黄昏、君を探して。

「資料を配布します。手元に届き次第、各個人で確認してください」


 その声が、クラスメイト全体に対してまともに届くことはなかった。好き勝手にしゃべり続ける皆を見れば、よくわかる。

 私は諦めて、一番前に座る人たちに、資料を列の人数分だけ配って、窓際一番後ろ――自分の席に着いた。

 宮藤先生が教室に戻ってきて教卓に立つと、その隣に見知らぬ学生が立っていた。


「静かにしろお前ら」


 宮藤先生の言葉で教室は静まりかえり、私は少し不快な気分になった。

 私はこんなこと、できないから。


「今から転校生を紹介するから。入ってきてー」


 宮藤先生の合図で、教室の前ドアから転校生と呼ばれる生徒が入ってきた。


「じゃ、相川、好きなように自己紹介頼んだ」

「はい」

相川幸多(あいかわ こうた)です。東京から越してきました。二学期……あ、この学校でいう後期からなので、不安ですがよろしくお願いします」

 相川が自己紹介を終えると、すぐに教室中の女子たちが黄色い声をあげて騒ぎ出した。
 そのうるささに、キーンと耳鳴りがする。

「超イケメンじゃん」

「めっちゃミステリアス男子って感じでタイプ〜!」


 そんな気持ち悪い言葉達が、小声で私の耳に届く。
 相川には何も、聞こえていないのだろうか。

 顔色を全く変えず、その場に突っ立っている。

「じゃあ相川には、みんなと仲良くなるために、学級委員をやってもらう」

「え?」

「男子、いいよな!」


 賛同する歓声が教室に響き渡り、私は嫌悪感を覚えた。

 宮藤先生のお節介は今、必要無い。
 余計なお世話。


「女子の学級委員、立て」

「はい」


 呼ばれて椅子から立ち上がると、相川は私を見るなり興味なさそうに視線を横にずらした。
 私は得意の笑顔で会釈だけ済ませて、再び席に着いた。


「じゃ、神阪高校二年二組! 新学期のホームルームはこれにて解散!」


 宮藤先生のパンという手の合図で、みんなが一斉に教室を出て行く。
 相川と私だけになった教室で、私は机に顔を伏せた。

 明日からまた、偽物の笑顔の日々か。
 自分のことながら呆れて鼻で笑った。


 醜い、なんて言葉じゃ収まりきらないくらい。


 全ては、「あの日」が作り出した日々……。


 ♦︎