10年と1日前の春を。

そろそろ気になっていた。

私は野良猫が近寄ってきたのに、頭を撫でて返事をする。


「はぁ? 隠してる事? そ、そんなのあるわけないだろ」


必死で隠している姿に、少しだけ吹き出してしまう。


「な、何笑ってんだよ! てかなんも隠してないからな!」


笑うなと言われたても、やはり心のどこかで笑っていた。
私は膝の上にそっと野良猫を乗せた。

野良猫は、三日月形の大きな目を見開いて私を見る。

水晶玉みたいなその瞳は、私を虜にした。


「そっか。 まぁないならいいよ」


困ったような怜を見て、私は少し引き下がる。

と同時に、怜はホッと胸をなで下ろした。
その仕草が、いたずらをして見つからなくてホッとしている子どものようで、怜は隠すのがヘタなんだと心から思う。

それも怜のいい所なんだろうけど。


私はスカートのポケットからスマホを取り出した。

ホーム画面には、‘ 8 : 02 ’ の文字。
さすがにこれ以上ここにいるのはマズいだろう。

九時まで帰らないのは、親子関係が壊滅的になってしまう。

私は、まだら模様の野良猫を、近くの草の生えている場所まで届ける。


「じゃあね、野良猫のだらちゃん」


「なんだその名前」


「まだら模様の猫ちゃんだから、だらちゃん」


私がせっかく考えた名前を、「ネーミングセンス無さすぎな!」とお腹を抱えて笑う怜に、前の私だと色々と突っ込んでいたんだろうけど、今の私は突っ込まなくても怜は分かるだろうと思ってしまっている。

それより、ネーミングセンスがない事はないと思うけどなぁー・・・・・・。

いつの間にかかかとを踏んでしまっていた靴を、トントンと慣らして歩き始めた。


もし今日の月を一緒に見ていた相手がハルトだった場合は、きっと手を繋ぎながら夜空を眺めていただろう。

百香だった時は、きっと「リア充はハルトと夜空でも見てろ〜!」なんてからかわれる。

怜は、ハルトでも百香でもどちらでもない。


怜だ。


あの冷たい態度に強がる視線。

そのものが怜だ。


優しさもハルトとは絶妙に違うし、からかい方も百香とは全くもって別。

人間だから、全てが同じなんてありえない。




いや、怜は人間なの?


もしかしたら幽霊だったりして・・・・・・。




ダメだ。
怜が人を怖がらせているのを想像出来ない。
出来るとしたら、何かを脅して怖がらせているような絵しか頭に出てこない。


「なんか李依、だんだん失礼になってきてるんですけど」


怜が睨んだ目はそれほど怖くなくて、静まりかえった住宅街に、私の笑う声が微かに響いた。