蜘蛛型の機動ロボも、動きを停止させている。

俺たちは、動かないその機体の下を、難なくすり抜けた。

「こっちだ」

ジャンとその仲間たちが、輸送用の平たい荷台に乗っている。

ニールの開発したチートツールが、有効化されていた。

ジャンの手にすくい上げられて、それに乗る。

「これでカプセルの搬送作業をしてたんだ。そこにチートかますなんて、ニールも考えたよな」

禁則が緩く、誰も手を出したがらない転生機。

何より最優先されるその作業は、機動ロボといえども、素直に道を開ける。

「お前たちを、スクールの外に出してやる」

「どうして? みんなで一緒に行こう」

ルーシーが、ジャンを不思議そうに見上げる。

彼は、ふっと笑った。

「俺はピクニックに興味はないし、ここから出て行きたいとも思わない。だけど、自分の行動と生きる意味は、自分で決める」

ジャンが俺を振り返る。

「聞いたぜヘラルド、海の向こうが見たいんだろ? だったら、俺たちが見せてやるよ」

通路の灯りが、一斉に消えた。電力が遮断されたんだ。

一瞬グラリと傾いた輸送台は、すぐに元通りに走り出す。

「ほら、これならちゃんと、非常用電力の使用も、無条件で適応されるからな」

動きの止まった警備ロボたちをなぎ倒して、複数体の機動ロボが追いかけてきた。

「お前たちの、好き勝手にはさせん!」

ヴォウェンの声だけが聞こえる。

一体の機動ロボが高く跳ね上がった。

荷台に飛びつかれる前に、その足元に仲間の一人が転がり込む。

返り血を浴びたロボットは、その機能を急停止させた。

「ねぇ、どうして血が出るの? なんで、血がいるの?」

その問いに、答えなんてない。

「それでも行くと、決めたからさ。ルーシー、君も、その意味を知らなくちゃいけない」

通路を繋ぐ扉が、閉じられようとしていた。

その両サイドには、2体の蜘蛛がはりついている。

蜘蛛たちは扉だけを操作して、道を塞ごうとしていた。

それならば、人間の血液に反応して自動停止させられることなく、作業が続けられる。

「ジャン!」

彼はそのまま、閉じかけたドアを突破した。

閉じようとするドアのセンサーが作動し、ゆっくりと開いて俺たちを迎え入れる。

「あはは、安全設計万歳だな」

蜘蛛型ロボットが、天井を這って近づいてきた。

射線が精密に、荷台のコントロールパネルを狙う。

「飛び降りろ!」

ジャンの手が、ルーシーを引いた。

それを合図に、荷台に乗った全員が飛び降りる。

蜘蛛が俺たちの頭上を占拠した。

「確保します。動かないでください。逃走とみなし、攻撃します」

「あら、いい度胸じゃない」

カズコが立ち上がった。

「そんなはったり、聞き飽きたわ」

彼女が、両腕を広げる。

蜘蛛のレーザーが、彼女の腕を貫いた。

「逃げるなら今よ」

走り出した俺たちの足元を、射線がつきまとう。

カズコは、蜘蛛の脚によじ登った。

「ほら、このままだと、あんたの方が動けないわよ」

ロボットの脚が力強く動いて、カズコは投げ出された。

俺たちを追いかけようとするその脚に、彼女はもう一度飛びつく。

「ルーシー、今度は一緒に、ピクニックに行きましょうね」

カズコが微笑む。

蜘蛛の可動部に、肘を挟んだ。

緊急警報が鳴り響き、蜘蛛がガクリと脚をつく。

転がり落ちた彼女の体からは、赤い染みが広がった。

「前だけを見て、走ってろ!」

ジャンたちは、定点カメラを撃ち落としながら進む。

配電盤を破壊しようと立ち止まった仲間の2人が、追いかけて来た蜘蛛の脚に踏みつぶされに行った。

外への出口は、もうすぐだ。