第一話 思い出のポテトコロッケ

 一

 東京から二時間弱、京都――、祇園。
 嘗て王都として呼ばれ、現在も千年の都と言われるこの場所は、絶えず観光客で賑わい、春は桜、夏は川床涼に祇園祭、秋は紅葉、冬は雪景色と四季様々な姿を見せる。
 祇園へ行くのなら、京阪電鉄・祇園四条駅から東へ真っ直ぐである。
 花街として一般に知られ、夕方になればお座敷に向かう舞妓や芸妓が通りを歩き、夏には八坂神社の例大祭・祇園祭で更に活気に溢れる土地である。
 俺は中学までこの祇園で過ごし、高校は東京の全寮制高校を受験、三年でこの京都に俺は戻って来た。今思えば何の為に三年間も東京まで行ったのか、当時の俺に聞いて見ないとわからないが、ただ一つわかっているのは、俺はこの町が好きなんだなと言う事だ。
『鍾馗さん』が鎮座する屋根瓦、紅殻格子に黒ずんだ塀、今なお残る京町家。
 周りがどんなに発展し続けても、この町はこれからも変わることはないだろう。
 俺はこの祇園で、意気揚々と洋食屋『一期一会』をオープンさせたが、裏通りにあるせいか客数は伸びず、俺の頭の中では、早くも『閉店』と言う文字が躍っていた。
 ただでさえ、洋食屋『一期一会』も昔ながらの京町屋である。
 店の内装は一部を弄ったが、外観には手をつけなかった。
 さすがにトイレは洋式にしたが、洋食屋の看板か暖簾がなければ、見過ごされる可能性大である。
 カウンター席だけの狭い店内、直線型の厨房には、二層シンクに調理台、冷凍冷蔵庫に製氷機、ガス台にコールドテーブルを設置。メニューは家庭でも作れるような洋食ばかりである。
『やはりここは、おしゃれなメニューにせなぁあかんやろ?』
 そう言ったのは、自称・座敷童子を名乗る男である。
 普通、座敷童子と言えば子供の姿で現れるが、奴は俺と変わらない姿である。確かに予告もなく突然現れるが、大人の座敷童子など聞いた事がない。
 妖怪の類いなど初めて視たが、居座る奴は文句も言えば態度もデカい。
「おしゃれなメニュー?」
『ほら、ナントカ風とかあるやないか? 最近はインスタ映えと言うのもあるさかい、見た目も大事やで』