「安曇くん、これは絶景だね!」
楠野さんは観覧車に乗ってまだ頂上に達していていないというのに、もう既に観覧車お馴染みの感想を連呼しつづけていた。
「そうだね」
けれど、彼女の言っている事もわからなくはない。何せまだ僕たちが乗った直後だと言うのに、ビルの頂上から見る景色よりもスリルがあり、けれども僕の心はこれからの絶景にわくわくとしているのがわかるくらい躍っているのがわかる。
楠野さんによると、これからこのコンドラが観覧車の頂上に辿り着けば太陽の光がめいいっぱい僕たちのいるコンドラの中を一直線に照らしてくるだろう。今のままでもはっきりとした明るさはあるものの、恐らくこれの比ではないだろう。その頂上に行くまでの旅と、その帰りは僕と楠野さん、二人だけしかいない。
そう考えると、何か心が落ち着かない。
「そういえば、さ」
僕は、その不思議な気分を紛らわそうとして、彼女に話しかける。
「なんで、観覧車を最後にしたの?」
すると、楠野さんは頭を悩ませているようで、捻り声を漏らしつつ頭の中で整理を付けようとしていた。
「なんで、か……」
もしかしたら、難しい問題を出してしまったのかもしれない。これが、なんとなくとかの理由だったら完全にこの質問をするのは失敗だったのかもしれない。しばらく彼女が悩んでいるのを横目に僕は景色の方に集中する事になった。少しずつ僕たちの乗っている観覧車のコンドラの一つ、は上に登り始めている。