去年のバレンタインデーの日。
俺はアパートの近くの公園へ行くと、ベンチで、彼女は俯いて座っていた。
彼女の膝には、リボンで結ばれた袋がある。バレンタインのチョコだろうか。
「どうしたの?」
俺が声をかけると、彼女は顔をあげ、悲しそうに笑った。
「ううん、なんでもない。振られたの、思い出してたの」
「振られた?」
振られた。おそらく、彼女には好きな人がいたんだろう。
「あ、ごめんなさい! 関係ないよね! かなり暗い話になるから」
彼女は立ち上がって、そのまま走って逃げていった。
「おい、何かあるなら言えって!」
俺の声は届かず彼女は、振り向きもせずアパートへと戻ってしまった。
彼女は忘れたのだろうか。
俺が、同じアパートに住んでいるということを。