"あの日"までは平穏な日々だった。兄貴が優等生の道を踏み外さなければ、俺も母さんも幸せで居られたかもしれないのに────……

「潤兄の彼女?」

「そうだよ、同じく高校一年の茜ちゃん。一緒に課題やるけど、お前もどう?」

「えー、いいよ。後から一人でやるから。とりあえず、ゲームやる!」

「お前は本当に小学生並の行動だな……」

潤兄は俺より一つ年上で、男だけの進学校に通っている。学校には男しか居ないくせに彼女が居てトップの成績を守り続けているなんて、不公平だ。

俺はと言えば……、潤兄とは雲泥の差がある。勉強なんて頑張らなくても入れる、適当に決めた私立高校に入学しようと思っている。中学生三年の高校受験の大事な時期だが、友達と遊んでばかりいる。当然、彼女も出来ない。

潤兄とは顔は似てると言われるけれど、頭の作りは幾分、違うようだ。

潤兄の彼女、茜ちゃんは度々遊びに来ている。聞く話によれば、茜ちゃんも進学校に通っているらしい。

茜ちゃんはふんわりとした印象の目が大きな可愛い女の子で、一目見た時から目が釘付けになった。自分の周りには居ない清楚で可愛い女の子。

茜ちゃんと話す時は変な緊張が走り、素の自分じゃ居られなくなる。女の子の前でこんなに緊張するだなんて、自分でも初めて知った。コレが恋だなんて決め付けたくなかったが、会う度に訪れる緊張感と胸の高鳴りから認めざるを得なかった。潤兄の彼女だから、心の奥底にしまったけれど……。