私は今、とても苦しんでいる・・・・・・。
塾の宿題が終わりそうにないのだ。
さっきからずっとシャーペンを手に持っているが、全然手は動いてくれない。
「塾の宿題か? そんなのやっててつまんねぇよ。 俺とどっか出かけようぜ」
「え!? 今それ言う!?」
怜が来てから、怜と一緒にどこかに出かける事が増えた。
いつもの。
といった感じで、もう恒例化していっているのは間違いない。
「・・・・・・次はどこに行きたいの」
私はしぶしぶ怜に聞いてみる。
「ちょっとな。 今から俺が言う所まで行ってくれ」
えっ!?
今から行くの!?
「りょ、りょーかい・・・・・・」
こうやって私が怜の頼みを断らないで行くのって、何回目だろう・・・・・・。
一番最初は別にいいか、なんて思っていたが、今ではめんどくさい話。
それをちゃんと聞いてやってるんだから少しはありがたみを持てっつーの。
「ん、もう一回言ってみろ」
「あーはいはい、すみませんでした・・・・・・」
私はもう何も持たずに、部屋を出た。
「あら李依、また出かけるの? 最近それ多いわね」
窓ガラスを布巾で拭いていた母親が、私を見て、少し怪訝そうな顔を向けた。
私はそれにお得意の愛想笑いで誤魔化す。
「行ってきます」
外に置いてあった私の自転車にまたがり、私は怜に言われた通りの道を走った。
「ねぇ、その人の苗字って、なんて言うの?」
一応発見しやすいように、怜に聞く。
すると怜は、困ったような表情をして、数秒間考えていたようだ。
「・・・・・・棚橋、洋子だ」
しっかりと名前まで、正確に答えてくれた。
苗字で迷うって事は、離婚しているかもしれないという事なのだろうか。
例えば、もうすぐ離婚するんじゃないかっていうくらい夫婦仲が悪いとか。
それとも、単に怜が忘れていただけ?
名前まで知っているという事は、怜の親戚や、何かしらの関係者と予想しておいた方が良さそうだ。
「はい、次右行って・・・・・・。 あっ、ここだ!」
怜が指を指したのは、六階建ての小さなマンションだった。
私は自転車から飛び降り、なるべく車からも道からも離れた場所に移動させた。
鍵を取り、怜に案内されながらもポストのあるエレベーターホールまでたどり着いた。
きっと、ポストの上に書かれてある名前の一覧を見れば、一発で分かるはずだ。
「棚橋・・・・・・棚橋・・・・・・」
指で一つずつなぞりながら一階から順に見ていく。
六階の一番端の人まで指はなぞっていったが、棚橋と書かれた表札はどこにもない。
「もしかして、やっぱり苗字変わってるのかも」
私が可能性を導き出すように言っても、怜は顔を曇らせた。
名前を見ていっても、そこには「洋子」の文字はない。
私はその文字を見て、ガッカリしている怜に声をかけられなかった。
「ねぇ怜、もしかしたら引っ越してるのかもしれないよ」
帰り道、行きよりもずっしりとした空気を後ろにまとわりつかせて私は怜に言った。
そうだよ、引っ越してるかもしれない。
そうすれば、何とかして調べたり出来るはずだ。
それでも怜は、表情を変えることなく、ずっと俯いているだけ。
「引っ越してたって、もうどこにいるかなんて分かんねぇだろ・・・・・・。 もう会える事はない」
久しぶりに口を開いたと思えば、なんとマイナスな発言。
「諦めるのはまだ早いって。 一度家に帰って調べてみるから」
さっきまで見えていなかった私の家の屋根が見えてきた。
私は乱雑に置いて、すぐに自分の部屋に向かう。
ベッドの上に放り出していたスマホを取り、突っ立ったままの状態で、ネットを開いた。
「棚橋洋子」
いくつもある情報を、スワイプして次々と下の方まで見ていく。
一文字違いの名前が、大量と言える数出てきた時、「棚橋洋子 京都在住 四十三歳」という、名前も、聞いていた年齢も、一致する。
「怜、この人じゃない!?」
鬼のような形相で怜を見た(脳内の中だけど)。
怜はその記事を読んで、納得したように首を縦に振った。
「あぁ、これだ。 もともと小説家だったんだ。 でも、きっと人気が落ちてんだろうな。 でも、俺はその小説好きだったんだけどな」
怜は懐かしい、というような弱い笑みを作った。
きっと、本当にその小説と小説家の人の事が好きだったのだろう。
私でいう、ハルトみたいな存在だったりして。
「この人、今京都に住んでるみたい。 さすがに明日は無理だから、明後日に行こう」
私は怜にそう呼びかけて、下で「ご飯出来たわよー、早く来なさーい」と叫んでいる母親のもとへと急いだ。
塾の宿題が終わりそうにないのだ。
さっきからずっとシャーペンを手に持っているが、全然手は動いてくれない。
「塾の宿題か? そんなのやっててつまんねぇよ。 俺とどっか出かけようぜ」
「え!? 今それ言う!?」
怜が来てから、怜と一緒にどこかに出かける事が増えた。
いつもの。
といった感じで、もう恒例化していっているのは間違いない。
「・・・・・・次はどこに行きたいの」
私はしぶしぶ怜に聞いてみる。
「ちょっとな。 今から俺が言う所まで行ってくれ」
えっ!?
今から行くの!?
「りょ、りょーかい・・・・・・」
こうやって私が怜の頼みを断らないで行くのって、何回目だろう・・・・・・。
一番最初は別にいいか、なんて思っていたが、今ではめんどくさい話。
それをちゃんと聞いてやってるんだから少しはありがたみを持てっつーの。
「ん、もう一回言ってみろ」
「あーはいはい、すみませんでした・・・・・・」
私はもう何も持たずに、部屋を出た。
「あら李依、また出かけるの? 最近それ多いわね」
窓ガラスを布巾で拭いていた母親が、私を見て、少し怪訝そうな顔を向けた。
私はそれにお得意の愛想笑いで誤魔化す。
「行ってきます」
外に置いてあった私の自転車にまたがり、私は怜に言われた通りの道を走った。
「ねぇ、その人の苗字って、なんて言うの?」
一応発見しやすいように、怜に聞く。
すると怜は、困ったような表情をして、数秒間考えていたようだ。
「・・・・・・棚橋、洋子だ」
しっかりと名前まで、正確に答えてくれた。
苗字で迷うって事は、離婚しているかもしれないという事なのだろうか。
例えば、もうすぐ離婚するんじゃないかっていうくらい夫婦仲が悪いとか。
それとも、単に怜が忘れていただけ?
名前まで知っているという事は、怜の親戚や、何かしらの関係者と予想しておいた方が良さそうだ。
「はい、次右行って・・・・・・。 あっ、ここだ!」
怜が指を指したのは、六階建ての小さなマンションだった。
私は自転車から飛び降り、なるべく車からも道からも離れた場所に移動させた。
鍵を取り、怜に案内されながらもポストのあるエレベーターホールまでたどり着いた。
きっと、ポストの上に書かれてある名前の一覧を見れば、一発で分かるはずだ。
「棚橋・・・・・・棚橋・・・・・・」
指で一つずつなぞりながら一階から順に見ていく。
六階の一番端の人まで指はなぞっていったが、棚橋と書かれた表札はどこにもない。
「もしかして、やっぱり苗字変わってるのかも」
私が可能性を導き出すように言っても、怜は顔を曇らせた。
名前を見ていっても、そこには「洋子」の文字はない。
私はその文字を見て、ガッカリしている怜に声をかけられなかった。
「ねぇ怜、もしかしたら引っ越してるのかもしれないよ」
帰り道、行きよりもずっしりとした空気を後ろにまとわりつかせて私は怜に言った。
そうだよ、引っ越してるかもしれない。
そうすれば、何とかして調べたり出来るはずだ。
それでも怜は、表情を変えることなく、ずっと俯いているだけ。
「引っ越してたって、もうどこにいるかなんて分かんねぇだろ・・・・・・。 もう会える事はない」
久しぶりに口を開いたと思えば、なんとマイナスな発言。
「諦めるのはまだ早いって。 一度家に帰って調べてみるから」
さっきまで見えていなかった私の家の屋根が見えてきた。
私は乱雑に置いて、すぐに自分の部屋に向かう。
ベッドの上に放り出していたスマホを取り、突っ立ったままの状態で、ネットを開いた。
「棚橋洋子」
いくつもある情報を、スワイプして次々と下の方まで見ていく。
一文字違いの名前が、大量と言える数出てきた時、「棚橋洋子 京都在住 四十三歳」という、名前も、聞いていた年齢も、一致する。
「怜、この人じゃない!?」
鬼のような形相で怜を見た(脳内の中だけど)。
怜はその記事を読んで、納得したように首を縦に振った。
「あぁ、これだ。 もともと小説家だったんだ。 でも、きっと人気が落ちてんだろうな。 でも、俺はその小説好きだったんだけどな」
怜は懐かしい、というような弱い笑みを作った。
きっと、本当にその小説と小説家の人の事が好きだったのだろう。
私でいう、ハルトみたいな存在だったりして。
「この人、今京都に住んでるみたい。 さすがに明日は無理だから、明後日に行こう」
私は怜にそう呼びかけて、下で「ご飯出来たわよー、早く来なさーい」と叫んでいる母親のもとへと急いだ。