翌日。
俺はいつもと変わりなく、大学へ行こうとアパートを出ると、彼女の姿があった。



「あっ……」



同じアパートのマンションに住んでいたのか。そういえば、彼女を見かけたことが数回ある。だから、あの時声をかけられた際は正直言って少し驚いた。



「お、おはよ……」



俺は、自分の顔が引きつっているのが、自分でも分かっていたにも関わらず、彼女に声をかけた。



「あ、おはようございます!」



彼女は、慌てて頭を下げた。



「あの、敬語じゃなくていいよ」



彼女は、ずっと敬語で話している。礼儀正しいとは思うが、俺はタメ口で話しているし、あまり敬語で話されるのは好きじゃない。



「え……?」



「敬語はいらないよ。俺だって、全然敬語じゃないし」



「あ、ありがとう。その、植松、くん」



彼女は、その時初めて俺の名前を呼んでくれた。