愛理沙が涼の家で同棲し始めた日に街へ行って、家財道具や布団など色々なモノを買った、頼み込んで即日で、アパートまで運んでもらった。

 愛理沙はその日から、涼のベッドの隣に布団を敷いて眠るようになる。
涼は愛理沙が近くできれいで可愛い寝顔で寝ているので、中々眠れずに……現在は寝不足気味だ。

 そして、愛理沙が白色、涼が黒色のお揃いのパジャマを着て寝ている……とても恥ずかしい。

 そして愛理沙は新しい7段式の自転車を購入した。
これからはバス代のかからない自転車通学をするという。
学校では涼と愛理沙は彼氏と彼女という関係で見られているので一緒に通学しても別に疑われない。

 しかし、涼の昼休憩の過ごし方が激変した。
それは愛理沙が毎朝、自分のお弁当を作るので、涼のお弁当も作ってくれることになったことだ。

 今まで陽太と一緒に学食へ食べに行っていたが、お弁当があるので学食にいかなくなった。今は弁当を持参している湊と一緒に涼の席でお弁当を食べている。


「最近は弁当持参になったのか? 弁当は愛理沙が作ってくれているのか?」


 湊が冷静に涼に質問してくる。
そんな恥ずかしいことを真面目な顔で聞かないでもらいたい。


「あ……涼ちゃんのお弁当のおかずと、愛理沙ちゃんのお弁当のおかずが同じだよ……絶対に愛理沙ちゃんに作ってもらってるんだ」


 わざわざ涼の弁当の中身を確かめにきた聖香が大きな声で宣言する。
そんな大きな声を出さないでもらいたい。クラス中に聞こえるじゃないか。


「一応、俺は学校では彼氏だからな。愛理沙に弁当を作ってもらっても変じゃないだろう」

「でも…最近の愛理沙と涼って怪しいのよね」


 目を細めて、楓乃が疑っている。


「最近、愛理沙、バス通学を止めたじゃん。涼と一緒に自転車で通ってるんだよね。それってもう彼氏じゃない?」

「だから、学校では俺は彼氏なんだから、一緒に自転車通学をしてもおかしくないだろう」

「でも…本当は仮彼氏なんでしょう。その割にすごく仲良くない? まるで本当の彼氏みたい」

「そんなことはない。俺を疑うなら、愛理沙に聞いてみろ」


 楓乃は疑いの眼差しのまま、聖香はお弁当を持って愛理沙の元へ行く。
昼休憩の時間には、いつも愛理沙、楓乃、聖香の3人は毎日、仲良くお弁当を食べている。

 涼が心配そうに愛理沙へ視線を向けると、楓乃と聖香の質問攻めに会って、顔を赤らめて恥ずかしがっている。

 一体、どういう話の展開になっているのか、涼は非常に不安に思うが……3人は楽しそうにお弁当を食べている。


「もう、仮彼氏、仮彼女など関係なく、2人共、付き合ったほうが早いんじゃないか?」


 湊が冷静に卵焼きを食べながら涼に聞いてくる。


「俺はそれでもいいよ。でも愛理沙の気持ちがわからないし……愛理沙も心に距離感を取りたいタイプだし、俺もそうだから、今の状態が丁度いいんだ。それに愛理沙は俺にもったいないと思わないか?」

「学校中の男子がそう思ってるよ。俺もそう思う。お前に愛理沙のような美少女の彼女ができて、俺が独り身だったら、俺は涼に殺意を抱くかもしれん」


 湊は笑いながらウインナーを口の中へ入れる。

 殺意……湊は冗談としても、学校中の男子は本気で殺意を向けてくる可能性がある。毎日、多数の男子学生達から殺意を向けられるのはたまらない。

 今でも学校では愛理沙の彼氏の役目を果たしているおかげで男子学生達の多数から嫉妬の視線を向けられているというのに。

 これで同棲がバレたら……このことだけは隠し通す必要がある。絶対にバレてはいけない。仲の良い特別な、湊、陽太、楓乃、聖香の4人にも絶対に秘密だ。


「どうした? 涼、急に黙って、冗談だぞ」

「わかってる。既に俺は学校では愛理沙の彼氏だからな。多少の嫉妬の視線には慣れてきてるよ」

「あれだけの美少女だからな。男子生徒達が涼に嫉妬するのは仕方がない。俺も早く彼女が欲しいもんだ」

「湊はいつ聖香に告白するんだ?」


 いつも冷静な湊が噴き出して、咳こんでいる。湊は顔を赤く染めて、それでも冷静な顔を保って弁当を食べようとする。


「なぜ……涼がそのことを知ってるんだ?」

「だってさ……湊は女子全員に優しいけど、聖香を見る時だけは、優しく見守るお兄さんのような眼差しになってるじゃないか。俺は人の心に敏感なんだ。それぐらいの機微はわかるよ」


 涼は人が苦手で、人と心の距離を取る癖がある。そのため、誰が心の距離を近づけているか、勘ではあるがすこしはわかるのだ。しかし、自分のことはあまりわかっていない自覚はある。だから、涼には湊が聖香に好意を持っていることがわかった。


「このことは誰にも言ってないか?」

「ああ、愛理沙にも言ってない」

「絶対に陽太にも楓乃にも言わないでくれ。もちろん聖香には言うなよ」


 当たり前だろう。いくら涼でも聖香に湊が好きだとは言えない。
いつかは聖香と湊が上手くいってくれればいいなとは思う。

 もうすぐゴールデンウィークだ。湊がゴールデンウィークの予定を涼へ質問してくる。


「ゴールデンウィークは毎年、行く場所があってね。少し忙しい」

「そうか……ゴールデンウィークが暇なら、皆で旅行でも計画したいと思っていたんだが残念だ」


 毎年、事故が起こったゴールデンウィークには家族の墓へ参っている。
まだ、このことは愛理沙には話していない。

 できれば、愛理沙を墓参りなどに付き合わせたくない。
女子3人で、旅行でも計画してくれるといいんだけど。

 教室のドアは開いて濃い茶髪のロングストレートの女子が歩いてきた。元生徒会長の倉橋芽衣だ。
顔を真っ赤に染めて、少し恥ずかしそうにして、涼の元まで歩いてくる。


「涼……気を使ってくれてありがとう」


 涼には何のことかわからない。


「涼が学食に来なくなってから、陽太が1人で食べてもつまらないと言って、私と一緒に食事をしてくれるの……本当にありがとうね」


 涼が学食に行かなくなったおかげで、そんなことになっていたのか……芽衣は幸せそうに満面の笑みを浮かべている。


「お役に立てて良かったよ」


 誤解なんだけど……幸せそうだから言わないでおこう。







 放課後になり、愛理沙と涼は自転車を押して2人で高台まで歩く。

 昼間あった芽衣のことを話すと、愛理沙はクスクスと笑顔になって嬉しそう。そして、すぐに表情を変えて、少し拗ねたような顔になる。


「涼……楓乃と聖香の質問を、私に聞くように言うなんて……何て答えていいか、恥ずかしかったわ」

「その件はゴメンな……」

「今日も公園に付き合ってね」

「ああ…いつでも付き合うよ」


 この不思議な関係も、全てあの公園が始まりだったんだよな。
ふと、愛理沙へ振り替えると、愛理沙は涼を見つめて、優しく幸せな笑顔を浮かべていた。