「運ぶ? 順番?」
 正体の知れぬ覆面の人物から、助けるから順番を決めろ。などと言われても、直ぐ
には反応出来ないのだろう。大人たちは逡巡した顔を見合わせる。
 お前たちー。何をやっているー。
 川の両岸から、レスキュー隊員の叫ぶ声が聞こえる。水量が増えたのか、残された
中州の面積がジワジワと少なくなっている。

「わたしが最初に行きます」小学校3・4年生と思しき女の子が一歩前に出る。
 ちょっと待て。本当に大丈夫なのか。リーダー格の大人が躊躇する。
「大丈夫です。僕達を信じてください」と陸くん。
 私は、女の子の前にしゃがむ。
「あなた、お名前は」
「マキ」
「マキちゃんね。じゃあ、このお兄さんに掴まっててくれる」
 陸くんが膝を折り、女の子を抱き抱える。
「マキちゃん。僕にしっかりと掴まって。怖かったら、目を瞑ってていいからね」
 女の子が、陸くんにヒシとしがみ付き、目を閉じる。
 陸くんが私に目で合図を送る。陸くんの後ろに回り、陸くんの腰に手を添える。
 飛ぶ。の掛け声とともに、三人の体が地上を離れる。
 1メートル程の高度を保ちつつ、川の上を慎重に移動する。ゴーゴーという流れの
音が恐ろしい。
 川を渡り切った。
 川岸にいるレスキュー隊員にマキちゃんを引き渡す。