♦︎
それでも、得意の作り笑いは衰退することを知らなくて。
当然の如く、私は毎日笑顔で明るく振る舞う。
言い方を変えるなら、本心を見透かされたくないから、敢えて、そう振る舞うしかなくて。
惨めだ。
私がいた一軍のグループのみんなは、相変わらず毎日を楽しそうに過ごしている。
毎日のように考えることは一学期のこと。
あの時に私が失言しなければ、空気を細かいところまで読んでいたとしたら。
なんて、後悔ばかり。ダサすぎる......。
ぐううう。
お腹が鳴って、恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。
「お腹空いた......」
「そうだな」
数メートル先にいる相川が、気だるくどうでもよさそうな声で言葉を返してきた。
「え、あ、……お昼どうしよ! あはは……」
得意の笑顔を振り撒いて、私はキャッチした言葉のボールを投げ返す。
「最近の流行り、タピオカじゃん。それにすれば?」
「あんなのただのデンプンの塊じゃん、何、今更映え狙いってこと? ......って、はぁ!?」
前の空席に、転校してきたばかりの相川が座っていた。私はドクンと高鳴る勢いに負けて、椅子から立ち上がった。
そういえば、前の席は空席だから、相川が座るとかなんとか言ってったっけ。
相川はなぜかさっきからずっと、変に笑っているし、何がどうなっている状況なのか、私は上手く理解できない。
私はホームルーム後、机に顔を半分伏せる形でいつもみたいに空を眺めていたわけで。
一学期の苦痛を思い出して、しんどくなって。
お腹が空いて、独り言を呟いたら、隣の席に相川がいて......。
「俺はずっとここにいたんだけど……今、気づいた?」
「そ、そんなわけないでしょ」
「分かりやすいなお前、学級委員とは思えないわ」
「これでも何かと、一年の頃から学級委員と学年代表やってます。それが何か?」
苛立ちながらも、やはり私は笑顔を絶やせなかった。
これ以上誰かに嫌われたくない。
嫌われるのが、怖い。
願わくば、一学期の始めの頃に戻って偽りない明るさで過ごしたい。
もう、二度と叶わないって分かっているけれど、未だ全てを受け止めきれていない。
心の中では、グループのみんなに言われた言葉を、都合よく解釈し続けるしかない。
それが、今の私にできる最大限の生き方で、救済のようなもの。
「つか、神崎のバッグについてるその羽根とちっさいボールのストラップ……」
「これ? これがどうしたの?」
相川が突然、口を手で押さえて目を見開き、黙り込んだ。
やっぱこのストラップ、バッグにつけるのはまずいかな。そもそも、私のキャラじゃないし。
それでも両親は「お守りとして大事にして」だなんて、小学校の入学式の時に言うものだから……。
あの日以来、なんだかんだランドセルから中学の通学バッグ、そして今使っているバッグに、と同じストラップをつけている。
時々、糸がほつれたりして修復を何度も繰り返してきた。
私の全てを知っているストラップ。だなんて誰にもいえない。
恥ずかしい。
それでも、私はこのストラップをお守りとして使っている。
何度か、捨てよう、と試みたけれど……やっぱり、なぜか捨てられなかった。
捨ててはいけない、得体の知れない義務感みたいなものを感じる。
支配でも、呪いでも、何でもない。大切な何か。
決して、後ろ向きなものではない、その“何か”がこの十年、私を守ってくれている。
確か、レジンで作ってあるんだっけ。
羽根とはいえ、なぜかオレンジ色のグラデーションで、しかも羽なのに片割れ。いびつな形。
普通、羽根って天使の白色とか、その逆――悪魔を象徴する黒色って印象だけれど。
両親の手作りと言っていた、このストラップ。
今じゃもう色褪せていて、貰った当初の鮮やかさはどこかへ消えてしまった。
羽根の他に、イニシャルの「M」も球体のレジンの中に入っている。二つで一つのストラップになっている。
ふと我に返って相川を見ると、その目からは大粒の涙が頰を伝っていた。
急いでハンカチを差し出すと、乱暴に奪われてしまった。
「なんでだよ……」
私の頭のなかでは今、疑問符が駆け巡っている。
このアクセサリーで、いきなり機嫌を悪くされても困る。
それに、私はあくまで学級委員って立場だし、カウンセラーとかじゃないから、泣かれても何もできないんだけれど。
「なんで、それ……」
相川は私のレジンストラップを指差して、目を赤く腫らし、何度もハンカチで涙を拭っている。
「と、とにかく、お腹空いたし、転入歓迎にタピオカ奢るから! タピオカ増し増しにするから!」
ほら、ちゃんと持って! と私はポケットから取り出したハンカチを相川に差し出した。
「あ、あぁ、ごめん……ハンカチ、洗って明日返す」
「あ、うん、ありがとう」
相川は一通り泣くと、不器用に腕で涙を拭ってすぐに私に笑顔を見せた。
その笑顔は太陽みたいに、眩しくて。
不思議なくらい、懐かしくて、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
まさか、どこかで――なんて。
……ありえないか。そんなわけ、ないんだから。
それでも、得意の作り笑いは衰退することを知らなくて。
当然の如く、私は毎日笑顔で明るく振る舞う。
言い方を変えるなら、本心を見透かされたくないから、敢えて、そう振る舞うしかなくて。
惨めだ。
私がいた一軍のグループのみんなは、相変わらず毎日を楽しそうに過ごしている。
毎日のように考えることは一学期のこと。
あの時に私が失言しなければ、空気を細かいところまで読んでいたとしたら。
なんて、後悔ばかり。ダサすぎる......。
ぐううう。
お腹が鳴って、恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。
「お腹空いた......」
「そうだな」
数メートル先にいる相川が、気だるくどうでもよさそうな声で言葉を返してきた。
「え、あ、……お昼どうしよ! あはは……」
得意の笑顔を振り撒いて、私はキャッチした言葉のボールを投げ返す。
「最近の流行り、タピオカじゃん。それにすれば?」
「あんなのただのデンプンの塊じゃん、何、今更映え狙いってこと? ......って、はぁ!?」
前の空席に、転校してきたばかりの相川が座っていた。私はドクンと高鳴る勢いに負けて、椅子から立ち上がった。
そういえば、前の席は空席だから、相川が座るとかなんとか言ってったっけ。
相川はなぜかさっきからずっと、変に笑っているし、何がどうなっている状況なのか、私は上手く理解できない。
私はホームルーム後、机に顔を半分伏せる形でいつもみたいに空を眺めていたわけで。
一学期の苦痛を思い出して、しんどくなって。
お腹が空いて、独り言を呟いたら、隣の席に相川がいて......。
「俺はずっとここにいたんだけど……今、気づいた?」
「そ、そんなわけないでしょ」
「分かりやすいなお前、学級委員とは思えないわ」
「これでも何かと、一年の頃から学級委員と学年代表やってます。それが何か?」
苛立ちながらも、やはり私は笑顔を絶やせなかった。
これ以上誰かに嫌われたくない。
嫌われるのが、怖い。
願わくば、一学期の始めの頃に戻って偽りない明るさで過ごしたい。
もう、二度と叶わないって分かっているけれど、未だ全てを受け止めきれていない。
心の中では、グループのみんなに言われた言葉を、都合よく解釈し続けるしかない。
それが、今の私にできる最大限の生き方で、救済のようなもの。
「つか、神崎のバッグについてるその羽根とちっさいボールのストラップ……」
「これ? これがどうしたの?」
相川が突然、口を手で押さえて目を見開き、黙り込んだ。
やっぱこのストラップ、バッグにつけるのはまずいかな。そもそも、私のキャラじゃないし。
それでも両親は「お守りとして大事にして」だなんて、小学校の入学式の時に言うものだから……。
あの日以来、なんだかんだランドセルから中学の通学バッグ、そして今使っているバッグに、と同じストラップをつけている。
時々、糸がほつれたりして修復を何度も繰り返してきた。
私の全てを知っているストラップ。だなんて誰にもいえない。
恥ずかしい。
それでも、私はこのストラップをお守りとして使っている。
何度か、捨てよう、と試みたけれど……やっぱり、なぜか捨てられなかった。
捨ててはいけない、得体の知れない義務感みたいなものを感じる。
支配でも、呪いでも、何でもない。大切な何か。
決して、後ろ向きなものではない、その“何か”がこの十年、私を守ってくれている。
確か、レジンで作ってあるんだっけ。
羽根とはいえ、なぜかオレンジ色のグラデーションで、しかも羽なのに片割れ。いびつな形。
普通、羽根って天使の白色とか、その逆――悪魔を象徴する黒色って印象だけれど。
両親の手作りと言っていた、このストラップ。
今じゃもう色褪せていて、貰った当初の鮮やかさはどこかへ消えてしまった。
羽根の他に、イニシャルの「M」も球体のレジンの中に入っている。二つで一つのストラップになっている。
ふと我に返って相川を見ると、その目からは大粒の涙が頰を伝っていた。
急いでハンカチを差し出すと、乱暴に奪われてしまった。
「なんでだよ……」
私の頭のなかでは今、疑問符が駆け巡っている。
このアクセサリーで、いきなり機嫌を悪くされても困る。
それに、私はあくまで学級委員って立場だし、カウンセラーとかじゃないから、泣かれても何もできないんだけれど。
「なんで、それ……」
相川は私のレジンストラップを指差して、目を赤く腫らし、何度もハンカチで涙を拭っている。
「と、とにかく、お腹空いたし、転入歓迎にタピオカ奢るから! タピオカ増し増しにするから!」
ほら、ちゃんと持って! と私はポケットから取り出したハンカチを相川に差し出した。
「あ、あぁ、ごめん……ハンカチ、洗って明日返す」
「あ、うん、ありがとう」
相川は一通り泣くと、不器用に腕で涙を拭ってすぐに私に笑顔を見せた。
その笑顔は太陽みたいに、眩しくて。
不思議なくらい、懐かしくて、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
まさか、どこかで――なんて。
……ありえないか。そんなわけ、ないんだから。


