10年と1日前の春を。

「おっはよー!」


いつも通り百香が私に、子犬のように近寄ってくる。

元気な百香を見ていると、少しだけ気分が楽になる。
その代わり、ちょっとへこんでしまう。

この複雑な気持ちは、百香にぶつけない方が良さそうだ。


ハルトは、いつもなら男子友達と喋っているはずが、今日は一人で席に座っていた。

友達が多いハルトにしては珍しい。

親友さんや、昨日からかっていた男子達も、ハルトに話しかけに行くのは見ていたのだが、それに対応するどころか、心ここに在らずという感じで、しっかり聞いている風には見えなかった。

多分、私のせいだ・・・・・・。




『怜ってだれ?』




分かってくれると思っていたのだろう。

その人は私の近くにいたんだよ、ずっとそばにいてくれていたんだよ。

そう言われたが、分からない。


未だに分からないのだ。


ずっとそばにいたという事は、私の近くにいつもいたという事。

でも残念ながら、私はその人の事を知らない。


「誰・・・・・・なの・・・・・・」


誰にも聞こえない程度で私は呟いた。

でも、今のハルトには聞けない。

あれだけ説明されても私は分からなかったのだ。
もう一度説明するっていうのもおかしな話だし。


私は、ハルトの席から遠くなってしまった自分の席に座った。