キミと過ごした180日間



「な、なんで…。」


「なんではこっちのセリフだろ。
何回かけても出ねーし。
どんだけ探させる気だよ。
今度のお前のお願いはかくれんぼかっての。」


はぁ、とため息をつきながらも
ゆっくり階段を登ってきて
私の横に腰を下ろした。


「なんでこんなとこにいんだよ。
俺と回るの、そんなに嫌だった?」


「違うっ!」


「じゃあなんで?」


それは…


好きだと自覚して
恥ずかしくて会えなかったなんて
言えるわけない…。


ずっと口を開かない私に嫌気が差したのか
急に修也は立ち上がった。


「え…。」


怒ってる…?


そう思ったのも束の間。


「言いたくなきゃ言わなくていいよ。
でも、せっかくの文化祭だろ。
楽しまなくてどうすんの?」




優しい声で、
ん、と手を差し出してくれた。


…なんかわかんないけど泣きそうだ。


「…修也は、私の願いを叶えてくれるんだよね?」


突然の質問によく分からないと言った表情を
浮かべていたけど、『うん』と答えてくれた。




「私は、修也の傍にいてもいいの?」


好きになってしまったけど…。


口に出してから
何を言ってるんだろうと思ったけど、
修也はごく普通の顔で言った。


「当たり前じゃね?
じゃなきゃ、願い叶えてやれないし。
ってか、むしろ傍にいろよ。」


まさかそんな答えが返ってくるとは思わなくて
すごく嬉しかった。





…この気持ちは墓場まで持って行くから
それまで、修也の傍にいる事をどうか許して。




「お願い、3つ目。」


「なに?」


「文化祭、一緒に回ってくれる?」


「…もちろん。」


笑顔の修也は私の手を取り
立ち上がらせてくれた。


「行くぞ。一架。」


「…うん!」



温かい。
修也はいつだって温かい。


手も、心も、全部が。


この温もりが私を安心させてくれるの。




この時感じた温かさを
私はきっと、ううん、絶対
一生忘れない。










楽しかった文化祭も終わり、
季節は秋となった。


結局私達のクラスは優勝できず、
みんな残念がっていたけど、
それでも笑顔で終われたからよかったと思う。


そして、宣言通り、
文化祭で梨央は山内君と付き合うことになり
いまはとってもラブラブ。


2人で修也たちの文化祭にも行って
すごくいい思い出が出来た。


まぁ、女子の視線が痛すぎたけど…。


それでも、なんとか平和に暮らしている今日この頃。


そんな今日は定期健診の日です。



「せーんせ!こんにちは!」


「一架ちゃん、こんにちは。」


見慣れた水野先生は
少し困った笑みを浮かべていた。


「一架ちゃんあのね、」
「なんか悪い所でもあった?」




黙ってしまったのは肯定を意味する。


「もう、慣れてるから言って?」


「…実はね、転移が見られたんだ。
でも、まだ初期だから今回はレーザーで
何とかなると思う。
そのために1週間入院してもらおうと思ってる。」


…入院。


「そっかぁ、それじゃあしょうがないね!
文化祭も終わったし、ちょうどよかった!
いつから入院になるの?」


「なるべく早い方がいいから
来週とかには来てもらいたい。」


「来週ね…。了解!
お母さんに言っとくね!
今日はもう帰っても大丈夫?」


「あぁ、気を付けて帰ってね。」


「はーい!バイバイ!」


義務的な会話をして診察室を後にした。






転移…か。


考えてなかった訳じゃないけど
やっぱり実際宣告されると
きついな…。


でも、修学旅行には
行けるように頑張らないとね!


「…よし。」


気合で病気なんて吹っ飛ばそう。




今日は久しぶりに
病院の屋上でノートを書いてから
家へと帰った。










【修也Side】


文化祭が終わって一週間。


「おはよ、修也。」


「翔、はよ。」


翔は一架の友達の梨央ちゃんと付き合い始めて
毎日浮かれて携帯の画面を見ては
ニヤニヤしている。


そして今も…


いつものようにニヤニヤ
しているかと思えばなんだか険しい顔。


「翔?」


「…一架ちゃん、盲腸で入院だって?
大したことないといいな。」


…は?


俺は翔の言葉に耳を疑った。


「え、まさか一架ちゃんから
聞いてないのか…?
今、梨央が今日から入院だって
メッセージが…」


「おーい、HR始めるぞ~。」


翔が全てを言い終わる前に、
担任が教室に入って来たと同時に
俺は教室を飛び出した。

アイツ…



「おい!修也!?」
「榊!HRだぞ!」


翔と担任のそんな声は
今の俺には届いていなかった。



そんなに遠くはない病院へ走り、
一架と仲がいいと言っていた
ナースを見つけて声を掛けた。


「…っあの、一架が、
入院したって聞いて…。」


「あ、修也君。
やっぱり一架ちゃん言ってなかったのね。
病室は304よ。
まだ検査始まる前だから行ってあげて。」


「…ありがとうございます。」


走りたい気持ちを抑え、
早歩きで教えてもらった病室まで行き
勢いよく病室のドアを開けた。


「一架。」


この病室には一架以外いない事は
入る前に確認済み。


右奥のベットに背もたれに寄りかかり
起きている一架に近づいた。


「あれ、修也。どうしたの?」


めちゃくちゃ心配したってのに
当の本人はあっけらかんと
いつも通りの笑みを浮かべている。




「どうしたの?じゃねーよ。
入院したって聞いてまじで焦った…。
盲腸なんて嘘だろ?
…入院するほど悪いのか?」


一架は、先週会った時よりも
顔色が悪かった。


なのに…


「…ぷっ。
なーに言ってんの?
ってゆーか眉間に皺寄り過ぎ。
こわーい顔になってるよ?」


と、自分の眉間を指差してケラケラと笑った。


「俺は真面目に…っ!」


「大丈夫、大丈夫だから。
心配しないで?
今回はただの検査入院。
よくあるんだよ。
未知の病気だから
こうして時々入院して色々調べてもらうの。
で、新薬の研究とかにも役立てるってわけよ。」


笑顔でそう述べる一架が
嘘をついているのはすぐに分かった。


「…なんで。」


「ん?」


「…なんで笑ってんの?」


「…え?」