「そんな、たいそうなもんじゃないワイ」
 いきなり、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、例の髭猫がデッキチェアに腹を上にして寝そべっていた。
 いつの間にデッキチェア?

 なんて、突っ込みは置いといて…。
「あの時の猫さん? あなた一体誰? ここはどこ? 私、どうなっちゃったの?」
「これこれ。そう、一辺に言わんと…」

 髭猫はデッキチェアの上に起き上がり、私の方を向いて座りなおす。
 私も髭猫の前に正座する。
「娘。んーんと、名前は美寿穂じゃったかのぉ。まぁ、そう焦らんと、落ち着け」
「名前、覚えてくれてたんですか?」
「そりゃ恩人じゃもの、忘れんよ」
 髭猫の方は私の名前を覚えてるらしいけど、私は髭猫さんの名前を知らない。

「あのぉ、猫さん。お名前を、教えていただけますか?」
「猫の姿は擬態と言ったじゃろうが。それに、名前は教えても忘れるから無駄じゃ」
「でも、名前が分からないと、話がしずらいんですけど…」
「あっそう。でも、本との名前は覚えておらんのじゃ。人間からは「ネコモリサマ」
などと呼ばれるとるから、その名で呼んでくれて構わんよ」
「ネコモリサマ? じゃぁ、ネコモリサマは猫守神社の神様なんですか?」