月経前症候群でイライラした体に、うっかりひねった右の足首が痛い。

おかげでパーソナルポイント、PPが1524にまで落ちてしまった。

「そうだね明穂、体調が悪いようだけど、大丈夫?」

「大丈夫よ、ちょっと辛いけど、PP回復のためにも、頑張らないと」

「そうだね明穂、気をつけて、だけどあんまり無理しちゃダメだよ」

「ありがとう、たける。そろそろ行こうか」

「そうだね明穂、今日も元気に出発だ!」

イケメン年下執事アイドルのたける(ピンクうさぎAI)と一緒に、今日も仕事へ向かう。

人間には、目的と義務が必要だ。

それなのに、自分では人生の目的を見つけられない一般的大多数である75%以上の人類のために、人工知能がマッチングした職業の中から、自分の好みにあった仕事を選ぶ。

それがいいか悪いかなんてのは、結局はどんな仕事であれ、その仕事に就いた自分がどう楽しむかでしかない。

AIが選択を提示したりなんかせず、自分で一から考えて、転職と挫折をくり返し荒廃していく人生なんかより、ずっと効率がいい。

おばあちゃんも言っていた。

昔なんて、就職活動してたのよ。

それでも自分の希望する仕事とか会社に素直に入れる人間なんて、ほとんどいなかったわ。

決まった会社で、それなりに頑張るしかなかったのよ。

今じゃ自分の希望が一番、しかもAIがマッチングで選んでくれるなんて、ずいぶん楽になったわねーって。

私は、初めからこの仕事を目指していたわけではない。

というか、こんな仕事がこの世に存在することすら、知らなかった。

世の中にごまん以上ある職業のうち、大学卒業と共に受けた職業適性マッチングの項目の一つに、この仕事があった。

自分の知らない仕事をAIが提示してくれるのも、この仕組みの素晴らしいところ。

人生の岐路後に知った新たな職業に、自分もなってみたかったなーなんてことに、ならなくてすむ。

ここが特殊な職場であることも事実だ。

全就労人口における就労率が1%以下、そこに惹かれた部分もある。

これだけの管理・監視社会の中で、いったいどんなことが起こっているのか。

何がどう管理され、運営されているのか、それが知りたかった。

そうじゃなかったら、私は警官になることを夢見ていた。

出局して淡々と業務をこなしているのに、さっきから私の横顔に、ちくちくと刺さる視線がある。

分かっていながら無視してるのに、これだけチラ見されると、さすがに無視もしづらくなってきた。

「さっきからなんですか、横田さん」

「PPが落ちてる。君はこのまま、仕事をしていてもいいのか」

この人は、仕事熱心といえば仕事熱心なのだが、神経質といえば神経質すぎる。

「大丈夫です。たいしたことではないので」

そのセリフに、なぜが冷徹横田の顔が真っ赤になった。

「じょ、女性の生理は自然現象であり、生理前後にPPが落ちるのは全くの問題にならない。人体に炎症反応もみられる。どこか怪我をしているんじゃないのか?」

「……横田さんって、そういうところは古くさい考えをお持ちなんですね。生理だからって、平気ですよ」

「俺は、チームのことを考えて言ってるんだ! 無理に仕事をする必要はない!」

「本人が大丈夫だって言ってるんだから、いいじゃないですか」

「そーか、ならもう知らん、好きにしろ」

少し離れた席で、真っ赤になったままデスクに向かう冷血横田の背中は、何か笑える。

女嫌いで有名なこの人でも、気を使うところには、案外ちゃんと気を使う人なんだな。