俺は大きな拍手に囲まれながら
会場を後にした。
あれから10年。
俺は白花病の研究をするために
薬品会社の研究員として働いている。
そしてその傍ら、
一架との出逢いを物語にして
小説として出版した。
梨央ちゃんと翔は結婚して
2児の父と母となっている。
一架が亡くなって葬儀が行われた日、
梨央ちゃんにも
一架からの手紙が渡され、
梨央ちゃんは真実を知った。
手紙を読んだ彼女は
「ホント…バカ…。」
そう言って泣きながら笑っていた。
なぁ、一架見てるか?
俺は研究員になって小説を書いた事。
梨央ちゃんと翔が幸せに暮らしてる事。
俺が勝手に小説にしたこと怒ってるか?
それとも、上手く書けてるって
褒めてくれるか?
…どっちにしろ
最後はあの真っ直ぐな瞳で
笑ってくれるんだろうな。
大きく息を吸って空を見上げると
頭の中に一架の笑顔が浮かんできた。
「…ふっ。」
思わず笑みを零した俺に
向かってくる小さな女の子。
「パパーーーっ!」
「架那(カナ)。迎えに来てくれたのか?」
「うん!!ママと一緒に!!
パパかっこよかったよーー!」
「そうか?ありがとう。」
抱き上げた架那が指差した方に見えるのは
優しく笑う俺の妻。
一架、俺、一架の願った通り
あったかい家族を作ってるよ。
俺は人のぬくもりなんて
一架がいなければ
一生知ることはなかったと思う。
一架と過ごした180日が俺を変えてくれた。
…ありがとう。本当に。
でも、1つ、叶えられない願いがある。
それは、一年に一回お前を思い出す事。
俺は、毎日一架と過ごした日々を
思い出すから。
これだけ、叶えてやれなかった事は許してほしい。
ってか許せ。
一架と過ごした日々は
俺にとっても宝物なんだから。
一架、もしいつかまた会えたなら
その時にちゃんと伝えるよ。
”俺は君と出逢えて本当に幸せです”
*fin*
応募部門【フリーテーマ】
~あらすじ~
中学生の時に”白花(ハッカ)病”という
珍しい病気にかかってしまった主人公の一架。
一架はその時にあと3、4年しか生きられないと
宣告されるも、高校を卒業する
という目標を胸に毎日を過ごしていた。
そんな高校2年生の夏、検査に行った病院の屋上で
冷たい目をした修也という同い年の男の子と出逢う。
一架は修也をほっとけなくて
なんとか彼を助けようと修也に付き纏っていた。
そんな一架を面倒くさいと思っていた修也は
偶然一架が病気であと少しの命だと知ってしまう。
それを知った修也は一架の
”願いを叶えて”という提案に乗り、
2人は一架の願いを叶えるために日々を過ごしていく。
そんな中で、家庭の事情で心を閉ざしていた修也が
病気に負けず、明るく真っ直ぐな一架に心を動かされ
段々と一架に惹かれていく。
しかし、一架の病気は2人の未来を
容赦なく邪魔していき…。
普通なら出逢う事のなかった他校生の
2人が迎える結末とは…?