黄昏、君を探して。

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 それでも、得意の作り笑いは衰退することを知らなくて。
 当然の如く、私は毎日笑顔で明るく振る舞う。

 言い方を変えるなら、本心を見透かされたくないから、敢えて、そう振る舞うしかなくて。

 惨めだ。

 私がいた一軍のグループのみんなは、相変わらず毎日を楽しそうに過ごしている。

 毎日のように考えることは一学期のこと。
 あの時に私が失言しなければ、空気を細かいところまで読んでいたとしたら。
 なんて、後悔ばかり。ダサすぎる......。


 ぐううう。

 お腹が鳴って、恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。


「お腹空いた......」

「そうだな」


 数メートル先にいる相川が、気だるくどうでもよさそうな声で言葉を返してきた。


「え、あ、……お昼どうしよ! あはは……」


 得意の笑顔を振り撒いて、私はキャッチした言葉のボールを投げ返す。


「最近の流行り、タピオカじゃん。それにすれば?」

「あんなのただのデンプンの塊じゃん、何、今更映え狙いってこと? ......って、はぁ!?」


 前の空席に、転校してきたばかりの相川が座っていた。私はドクンと高鳴る勢いに負けて、椅子から立ち上がった。


 そういえば、前の席は空席だから、相川が座るとかなんとか言ってったっけ。
 相川はなぜかさっきからずっと、変に笑っているし、何がどうなっている状況なのか、私は上手く理解できない。

 私はホームルーム後、机に顔を半分伏せる形でいつもみたいに空を眺めていたわけで。

 一学期の苦痛を思い出して、しんどくなって。

 お腹が空いて、独り言を呟いたら、隣の席に相川がいて......。


「俺はずっとここにいたんだけど……今、気づいた?」

「そ、そんなわけないでしょ」

「分かりやすいなお前、学級委員とは思えないわ」

「これでも何かと、一年の頃から学級委員と学年代表やってます。それが何か?」


 苛立ちながらも、やはり私は笑顔を絶やせなかった。

 これ以上誰かに嫌われたくない。


 嫌われるのが、怖い。


 願わくば、一学期の始めの頃に戻って偽りない明るさで過ごしたい。

 もう、二度と叶わないって分かっているけれど、未だ全てを受け止めきれていない。
 心の中では、グループのみんなに言われた言葉を、都合よく解釈し続けるしかない。


 それが、今の私にできる最大限の生き方で、救済のようなもの。


「つか、神崎のバッグについてるその羽根とちっさいボールのストラップ……」

「これ? これがどうしたの?」


 相川が突然、口を手で押さえて目を見開き、黙り込んだ。

 やっぱこのストラップ、バッグにつけるのはまずいかな。そもそも、私のキャラじゃないし。

 それでも両親は「お守りとして大事にして」だなんて、小学校の入学式の時に言うものだから……。


 あの日以来、なんだかんだランドセルから中学の通学バッグ、そして今使っているバッグに、と同じストラップをつけている。
 時々、糸がほつれたりして修復を何度も繰り返してきた。
 私の全てを知っているストラップ。だなんて誰にもいえない。

 恥ずかしい。

 それでも、私はこのストラップをお守りとして使っている。
 何度か、捨てよう、と試みたけれど……やっぱり、なぜか捨てられなかった。

 捨ててはいけない、得体の知れない義務感みたいなものを感じる。

 支配でも、呪いでも、何でもない。大切な何か。

 決して、後ろ向きなものではない、その“何か”がこの十年、私を守ってくれている。


 確か、レジンで作ってあるんだっけ。
 羽根とはいえ、なぜかオレンジ色のグラデーションで、しかも羽なのに片割れ。いびつな形。

 普通、羽根って天使の白色とか、その逆――悪魔を象徴する黒色って印象だけれど。

 両親の手作りと言っていた、このストラップ。
 今じゃもう色褪せていて、貰った当初の鮮やかさはどこかへ消えてしまった。

 羽根の他に、イニシャルの「M」も球体のレジンの中に入っている。二つで一つのストラップになっている。

 ふと我に返って相川を見ると、その目からは大粒の涙が頰を伝っていた。
 急いでハンカチを差し出すと、乱暴に奪われてしまった。


「なんでだよ……」


 私の頭のなかでは今、疑問符が駆け巡っている。

 このアクセサリーで、いきなり機嫌を悪くされても困る。
 それに、私はあくまで学級委員って立場だし、カウンセラーとかじゃないから、泣かれても何もできないんだけれど。


「なんで、それ……」


 相川は私のレジンストラップを指差して、目を赤く腫らし、何度もハンカチで涙を拭っている。


「と、とにかく、お腹空いたし、転入歓迎にタピオカ奢るから! タピオカ増し増しにするから!」


 ほら、ちゃんと持って! と私はポケットから取り出したハンカチを相川に差し出した。


「あ、あぁ、ごめん……ハンカチ、洗って明日返す」

「あ、うん、ありがとう」


 相川は一通り泣くと、不器用に腕で涙を拭ってすぐに私に笑顔を見せた。

 その笑顔は太陽みたいに、眩しくて。

 不思議なくらい、懐かしくて、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


 まさか、どこかで――なんて。


 ……ありえないか。そんなわけ、ないんだから。