パパか恋人かどっちなのはっきりさせて!

今朝は早く目が覚めてしまった。まだ、薄暗い。何回か寝返りを打っていたら、パパが腕を伸ばして私を抱き寄せた。パパも目を覚ました。

「パパのいびきすごい。時々夜中にそれで目が覚める。明け方もそうだった。でもパパのいびき好きよ。とても気持ちよさそうだし、仕事を頑張って、私を可愛がってくれて、疲れているんだなと思うと、嬉しくなって抱きつくの」

「ごめん、気が付かなかった。気を付けると言っても気の付けようがないけど」

「でもね、抱きついたらいびきが止まるの」

「うるさい時はいつでもそうしてくれた方がいい」

「そのいびきが突然聞こえなくなる時があるの。驚いて、死んじゃったんじゃないかしらと、息をしているか確かめてしまうの。息をしているのが分かると安心する。だから、いびきは生きている証拠。聞いているうちに、また自然と眠ってしまうし、もう慣れた」

「久恵ちゃんもいびきをかくんだよ。そんなに大きな音ではないけど、いびきだと分かる。それが聞こえると、やっぱり仕事や家事で疲れてるんだなあと思う。すると、可愛くてしかたなくなって、抱き寄せる。すると大体治まる」

「二人とも同じことをしていたなんて、やっぱり気が合うんだ」

「でも二人ともいびきをかくのはやっぱり疲れているのだと思う」

「いびきのかきっこをしていればお互いに気にならないかも」

「久恵ちゃんの寝顔も好きだよ。夜中に目が覚めることがあるけれど、薄明りの中で寝顔を見ていると自然に時間が経って、また眠りに落ちてしまう」

「どんな顔して寝てる?」。

「いつもは、安心しきった穏やかな顔をしているけど、ときどき眉をひそめて、困ったような顔をする時があるけど、頬や髪をなでてやったりすると、穏やかな顔になる」

「撫でてくれているんだ」

「また、疲れているのか、チョットだらしなく、口を開けて寝ているときもある。そういうときは、大概、よだれをたらしている。それを口で吸いとる。これが甘くておいしい」

「ええ、おいしい? 変態じゃない?」

「そうかもしれない。近頃だんだんおかしくなってきている」

「そんな寝顔も見られているんだ。ちょっと恥ずかしいけど、いつも見守ってくれていていると思うと嬉しい」

「昨夜は、困ったような顔をしたので、いつものように髪をなでてやっていると、寝言をいった」

「何て言った」

「『もっとして』と言っていた。きっと途中で『おしまい』と止められた夢でも見ているのかと思った」

「はじめのころ、すごく痛かったので途中でやめてくれたけど、本当は最後まで押さえつけてでもしてほしかったから、そうだと思う」

「そうだったの?」

「私ね、中学3年生のころだったと思うけど、ママの手首に赤い痕があるのを見つけて、それどうしたのって聞いたの。そうしたら、ママは真っ赤になって恥ずかしそうに、買い物で重い荷物を手に掛けたから痕がついたみたいといって隠していた。高校生になってある時、パパの本棚に女の人が縛られている写真が載っている本を偶然に見つけたの。それでママはきっとパパに縛られていたんだと思った。それを思うと身体が熱くなった。だから今でも縄を見るとゾクッとするの。どうして愛し合っているのに、そんなことするのだろう」

「男と言うのは愛する女を自分のものにしたい、そして服従させたい、やりたいことをしたいと思っている。縛るというのは相手の自由を奪うことで、服従しかない状況におく。そして自分のものとして思い通りに、やりたいことをすることによって、その所有感、満足感に浸る。一方、女というのは、誰かに愛されたい、独占されたいという願望があるのではないのかな? だから服従を迫られると、それは独占されることになると思い、その満足感に浸れるのではないのかな?」

「私は、よく分からない」

「パパ、今度、縛ってみて」

「うん。無理やり奪ってみてと言われて試したとき、抵抗されてとても大変だった。はじめに縛っておくと随分楽だろうと思った」

パパは早朝からこんなとりとめのない話が楽しくてしかたないみたい。これもピロートークというのかな? いや、起きがけトーク? いや、早朝トーク? ラジオのトーク番組みたいだ。

もうこんな時間になった。すぐに起きよう!
今日は土曜日で朝はもうすこしゆっくり寝ていたいところだけど、下腹が痛い。もうトイレに3回も行ったけどやっぱり出ない。

「どうしたの? お腹の具合でも悪いの?」

「あのー、ここ5日ばかりウンチが出ていないんです」

「ええ、そりゃー大変だ。苦しくないの?」

「苦しいけど、出ないものは出ないの。私、緊張すると便秘になるんです。ここのところずっと夜、緊張していたので」

恥かしいけど、パパに話してしまった。

「なんで早く言わないの、便秘薬があったのに」

「恥ずかしかったから、でも下腹が痛い」

「そうだ浣腸したらいい。イチジク浣腸」

パパが駅前の薬局に買いに行ってくれた。また必要になるかもしれないと2箱も買ってきてくれた。帰ってくるまで頑張ってみたがやっぱり出なかった。

「買ってきたけど、使ったことある?」

「ないけど、使い方が書いてあるからそのとおりにやってみる」

トイレで試みるが、うまく中に入らない。やっぱりだめだ。出ない。どうしよう。

「やっぱり出ない、下腹とお尻の穴が痛い」

「浣腸の仕方が下手じゃないのか? やってみていい?」

「恥ずかしい」

「はい、お尻を出して」

私は恥ずかしくてどうしようか迷った末に覚悟を決めた。トイレの前で四つん這いになって下着を下げてパパにお尻を見せる。

パパがお尻の穴を真剣に覗き込んでいる。全部丸見えだ。恥ずかしい。

「太い黒いウンチが顔をだしているよ」

パパは薄いビニールの使い捨て手袋をしてきた。パパが触っているのが分かる。

「これは固い。痛いはずだ。これは手で取り出さないと」

もう、お尻の穴をほじくって取り除き始めている。

「固いけど、ポロポロとれる。顔を出している部分を取り除いたら、普通のお尻の穴になった」

パパはさらにお尻の穴に指を入れてくる。奥の方から掻き出しているのが感触で分かる。気持ちいい! だんだん楽になってきた。

「楽になった。ありがとう」

そういうと、ようやくパパがお尻の穴から指を抜いてくれた。恥ずかしい格好をしていたので、すぐにトイレに駆け込んだ。

トイレに入るとすぐにウンチが出た。快感! ホッとした。すぐに水を流す。

恥ずかしさも収まったのでトイレから出ていくと、パパが申し訳なさそうな顔をして待っていた。照れくさいので言ってしまった。

「出たー! 20㎝はあったわ、太いのが、パパに見てほしかったけど」

「結構です、はしたない。うら若き女性の言うことか!」

「恥ずかしくて、恥ずかしくて」

「臭い仲になってしまったね」

「望むところですから」

その後、恥かしさも治まってきたので、私は以前にも同じことがあったことを思い出して話をした。

「パパとママが結婚して、3人で一緒に生活を始めてからしばらくして、今まで男の人と同居したことがなかったので、やはり過度の緊張で便秘になったの。

夜中にお腹が痛くて痛くて我慢できなくなって、両親に言ったところ、パパがとても心配して、すぐ119番に連絡して、見てくれる病院を探して、車にのせて連れて行ってくれた。処置は今回と同じで看護師さんが手で掻き出して浣腸してくれた。

パパは、『なぜ早く言わない。体の具合が悪かったら、遠慮しないで、すぐに言わないと。もう家族なんだから』と言ってくれて『大事にならなくてよかった、本当によかった』と喜んで、抱き締めてくれた。これまで父親に接したことがなかったので、とても頼もしくて、嬉しかったのを覚えているわ。

また、パパは暇を見て勉強も助けてくれたので、とてもありがたかった。父親ってこういうものなんだと、父親ができて初めてうれしいと思ったの。

それで、それまでおじちゃんと言っていたのをパパと呼んでいいかと聞いたところ、照れくさそうに『パパか』と言って『いいよ』と、とても嬉しそうだった。それから、徐々にパパが好きになっていったの」

死んだ崇夫パパと今のパパは兄弟だった。道理でどこか似ている。このウンチ事件から、私は夜に明かりを消してと言うのをやめた。恥ずかしいけど私の全部を見てもらって好きになってほしいと思ったからだ。

そして、二人には、人にはとても言えない秘密ができて、前よりもっと気持ちが通じ合うようになった気がする。夫婦ってこんなふうに少しずつ絆が深まって行くのかしら?
伊豆下田でお互いの気持ちを確かめ合い結ばれてから、今日でほぼ2週間になる。間に生理があって、ようやく痛さがなくなってきた。よかった痛くなくなってとお風呂から上がって身支度をしているとパパがドアをノックする。

「今日はここに泊まってもいい?」

「嬉しい、ソファーに座って下さい」

隣に座ったパパが私を優しく抱き寄せる。

「痛くなくなってきたのでもう大丈夫です」

抱きつくと、パパはいつもよりもゆっくりと私を可愛がってくれた。とうとう最後までできた。幸せ! ずっとこのままでいたい! 「嬉しい」と声に出した。

パパはちゃんと避妊をしてくれている。今、私が妊娠したら可哀そうだと思っているのだろう。それよりも、もう少し二人だけの生活を楽しみたいと思っているのかもしれない。

私はまだ余韻に浸ってジッと動かない。パパがそっと布団をかけてくれて、隣に横たわって、手を握ってくれた。腰がだるい。

いつの間にか寝入ってしまった。目が覚めてトイレに立って戻ってくると、パパが私を見ているのに気づいたので「うしろから抱いて寝て」と身体を滑り込ませた。パパが耳元で話始める。

「兄貴が死んだ時、大人になった久恵ちゃんを見て、とても愛おしく思った。自分の手元に置いておきたいと思ったから、東京へ誘った。それからというもの、どれほど自分のものにしてしまいたいと思ったことか。楽しい生活が続くほど、その思いが募った」

「私もパパのこと嫌いでなかったから、東京で面倒を見てくれると言ってくれたとき、とても嬉しかった。本当にあの時は一人ぼっちでとても寂しかった。これから、どう生きて行こうかと不安だった。それから学校まで行かせてくれるというので、どうお礼をしていいのかと思った。だから、愛人になってもいいと言ったのは、あれは本心から。パパのこと慰めて上げられれば、それがお礼になると思ったの。だから、始めから、いつパパが私の部屋に入ってきて私を求めても覚悟はできていたの」

「そうしてしまいたいと思うことは、確かにあった。でもそうしたら、久恵ちゃんを傷つけてしまうことになると思っていた。それは絶対にできないし、してはいけないと」

「パパが私を大切に大切にしてくれるから、どんどん好きになって行ったの。お部屋に入ってきて、パパのものにしてほしかったけど、パパはそっけなくて寂しかった。でも、あのキスをしてもらった時に分かったの、パパの気持ちが、本当は私がほしいんだと」

「あの時は確かにとても幸せな気分だった。あんなことを言ってくるとは思いもしなかった」

「あの時のパパ、キスがとても上手だった。それに、女性の扱いにとても慣れている感じがする。パパは確か恋愛がうまくいかずに結婚できなかったと言っていたけど、なぜ?」

「僕が結婚できなくて、憂鬱な生活を送っている時に、面倒を見てやっている後輩がソープランドへ誘ってくれた。寂しさを紛らわすために、それから度々通った。そこで、女性の扱いを学んだ。でも刹那的な関係の虚しさが募ったので、いつの間にか行かなくなった」

「そうなんだ。でも、もう絶対に行かせない。私が満足させてあげる」

「分かっている。行かないと約束する。それと気になっていることがあるけど、聞いていい?」

「いいよ、何でも聞いて」

「歳の差のことなんだけど。久恵ちゃんが22歳、僕が40歳で18歳も離れている。パパが60歳の時は、まだ42歳なんだよ。それでもいいのかい?」

「両親が死んだ時に思ったの。人間いつ死ぬか分からない。それなら今日を精一杯生きればいいと。精一杯生きた今日の連続が人生だと。先のことなんか分からないから、パパとの一日一日を大切にしたいの。それにパパが調理師免許を取らせてくれたから、いつでも仕事は見つかると思うし、住むところもここにあるから、一人でもシングルマザーでもなんとかやっていく自信ができました。ママも一人で私を育ててくれたから、私にもきっとできるはずです」

「その覚悟を聞いて安心した。でも、僕は死ぬまで久恵ちゃんを守り抜くことを誓うよ」

「ありがとう。頼りにしています」

「うちの母親が言っていたけど、死ぬ死ぬと言っている奴に限って死んだ者はいないそうだ。将来展望も大事だよ」

後ろから抱いてもらっているので背中が暖かい。安心と幸せでいっぱいだ。いつの間にか眠ったみたい。パパが何か耳元で話していたけど覚えていない。
週末に二人で区役所へ婚姻届を提出しに行った。婚姻届には証人が必要だったので、パパは後輩の春野さんとマンションの管理人さんにお願いした。

春野さんはパパの3年後輩で年齢は4つ下だそうだ。今の広報部のポジションに移る前の企画部にパパの後任として研究所から異動してきたという。

研究所でも付き合いはあったけど、本社でより親しくなり、本社勤務の不安があると思い、先輩として仕事のコツを教えてあげて、仕事の相談にものってあげたところ、非常に感謝されて、兄のように慕ってくれるようなったと言っていた。

春野さんには年下の付き合っている彼女がいて、最近プロポーズをしてようやくOKをもらったという。

「ようやく?」

「歳が離れているそうだ」

「どれくらい年が離れているの?」

「12歳も年下だそうだ。まあ、僕が勝っているけどね」

「パパとは気が合いそうね」

「自分はロリコンだといっていた」

「ロリコン?」

「そう、正確にはロリータ・コンプレックス。中年の男性が年の離れた少女を愛するウラジーミル・ナボコフの小説「ロリータ (Lolita)」に由来するといわれている」

「その人、年下と言っても、小学生や中学生が好きなの?」

「いや、そうではないんだ。彼は小学生のころ活発な女の子が周りに大勢いて随分からかわれていたので、同年代の女の子には引け目を感じて話すこともできなかったそうだ」

「それで年下がいいんだ」

「中学、高校、大学と同じでどうも同年代の女子には引け目を感じてダメだそうだ。会社ではしっかり議論したりしているようだけど、プライベートになるとだめだそうだ」

「よっぽど、小学生のころのことが影響しているのね」

「歳が離れていると優越感というか安心感があるからと言っていた。春野君はイケメンだし、仕事もできるし、人柄もいいし、超有名国立大学も出ている。コンプレックスなんて誰にでもあるんだね」

「私は歳の差なんか気にならないけど」

「だから、僕にはよかったんだ」

◆◆ ◆
管理人さんも喜んで証人になってくれた。

管理人さんとはパパがマンションの役員をしているときに親しくなったそうだ。マンションの空きが出た駐車場の希望者への割り当て方法で、ずっと待っている人と新たに希望した人の扱いをどうするかでもめていた時に、その解決方法を考えてあげて隋分感謝されたという。

「管理人さんは二人で挨拶に来た時にこうなると思っていたそうだ。どうしてかと聞いたら『お嬢さんが川田さんを見る目ですぐに分かりました。歳が離れていましたが、あなたのことが大好きでお嫁さんになりたい、そういう目をしていました。そして妻ですと言ったでしょう。突然のことで驚きましたが、本心なんだと思いました』と言っていた」

「管理人さんはあの時、私たちの将来を見抜いていた?」

「僕がその時にそれを否定しなかったから、僕もそう思っていると感じたそうな」

「パパがあのとき黙っていたのは、そうだったの?」

「悪い気はしなかった。でも歳の差があり過ぎるのでそうはならないだろうと思っていた」

「でもそうなったわ」

「なるべきしてなったのだと思う。僕は歳の差を気にしていた。管理人さんに良い話を聞いた。管理人さんも奥さんとは15歳も歳が離れているそうだ。でもあの歳になると年齢差を感じることはないそうだ。一緒に暮らしていると、歳の差が縮まっていくと言っていた。そういうものなので、健康に気を付けてお互いに長生きすればいいのだと」

「一緒に暮らしていると、歳の差が縮まるか、そうかもしれない。確かにパパはこのごろ随分若返った気がする」

「それならいいけど」
ゴールデンウイークに入るとすぐに婚約指輪と結婚指輪を二人で買いに出かけた。

「せっかくだけど、婚約指輪は買う必要はありません。誕生日に誕生石の高価な指輪を買ってもらったのでそれでいいですから」

「連慮しなくていいから、婚約指輪は婚約指輪だから」

「私はあの時、婚約指輪を買ってもらったと思うことにしていました。だからずっと左の薬指にしていたのです。だから、これが婚約指輪です。これ以外にありません」

「あの時は男除けとか言っていたけど、そう思ってくれていたんだ。僕もあのとき恋人と婚約指輪を買いに行った経験をさせてもらったと思ったから」

「パパもそう思っていたの?」

「ああ、いい思いをさせてもらった。それならそれでいい」

それから二人だけの結婚式を挙げて写真を撮った。二人には親戚もほとんどいないので元々列席者は限られていた。祖母は高齢でここまで来ることは難しい。二人だけの方がお互いに式に集中できて思い出に残ると相談して決めた。

今でも式の日の朝からのことをはっきりと覚えている。前の晩は二人とも感極まって長い時間何回も何回も愛し合った。私はもうすっかり愛し合うことになれてきて、どちらかというと積極的になっている。

パパはすっかり疲れてしまって熟睡していた。見覚ましをかけるのを忘れて、パパが目を覚ましたら8時を過ぎていた。予約の時間は10時だった。

横で眠っていた私はすぐに起こされて、二人で身繕いをして朝食も取らずに出てきた。結婚指輪だけは忘れていないか何回も確認した。式場には10時前には到着することができた。

ウエディング衣装を着けた私はとても綺麗で可愛くなった。衣装合わせの時と比べて、やはり本番の着付けと化粧の仕方が違っていた。パパのタキシードも悪くなかった。私がこちらの方が若く見えると言ってグレーのものを選んだ。

二人だけの式が進んでいく。誓いの言葉をパパは「はい、誓います」と大きめの声で言った。次は私の番だったが、感極まって泣いてしまった。「誓うんだよね」とパパが小さな声で言うので「もちろん誓います」と言ったのを覚えている。

それから指輪の交換をした。やはりパパは緊張していたんだと思う。手が震えて指輪がうまく薬指に嵌められない。あせるとなおさら手が震える。私が見かねて右手でパパの手を支えてやっと嵌められた。

今度は私の番だ。パパが緊張して震えるのを見ていたので、それがうつったみたいで手が震えている。今度はパパが手を支えてくれた。無事に指輪の交換が終わった。

次は誓いのキスだ。ベールをあげて私にキスをする。このシーンどこかであった。セクハラを受けてキスをお願いした時を思い出した。あの時、始めは軽く唇に触れた程度のキスだったが、無理を言って3回もしてもらった。思いもかけず3回目はディープキスだった。

今回も軽く唇に触れた程度のキスだった。もちろん、私はもっと強くなんて言わなかった。涙が流れる。私はあの時のことを思い出していた。シャッターの音が聞こえる。列席者がいないので写真を頼んでおいた。

宣誓をしてから、結婚証明書にサインをした。この時はもう二人とも落ち着ていて、しっかりサインをすることができた。

式を無事終えた。婚姻届はすでに出してあったが「私たち、本当に夫婦になったんですね」とパパに言った。パパは感慨深めに頷いていた。

それから、二人の結婚写真を撮影した。私はカメラマンに「新郎が若々しくみえるように撮って下さい」と確認した。やっぱり歳の差を気にしているんだとパパは思ったかもしれない。それを聞いてもっと若々しくしてくれれば言うことはない。

結婚式の模様の写真と結婚写真をアルバムに作ってもらったものをパパは祖母に送った。祖母はすぐに電話をかけてきてくれた。

「こうなってほしいと思っていたけど願いがかないました。崇夫と潤子さんもきっと喜んでくれていると思います。早く孫の顔を見せてほしい。それまでは長生きするから」と言っていた。

私に吉村さんから手紙が届いた。パパがアルバムをこっそり吉村さんにも手紙を添えて送っておいたからアルバムを見て手紙をくれたのだろうと言った。

最初は読みたくないと思ったけど、パパが会わないのだから、読んであげたらと言うので部屋で一人で読んだ。

手紙にはママとのいきさつや私が生まれたことを知らなかったことを詫びていた。許してくれるのなら、一度でいいから会ってほしいと書かれていた。手紙からその気持ちが伝わってきて涙が出た。やっと、父親が見つかって嬉しいと思った。

部屋を出ていくと、パパが「どうだった」と聞くので「そのうちに会ってみようかな」と答えた。

◆ ◆ ◆
披露宴は会費制で、私の調理師専門学校の同期の勤めるレストランでそれぞれの親しい友人を招いて行った。

春野さんは私たちに紹介したいと歳の離れた婚約者を連れてきた。私より少し年上の可愛い女性で春野さんの趣味だとパパは言っていた。春野さんは一生懸命に彼女の世話をしていたが、お似合いの二人だった。パパの親友だけのことはある。パパと性格が似ていると思った。

あのベッドを一緒に買いに行ってくれた調理師学校の同期生でパティシエの米田さんも来てくれた。同期では川田さんが一番早く結婚したと羨ましがっていた。

ホテルの先輩の山田さんも来てくれていた。あの事件でホテルを辞めた後も個人的な付き合いは今も続いていて、既婚者なので何かと相談にのってもらっている。

私は友達に祝福されてとても嬉しかった。パパは会社の同期の連中にうらやましがられたり、からかわれたりだったけど、とっても嬉しそうに見えた。
新婚旅行は連休明けに思い出の伊豆下田の高級なホテルに2泊3日で行った。

パパはせっかくだからハワイにでも行こうかと提案してくれたけど、思い出の下田へもう一度行きたいと言ってそうしてもらった。パパもあの時の思いをもう一度記憶に刻み込んでおきたいと言って賛成してくれた。

部屋は3階のオーシャンビューで晴れた5月の海は遠くまで見えた。部屋には温泉かけ流しの大きなお風呂がついている。お風呂からも海が見える。

ここへチェックインするとすぐに二人で水族館へ行ってきた。一人で見ていたアシカショーも二人で見てきた。二人で見た方がやっぱり楽しい。楽しいことは二人だと何倍も楽しく思える。ここでは久しぶりにゆっくりとした時間が流れている。

ホテルに戻って、せっかくだから温泉につかろうと部屋の大きなお風呂に入ることにした。私とパパはこれまで一緒にお風呂に入ったことがなかった。

パパはすぐにでも一緒に入りたかったみたいだけど、あの日からすぐに生理になったり、うまくできない日が続いたりで、私がナーバスになっていたので、パパはそれを言わなかった。

それに仕事で疲れているだろうから、好きなお風呂ぐらいゆっくり一人で入りさせてやろう思っていたのだろう。パパらしい。

「大きなお風呂だから、一緒に入らないか? 僕が洗ってあげる」

「はい」

恥ずかしいので返事が遅れた。

「先に入っていてください」

「じゃあ」と言ってパパが先に入った。私は恥ずかしくてなかなか入っていけなかった。それでもパパに悪いと思って入った。パパが入ってくる私をじっと見ている。恥ずかしい。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」

「そんなにじっと見ないで下さい。恥ずかしいです」

「もっと恥ずかしいことをいっぱいしているのに」

「それとはまた違います」

私はパパが浸かっているそばに入って浸かった。

「久恵ちゃんの裸を初めて見た時のことを思い出した。驚いてバスタブから抱き上げて部屋まで運んだけど、あの裸身がいつまでも目に焼き付いて離れなかった」

「あの時、動転して見るゆとりなんかなかったと言っていたけど、やっぱりしっかり見ていたのね。今思い出しても恥ずかしい」

「今となっては楽しい思い出だ。あの時よりずっと色っぽくなったね」

「ここのところ優しく可愛がってもらっているからだと思います」

「じゃあ、洗ってあげようか?」

私を座らせてタオルに石鹸を付け背中から洗ってくれる。背中、首元、わきの下、腕、脇腹、お尻と洗ってくれる。

「くすぐったいけど、とっても気持ちいい」

「そう、洗ってもらうと、気持ちがいいんだ。分かった? 立って、向きを変えて」

「恥ずかしい」

「じゃあ、目をつむっていて」

私は言われたとおりに目をつむった。胸、お乳、お腹、大事なところ、脚と洗ってくれる。

「そういえば、久恵ちゃんが指を怪我した時、よく目をつむらせられたね」

「パパのことだから、こちらを向いているときはしっかりつむっていたけど、後ろに回ったときはしっかり見ていたんでしょ」

「そのとおり、しっかり目の保養をさせてもらった。お尻が可愛かった」

「パパは段々変態になってきたみたい」

「久恵ちゃんが思わせぶりな態度をとるからだ」

「まあ、作戦どおりだったけど」

「そうなの?」

「今度は私が洗ってあげる。座って、背中から洗うから」

「こうしてパパの背中を洗ってみたかった」

「そうなの? 早く言ってよ」

「ママが崇夫パパと時々一緒にお風呂に入っていたの。週末にパパがいつものように先に入って、そのあとママがすぐに入って、パパを洗ってあげて、パパが上がった後に、私が入るとママが私も洗ってくれた」

「そうなんだ」

「私も一緒に入りたいと言ったら、二人から、だめと言われた」

「もう中学生になっていたんだろう。それじゃ、兄貴が遠慮するよ」

「私はパパが好きだったから,全然平気だけど」

「だからなおさらママが気にしたんだ、きっと」

「そうなの、お風呂が狭いからかなと思ったけど」

「洗ってもらうと気持ちがいい。久恵ちゃんは洗うのが上手だね。最高」

「パパ、若いころソープランドに行っていたと言っていたけど、こうして洗ってもらったの?」

「ああ」

「私とどちらが上手?」

「そりゃあ、久恵ちゃんに決まっている」

「本当?」

「本当に本当!」

「最近は行っていないでしょうね」

「行っていない。誓って」

「絶対にだめ、とはいっても出来心で行かないとも限らないから、これからは週末に一緒に入って洗ってあげます」

「是非お願いします」

パパはとても嬉しそうに言った。

「じゃあ、上がろうか?」

「私はもう少し入っています。ここのお風呂は最高、温泉だし海も見えるし」

パパは先に上がっていった。私はゆっくりお風呂に浸かっている。海が見える。遠くまで見える。あの翌朝は雨だった。私は窓際のソファーに座って一日中、雨の海を見ていた。寄せる波を見ていた。飽きることもなくいつまでも見ていた。幸せでいっぱいだった。今も海を見ている。幸せでいっぱいだ。

長湯をすると疲れるからほどほどで上がることにした。浴衣を着て部屋に入るとパパがソファーでビールを美味しそうに飲んでいる。浴衣姿の私をじっと見る。私は冷蔵庫からジュースのボトルを取り出してパパの隣に座った。

良いことを思いついた。パパの顔を見てニコっと笑ってパパの膝を枕に寝転んだ。これが膝枕。

「これを一度したいと思っていたの、丁度いい感じ」

「それは僕の方の楽しみなのに」

「しばらくいいでしょう、お願い」

しばらく横になっていたけど我慢できずに起き上がった。

「パパの膝枕、硬くて、首が痛くなった」

「昔から膝枕は柔らかい女性の膝と相場が決まっている。男の膝枕なんて聞いたことがない」

「やっぱり、そうかな。でもしてみたかったの」

「久恵ちゃんは典型的なファザコンだね。すぐにそういうことをしたがる。お腹の上で寝てみたいと言ったりして」

「私は母子家庭で育って、本当の父親の顔も知らなかったし、幼いころの父親の思い出もありません」

「だから、兄貴を好きになってくれたんだね。それから僕も」

「崇夫パパは本当に私の父親になってくれました。大人になる7年位の大事な時期に父親になって私を守ってくれました。学校で同級生にからかわれたと言うと、すぐに学校へ文句を言いに行ってくれました。今でも感謝しています。また、血がつながっていなかったので、男性としても見ることができたように思います。だからパパのように歳が離れていると守られていると思えて安心できるの」

「僕はロリコンかもしれない。若い時に女性と意思疎通がうまくできなくて、同年代の女性とは距離を置くようになった。そのうち誘われてソープランドなどへ通ううちに、年齢の離れた女性としか付き合えなくなったみたい。歳が離れているとゆとりがあるというか、安心だからかもしれない」

「パパは十分に同年代の女性ともうまくやっていけると思うわ」

「今は、いろいろ社会的な経験も積んでいるから、なんとかなると思うけど。でも、恋愛は別だと思う。うまくできる自信がなかった」

「自信を持ってもらっても困る。もう私がいるんだから」

「ごめん。浮気しようなんて少しも思っていないから」

「男は恋愛を振り返る時はいつもほろ苦い青春時代を思い出して反省する。だから、幾つになっても対象は青春時代の年齢の娘になってしまうのかもしれないね」

「男の人ってもともとロリコンなのかな?」

「もう一つ、男には女性を自分の好みにしたいとの思いが強いのではないかな。若い娘ならそれができる。パパも久恵ちゃんを好みの女性に仕立てたい」

「もう相当に仕立てられていると思います。言うことは何でもよく聞いているつもりですから」

「男って言うとおり本来ロリコンなのかもしれない。大体、昔から愛人は若い娘に決まっている。体力に自信があれば、やはり若い娘がいい」

「パパ、身体を鍛えてね。頼りにしていますから」

「僕たちは『ロリコン』と『ファザコン』できっと最高のめぐり合わせに違いない。めでたし。めでたし」


これで、私とパパのお話はおしまいです。父親代わりの「パパ」は私の夫になりました。ただし、呼び方は「パパ」のまま。

結婚後、しばらくは「康輔さん」とか「あなた」とか呼んでみてはいたれけど、やっぱり「パパ」が言いやすいことが分かった。結婚しても父親代わりには変わりないから、呼び方を「パパ」に戻した。

もし、子供が生まれたら、本当の「パパ」になるので、これからずっと「パパ」でお願いします。おしまい。

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