ。なんせあたしは大手術を四回も経験した女っすからね。病気はノンノン」


「あっ。そうだったよな。歩、体にそん時の傷あるもんな…」