「例えばどんな?」
「まず、僕達の正体は秘密にするんだよね。顔は覆面で隠すとして、救助現場に着く
までの間、どうやって姿を隠すの? まさか現場まで歩いて行くはずないから、空を
飛んでくんだよね。毎回、この辺から飛び立ったら、直ぐに居場所がバレちゃうよ」
「なるほど、それは問題よね」
「それに、救助が必要な人はどうやって僕達に連絡するの? 僕達の正体を誰も知ら
ないのに、連絡のしようがないよね」
「たしかに、連絡手段は考えないとね」
「それから、一番のネックは僕達が学生だって事さ。普段は学校があるから、活動が
出来るのは放課後か休日だけ。助けを求めてる人に、放課後まで待ってとか、学校が
休みになるまで待ってとか言うつもり?」
「…………………」

「それに……、」
「待って、待って。陸くんが、いろいろ心配するのは分かるけど、やる前から、出来
ない事ばかり考えてたら前に進まない。出来ない理由じゃなくて、やれる方法を考え
よう」
 陸くんが問題点ばかりを口にするので、思わず反論してしまった。
 ここで、陸くんと険悪になったらまずいな。
 陸くんの力添え無しには、ソラシド・レスキューは活動出来ない。

「……」陸くんが、無言で固まっている。
「あの、陸くん」と声をかける。
 陸くんはひきつった笑顔を作り
「分かった。天野さんの言う通り、やれる方法を考えよう」と言ってくれた。
 ありがとう。と私が手を取ると、陸くんは顔を赤らめた。
 陸くんは、その火照りを吹き飛ばすように顔を激しく震わせる。
 朱の色が漸く収まったころ、陸くんが口を開く。
「でも、一つだけ言わせて。実際に救助活動に行く前に、予行演習はやろうよ。練習
無しで救助活動なんて危ないよ。助ける方も、助けられる方も危険だ」
 陸くんの発案で、翌日から救助活動の予行演習をする事になった。

飛行訓練)
 まず、空を飛ぶこと。
 救助現場に急行するためには、歩いてなど行けないので、空を飛ぶことになる。
 練習場所は学校近くにある神社跡。小山の天辺にあり、木立に囲まれているので、
誰かに見られる心配はない。

 念動力で体を浮かせることは実験済みなので、その応用で二人して空を飛ぶ。
 問題は、私が超能力を強く正確に発動させるためには、私と陸くんが直接に触れて
いる必要があること。
 初めに、二人が横に並ぶ方法を試してみた。
 私と陸くんが横に並び、手を握る。
 空中に浮かぶイメージを思い描く。体が宙に浮く。
 次に、空中を泳ぐイメージを思い描く。体が地面に平行になる。
 顔を前方に向け、前進する自分の姿をイメージする。体が空中を移動する。
 飛ぶこと自体は、割と簡単に出来た。
 でも、横に並んで飛ぶ方法は、飛行のコース取りが難しい。陸くんの姿は、視界の
一部にしか見えないので、陸くん側の距離感が掴めない。調子にのって飛んでたら、
陸くんが木の茂みに突っ込んでしまった。
 次に二人が前後に並ぶ方法を試した。
 陸くんが前、私が後ろに立ち、私が陸くんの腰の辺りに手を添える。
 先ほどと同じ要領で、空中を飛んでみる。
 こちらの方が、断然飛びやすい。陸くんが視界の中にいるからコース取りし易い。
 何よりも、目の前に陸くんが居るおかげで、安心感が持てる。眼下に、遥か彼方の
地面が広がっていたら、高所恐怖症でなくても心臓が縮みあがった事だろう。
 このあと、私が前になる飛び方を試そうとしたんだけれど、陸くんが私の腰に手を
当てるのが恥ずかしくて出来ないと言うので、取りやめになった。
 陸くん、意外と純情だ。

救助訓練)
 続いては、実際に人を救助する訓練。
 陸くんやアッキーを助けた時は、念動力で遠くから車や人を動かした。
 だけど、良く考えれば、この方法はあまり宜しくない。
 動かしたい物の周囲の状況が見えていないからだ。
 助けるつもりが、より危険な状態にしてしまうかもしれない。
 一番良いのは、救助の対象者に近づき、直接その人を助けること。
 その点、陸くんと私が前後に並んで飛ぶ方法は都合がいい。
 私が超能力で陸くんを支えながら、陸くんに救助したい人を抱き上げて貰う。
 これで、確実にその人を運ぶ事が出来る。
 私達は、シーちゃんとアッキーを対象者に見立てて、予行演習を繰り返した。
 超能力での救助が無理なく出来るようになった頃、陸くんが意外なアイデアを提案
してきた。
 それは『バリア』。
 自分が透明で固い球体の中心に居るようなイメージを作る。
 すると、念動力がイメージした球体状に働き、近寄る物体が球体状の念動力で跳ね
返される。バリアがあれば、火の粉が降ったり、石礫が飛び交ったりする場所でも、
活動が可能になる。
「バリアなんて、どうやって考えたの?」と聞いたら。
「漫画で見た気がする」とのこと。
 流石、元中二病少年。あ、ゴメン。今の無し。

 バリアが使えるようになった所で、陸くんからまた新しい提案があった。
 それは、『ステルス飛行』。
 飛行中に自分の周囲にバリアを張り、その外側の空気を念動力で圧縮する。
 圧縮された空気は熱を出す。そうすることで光が屈折し、私達の姿が背景に隠れて
見えなくなる。蜃気楼や逃げ水と同じ理屈だ。
 地上では、私達の周りに陽炎が立っているように見えるだけだが、飛行中にやって
みると、飛んでいる姿が見えにくくなる。高速移動すれば尚更だ。
 ステルス飛行を使えば、私達の居場所が分かる危険を減らせるだろう。
「ステルス飛行なんて、どうやって考えたの?」と聞いたら。
「やっぱり、漫画に描いてあった」とのこと。
 流石、元中二病少年。(ry
ユニフォーム)
 予行演習を繰り返しているうちに、シーちゃんのユニフォームが仕上がって来た。
 私のユニフォームは、レオタード型。ボディがピンクで、腕と足、ブーツと手袋が
白。ピンクの短い巻きスカートがついている。胸には大きく赤いRの字。
 一瞬絶句。
「あの……、これ着るの?」
「うん。可愛いでしょ」
 て言うか……。
 シーちゃんの耳元に口を近づけ
「インナーの線が……見えちゃう気がするけど」と問うと
「大丈夫。専用のファンデーション用意したから」と平然と返された。

 インナーの件は、また考えるとして、もっと重要な点がある。
「あのぉ。これじゃ、顔が丸見えなんだけど……」
「だって、美幸は可愛いから、顔出しの方が良いよ。それに、美少女ヒロイン物は、
全員顔出ししてるのが普通だし」
「アニメと一緒にしないの! 正体は秘密にして活動する約束でしょ」
「ハイハイ。冗談です。顔を隠す物はちゃんと用意してあります」
 シーちゃんが、バックから濃い紫のハンチング帽を取り出した。帽子の前部には、
目の部分を隠す真っ赤なマスクが付いている。
 むむむ。ちょっとカッコいいかも。

 試しにハンチングとマスクを身に着けてみると、
「おぉー。すげぇー」「……可愛い……」と、感嘆の声が漏れる。
「まぁ、美幸は何を着ても、似合うからね」とシーちゃんが満足げに纏めてくれた。
 ところで、もう一方の陸くんのユニフォームなのだが……。
 レオタード型なのは同じ。ボディが青。腕と足は紺。ブーツと手袋が白。胸に濃い
青でRの文字。濃い緑のハンチング帽子に黒のマスク。
 私のユニフォームとお揃いなのだが、何故かジーンズ地の半ズボンが組合わされて
いる。
「何で、半ズボンが付いてるの。ヤダよ、こんなの」
 初めてユニフォームを見た陸くんの反応がこれだった。
 まぁ、分かる気はするけど……。

「だって、男子のレオタード姿って、生理的に嫌いなんだもん」
「どこが!?」
「……それは、その……、股間の……。って、そんなこと、女子に言わせないの!」
「じゃぁ、レオタードじゃないのにしてよ」
「美幸のレオタードに合わせてるんだから、これで良いの!」
「別に合わせなくても、いいじゃん」
「美幸の可愛さを引き出すためには、シンメトリになってるのが断然良い」
「なんで、可愛さ優先なのさ。もっと機能的な……」

 その後、暫くの間、シーちゃんと陸くんが小競り合いを続けていたのだが、結局、
シーちゃんお手製のユニフォームが採用される事になった。
 まぁ、シーちゃんを言い負かそうなんて、陸くんには無理だったろう。
緊急呼び出し)
 さて、ここからが私達にとっての一番の問題。
 どうやって、緊急時に私達を呼び出して貰うのか。
 正体が秘密なので、連絡先は公開できない。
 警察無線や消防無線を傍受しようという話も出たけれど、警察無線は暗号化されて
いるので傍受出来ないし、違法だ。そもそも、そんな連絡がされている事案ならば、
既に私達の出番はないというものだ。

 どうしようか?
 四人して散々考えていた処、アッキーから
「SNSで呼び出して貰ったら」
 とのアイデアが出た。
 どうやるかというと。
「最初は、TVニュースかなんかを見て出動するしかないけど、その時に助けた人に
ビラを渡して、僕達の事を公表して貰うんだ」
「ふんふん」
「そのビラに、『救助要請はSNSで#ソラシドレスキュー』と書いておく」
「なるほど、助けが必要な人は、SNSにそのハッシュタグ付きで状況を投稿すれば
良いのね」
「僕達はそれを見て行動を起こせば良い」

 なるほど、専用の通信手段を持たない私達には適した方法だ。
 興味本位や嘘の救助要請が発生する可能性もあるけど、そこは仕方がない。
 それと、私達は学生なので、全ての救助要請には応えられない。その事も、ビラに
書くことにした。
 私達の救助を当てにして、警察や消防への通報が遅れたら困るからだ。

 さて、これで準備は整った。
 そして、いよいよ、ソラシドレスキューが活動を始めることになる。
 準備万端整った。
 あとは、レスキュー活動の機会を待つだけ。
 とは言っても、救助される側にとっては災難だ。他人の不幸を待っているようで、
気が引ける。
 学生の身なので、ソラシドレスキューとして活動できるのは、放課後か休日だけ。
 それもあって、なかなかレスキュー活動の機会が得られぬまま、夏休みになった。

 夏休みなら、レスキュー活動できる時間が増える。
 期待に胸を膨らませて、毎日AI部に出勤する。
「AI部って、何をやってるの? そんなに忙しいとこなの?」
 連日登校する私を訝って、お母さんがこんな事を尋ねて来た。
「毎年テーマは変わるけど、今年は自分達でスマートスピーカーを作る計画なの」
 と答えると
「あぁ、そのAI……」
 と母は応じたが、果たして分かっているのか?
「シーちゃんやアッキーも一緒だから、心配しないで」
と言うと、安心してくれたようだ。
 ゴメンなさい、お母さん。今言ったのは、方便なんです。
 でも、私は疚しい事はしていません。人の役に立つことをしようとしてるんです。
 どうか、見守っていてください。
 そうこうする内に、私達がレスキュー活動をする時がやってきた。
 夏休みが始まって最初の日曜目。
 その日は、変わった天候の日だった。
 平野部では晴れているのに、山間部で未明にゲリラ豪雨が降った。
 夏休み最初の日曜日、しかも天気が良いとあって、親子ずれがこぞってレジャーへ
繰り出した。そこを、ゲリラ豪雨で増水した川の水が襲ったのだ。
 彼方此方で、増水した川の中洲に取り残される人々が続出した。
 
 TVのニュースが何か所かの現地映像を放映する。
 その中の一か所で、救助が進んでいない場所がある事が分かった。
 中州に取り残されているのは、課外学習にやって来たグループ。
 ボランティアの大人三人と子供七人。
 流れが速く、ボートの接近が出来ない。ロープを使っての救出も深みのため困難。
 近くに送電線があるため、ヘリでの救助も難しい。
 という状況だった。
 川の水かさは増え、取り残された中州の面積も見る間に減っていく。

「行こう。助けに」
 四人の意見は一致した。