翔大こと、shortar 2018 NSKは、今も宇宙空間を秒速20kmで地球に向かってやって来ている。
そんなに急いで俺に会いたいのか、かわいい奴だな。
だけど、困った子だ。
緊急国際会議で、打ち落とすことが決定した。
しかし、その手段は未決のままで、各国との国際連携もはっきりしていない。
日本では、俺がなんとか話しをつけようと努力しているけど、これがアメリカとかなら、サクッと話しが進んでたりするのかなぁ。
よそんちの事情は、俺には分からないけど。
もし、現在ある長距離弾道ミサイルで翔大を迎え撃つとしよう。
そもそも、なんでそんな長距離を飛ばせるのかというと、実は目的を持って飛ばしているのではなく、基本的に高く上に飛ばして、そこからの自由落下で飛距離を稼いでいるのだ。
打ち上げる位置と角度だけ計算に入れて、後は物理の慣性の法則。
すごいもんだ、科学って。
大陸間弾道ミサイルだとか、ICBMだとか、もったいぶった名前がつけられているけど、要は、古代の大砲から鉄球を打ち出す仕組みと何も変わっていない。
で、現代のその最高到達地点は、地上から1,000から1,500km程度に達する。
つまり、翔大を迎え撃つ限界が、地上1,000kmってことだ。
1,000kmといえば、東京から九州鹿児島の種子島、
北なら北海道のサマロ湖とか紋別、網走あたりになる。
東京から、その距離で翔大を迎え撃つ。
翔大は秒速20km、1,000kmの距離を、50秒、約1分で移動してくるんだぜ。
ちなみに地球は大気圏という空気の層で守られている。
地上に隕石がめったに落ちてこないのは、この大気圏が地球を覆って、守ってくれているからだ。
地球にやって来た隕石は、地上に落下する前に大気圏内で燃え尽きて消滅する。
その大気圏の厚さは、実は100km程度しかない。
100kmって、東京から富士山、大阪から淡路島の南端、福岡からなら熊本とか長崎、札幌から室蘭、登別あたりの距離だ。
カーマン・ラインという線引きが国際航空連盟によってされていて、海抜高度100 km以上が宇宙空間、それ以下は地球の大気圏内と決められている。
流れ星は、地上約110kmくらいの熱圏と呼ばれる宇宙空間から熱を帯び光り始め、大気圏内の中間圏という80km程度の距離で燃え尽きる。
そう思うと、流れ星って、案外手の届く距離までやって来てるんだよな、
いや、手を伸ばしても絶対届かないけど。
俺たちの作戦はこうだ。
ミサイルの届く、出来るだけ遠い距離で翔大を可能な限り細かく粉砕する。
地上1,000kmから150kmくらいまでの距離が勝負だ。
時間にすると、42.5秒しかないけど。
そこまで考えて、俺はふと疑問に思ったことを口にする。
「あの、翔大が地球に落下する前に、軌道をずらしてお取引願うことって、できない
んですかね。地球の引力で、翔大が引きつけられて落ちてくる前に、あっちにいけ
よっていう」
「それは、『重力圏』のことを言っているのかな?」
栗原さんが言った。
「重力って言うのはね、距離の2乗に比例して、弱くなりながらも、無限に影響する
んだ、無限にね」
「宇宙の端まで?」
「宇宙の端まで」
君と僕は、重力で常に引かれ合っているっていう、アレか。
「ま、君が言いたいことは分かるよ、なぜ月が落ちてこないのかってやつだろ。月までの距離は38万kmで、大体その、いわゆる地球の重力が影響を及ぼす距離は26万kmぐらいまでなんだ」
「じゃあ、月より向こう側で軌道を変えないと、意味がないってことですか」
「そうだね」
月までロケットを飛ばせるのなら、それも不可能でないような気がしないでもないけど、でも、今から約2年後、それまでにそんなロケットを作って飛ばせるかどうか疑問だ。
一時、一世を風靡した探査機はやぶさのイトカワへの着陸だって、当初は4年計画だったのが、7年に延長されている。今回は、それの半分だ。
「軍事用人工衛星みたいなので、レーザービームで破壊、とか?」
「それこそ、国家の軍事機密に関連してくるから、俺たちではどうしようもないよ」
夏の日が沈む。夕暮れの空に、一番星が輝いた。
「しまった。ガンダムとか、AKIRAのSOLみたいなのを、俺が作っておけばよかった」
俺がそう言うと、栗原さんは笑った。
「無理だろうね、基本、人間が作る軍事用衛星って、常に地球に向けて、つまり人間
に向けて作られているものであって、それは外に向かって発射されるようには、出
来ていないからね」
「人間の作ったものは、人間を対象にしてるってことですか」
「気象衛星なんかも、そうじゃないか。衛星を使った道路ナビなんかも、結局は内向
きだからね。もちろん、天文観測用の衛星も打ち上げられているけど、あくまで観
測であっって、今回の件に関しては、残念ながら無力だ」
そう、翔大の一番の問題は、時間がないということ。
「四つ割れ作戦で、なんとかなりますかね」
「今、世界の天文学者が、総力をあげてショウターの成分分析を行っている。大気圏
内で消滅させるためには、ショウターの主成分が、何で出来ているかが問題だ。
それによっては、4つでは不可能かもしれないし、大気圏への、進入角度も計算に
入れなければならない」
夏の夕暮れ、赤い日差しは、太陽光の可視波長が、空気中に散乱しないで赤い色だけが残ったから。
日没の1分前には、実はもうすでに太陽は沈んでいて、人が見ている夕焼けの太陽は、屈折効果による単なる幻なんだって。
「大事なものは、目には見えないんですね」
「そういうこと」
この空に浮かび、地球に向かってきている翔大も、今は見えない。
夕焼けの太陽も、実は存在していない。
人間は、この世で起きている事柄の、ほんのわずかなことしか、見えていないんだ。
今目の前にいる栗原さんも、実は原子の集合体で、たとえ人工培養で脳も臓器も神経も、全て手作りして完璧につなげ合わせたとしても、それが命を持つことはないんだって。
「見えないって、いいことなんですかね」
「でもね、人間は、見えていなくっても、知ることは出来る生き物なんだよ」
そう言って、栗原さんは笑った。
そうだ、翔大は目に見えなくても、俺はそこに翔大がいることを知っている。
この俺自身が、ほぼ炭素原子の集合体であっても、生きていることを実感できる。
知っているって、すばらしい。
そうだ、大事なものは目には見えないって、星の王子さまが言ってたんだ、
サン・テグジュペリだ。
星の王子さま。やっぱり星だった。
そんなに急いで俺に会いたいのか、かわいい奴だな。
だけど、困った子だ。
緊急国際会議で、打ち落とすことが決定した。
しかし、その手段は未決のままで、各国との国際連携もはっきりしていない。
日本では、俺がなんとか話しをつけようと努力しているけど、これがアメリカとかなら、サクッと話しが進んでたりするのかなぁ。
よそんちの事情は、俺には分からないけど。
もし、現在ある長距離弾道ミサイルで翔大を迎え撃つとしよう。
そもそも、なんでそんな長距離を飛ばせるのかというと、実は目的を持って飛ばしているのではなく、基本的に高く上に飛ばして、そこからの自由落下で飛距離を稼いでいるのだ。
打ち上げる位置と角度だけ計算に入れて、後は物理の慣性の法則。
すごいもんだ、科学って。
大陸間弾道ミサイルだとか、ICBMだとか、もったいぶった名前がつけられているけど、要は、古代の大砲から鉄球を打ち出す仕組みと何も変わっていない。
で、現代のその最高到達地点は、地上から1,000から1,500km程度に達する。
つまり、翔大を迎え撃つ限界が、地上1,000kmってことだ。
1,000kmといえば、東京から九州鹿児島の種子島、
北なら北海道のサマロ湖とか紋別、網走あたりになる。
東京から、その距離で翔大を迎え撃つ。
翔大は秒速20km、1,000kmの距離を、50秒、約1分で移動してくるんだぜ。
ちなみに地球は大気圏という空気の層で守られている。
地上に隕石がめったに落ちてこないのは、この大気圏が地球を覆って、守ってくれているからだ。
地球にやって来た隕石は、地上に落下する前に大気圏内で燃え尽きて消滅する。
その大気圏の厚さは、実は100km程度しかない。
100kmって、東京から富士山、大阪から淡路島の南端、福岡からなら熊本とか長崎、札幌から室蘭、登別あたりの距離だ。
カーマン・ラインという線引きが国際航空連盟によってされていて、海抜高度100 km以上が宇宙空間、それ以下は地球の大気圏内と決められている。
流れ星は、地上約110kmくらいの熱圏と呼ばれる宇宙空間から熱を帯び光り始め、大気圏内の中間圏という80km程度の距離で燃え尽きる。
そう思うと、流れ星って、案外手の届く距離までやって来てるんだよな、
いや、手を伸ばしても絶対届かないけど。
俺たちの作戦はこうだ。
ミサイルの届く、出来るだけ遠い距離で翔大を可能な限り細かく粉砕する。
地上1,000kmから150kmくらいまでの距離が勝負だ。
時間にすると、42.5秒しかないけど。
そこまで考えて、俺はふと疑問に思ったことを口にする。
「あの、翔大が地球に落下する前に、軌道をずらしてお取引願うことって、できない
んですかね。地球の引力で、翔大が引きつけられて落ちてくる前に、あっちにいけ
よっていう」
「それは、『重力圏』のことを言っているのかな?」
栗原さんが言った。
「重力って言うのはね、距離の2乗に比例して、弱くなりながらも、無限に影響する
んだ、無限にね」
「宇宙の端まで?」
「宇宙の端まで」
君と僕は、重力で常に引かれ合っているっていう、アレか。
「ま、君が言いたいことは分かるよ、なぜ月が落ちてこないのかってやつだろ。月までの距離は38万kmで、大体その、いわゆる地球の重力が影響を及ぼす距離は26万kmぐらいまでなんだ」
「じゃあ、月より向こう側で軌道を変えないと、意味がないってことですか」
「そうだね」
月までロケットを飛ばせるのなら、それも不可能でないような気がしないでもないけど、でも、今から約2年後、それまでにそんなロケットを作って飛ばせるかどうか疑問だ。
一時、一世を風靡した探査機はやぶさのイトカワへの着陸だって、当初は4年計画だったのが、7年に延長されている。今回は、それの半分だ。
「軍事用人工衛星みたいなので、レーザービームで破壊、とか?」
「それこそ、国家の軍事機密に関連してくるから、俺たちではどうしようもないよ」
夏の日が沈む。夕暮れの空に、一番星が輝いた。
「しまった。ガンダムとか、AKIRAのSOLみたいなのを、俺が作っておけばよかった」
俺がそう言うと、栗原さんは笑った。
「無理だろうね、基本、人間が作る軍事用衛星って、常に地球に向けて、つまり人間
に向けて作られているものであって、それは外に向かって発射されるようには、出
来ていないからね」
「人間の作ったものは、人間を対象にしてるってことですか」
「気象衛星なんかも、そうじゃないか。衛星を使った道路ナビなんかも、結局は内向
きだからね。もちろん、天文観測用の衛星も打ち上げられているけど、あくまで観
測であっって、今回の件に関しては、残念ながら無力だ」
そう、翔大の一番の問題は、時間がないということ。
「四つ割れ作戦で、なんとかなりますかね」
「今、世界の天文学者が、総力をあげてショウターの成分分析を行っている。大気圏
内で消滅させるためには、ショウターの主成分が、何で出来ているかが問題だ。
それによっては、4つでは不可能かもしれないし、大気圏への、進入角度も計算に
入れなければならない」
夏の夕暮れ、赤い日差しは、太陽光の可視波長が、空気中に散乱しないで赤い色だけが残ったから。
日没の1分前には、実はもうすでに太陽は沈んでいて、人が見ている夕焼けの太陽は、屈折効果による単なる幻なんだって。
「大事なものは、目には見えないんですね」
「そういうこと」
この空に浮かび、地球に向かってきている翔大も、今は見えない。
夕焼けの太陽も、実は存在していない。
人間は、この世で起きている事柄の、ほんのわずかなことしか、見えていないんだ。
今目の前にいる栗原さんも、実は原子の集合体で、たとえ人工培養で脳も臓器も神経も、全て手作りして完璧につなげ合わせたとしても、それが命を持つことはないんだって。
「見えないって、いいことなんですかね」
「でもね、人間は、見えていなくっても、知ることは出来る生き物なんだよ」
そう言って、栗原さんは笑った。
そうだ、翔大は目に見えなくても、俺はそこに翔大がいることを知っている。
この俺自身が、ほぼ炭素原子の集合体であっても、生きていることを実感できる。
知っているって、すばらしい。
そうだ、大事なものは目には見えないって、星の王子さまが言ってたんだ、
サン・テグジュペリだ。
星の王子さま。やっぱり星だった。