キミと過ごした180日間



楽しかった週末が終わり、
今日からまた学校が始まる。


土曜日、日が暮れるまで楽しんだ私達は
遅くなったからと言って
修也が家まで送ってくれた。



「今日はありがとう!
すっごく楽しかった!」


「まぁ、俺もちょっとは楽しかった。」


「えー、ちょっと?」


「いや、だいぶかな。」


「でしょ?私と一緒だったか…」
「調子乗んな。」


冗談を言い切る前に
バサッと切り捨てるところは
修也らしい。



「じゃ、俺帰るから。」


「あ、ちょっと待ってて!」


背を向けて帰ろうとする修也を呼び止めた。


今日、ずっと渡せなかったから。


私は家の中へ戻り、
冷蔵庫に入ったパンナコッタと
保冷バックに入っていたものを
取り替えた。


…さすがに一日中持ってたのは
まずいかと思って。




バタバタと急いで玄関まで戻り、
修也に紙袋を手渡した。


「これ、渡そうと思ってたの。
甘いもの好きかどうか
分からないけどよかったら。」


修也は不思議そうに
紙袋の中を覗いた。


「クッキー?…と」


「パンナコッタ!牛乳を
ゼラチンで固めただけなんだけど。
甘いもの、食べれる?」


見た目からして
甘いものは苦手な感じするけど
ダメもとで聞いてみた。


すると意外な反応。


「…めっちゃ好き。」


どうやら好物だったみたい。


「それはよかった。
朝作ったんだ、それ。」


修也が甘いもの好きなんて意外だった。
でも、そのギャップがなんだか
可愛くみえてしまった。


「作ったの?スゲーな。」


「一応趣味なの。」




「へぇ、案外女子力あるんだ。」


「これでも女子なんで!」


また小ばかにする言い方に
あっかんべーっと舌を出して見せると


「あ、美味いなこれ。」


いつの間にか袋から取り出していたのか
スノーボールを口に運んでいた。


そして美味いと言ってくれた事が
なんだかいつも以上に嬉しくて
頬がにやけてしまった。

しかも目の前で食べてくれるなんて
思ってなかったし。


修也の行動には
驚かされてばかり。


それに、女の子が喜ぶことを
絶対に分かってる。






―――ズキ


なんて考えたら
何故か胸が少しだけ痛んだ。


この痛みの正体は分からないけど、
美味しいと言ってくれてよかった。




なんて嬉しい気持ちと
モヤモヤ?したような気持ちの
両方を持ったままバイバイして
日曜日をはさみ、今に至る。


学校は夏休みをあと2週間後迎えるとあって
その話題で持ちきりだ。


朝のHR後。


「おーい!みんな集まれー!
夏休み、全員で集まって
海行こうぜーー!」


クラスのムードメーカー、
五十嵐くんが教壇に立って
予定を聞く紙を掲げていた。


「おー!いいなー!」
「私いつでもいいよー!」
「俺もー!」


うちのクラスは中々
仲がいいと思う。
春はみんなでお花見をしたし、
GWにも行ける人で
水族館にも行った。


だから夏休みも
イベントがあるとは思ってたけど
やっぱり海か…。




「ね!一架!
やっぱり昨日水着買うべきだったよ!!」


うん、絶対言われると思った。


昨日、梨央と約束通り
買い物に行ったんだけど、
私は頑なに水着を買わなかった。


買ったところで着れないしね。


だから、梨央も渋々諦めてたんだけど…


「クラスのイベントだし、
参加しようよ!!」


「でも…。」


クラスのみんなは
めちゃくちゃ盛り上がってる。


それを私のせいで
変な空気にしたくはないけど…


「な!桜井と足立も行くだろ?」


教壇に立っていた五十嵐君が
いつの間にか私達の机の前にやってきて
誘ってくれている。


「ねー、一架行こうよ~~~。
お願い!!ね?」


じーっと可愛い梨央に見つめられ


「…分かった。」


その視線に負けた。


「やったぁ!!
じゃあ今日にでも買い物行こうよ!!」




「うん、分かった。」


まぁ、水着着ても
海に入らなきゃいいし
ずっとパーカー着てれば
大丈夫だよね…?


「おーし!じゃあ全員参加で決まり!
日にちはみんなどこでもいいって言うから
夏休み最初の週の水曜日でいい?」


「おっけー!」
「りょうかーい!」


五十嵐君にみんなが返事をして
全員参加の海計画が決定した。



***



計画の日から2週間とちょっと。
無事テストも終わり、
夏休みへと入った。


その間に一回検診があったけど
思ったよりも病状は進んでいなかった。


先生は『一架ちゃんが楽しんだり
何かやりがいを見つけたりすると
人間の生命力って言うのは
延びるものなんだよ。』
と言っていた。


それを聞いて、
私の寿命を延ばしてくれているのは
何だろうと考えた時、
一番に修也の顔が浮かんできた。




…ってなんで修也!?
となんだか恥ずかしくなって
すぐにその顔はかき消したけど…。


もちろん、私の生きる希望は
他にもある。
お母さんにお父さん、それに梨央。


もっとずっと長くみんなと
笑顔で過ごしたい。


それは病気が分かってから
変わらない想い。


そこに、修也との生活が加わって
より生きる希望が大きくなったのかもしれない。


そう自分に言い聞かせておくことにした。





そんなこんなでやってきた
海計画当日。


駅でみんなで待ち合わせて
電車で行くことになった。


でも、荷物を用意してくれる
数人は誰かの親が送ってくれるって事で
現地集合だ。


約束の駅へ着くと
そこにはもう半分のクラスメイト達が
集まっていた。




「あ!一架!遅い~!」


わざとらしくむくれる梨央に
ごめんごめんと軽く謝り
他のクラスメイト達が来るのを待った。


「ね、水着着てきた?」


「うん、着て来たよ。
向こうで着替えるの面倒くさいと思って。」


「だよねー!私も!
ってか楽しみすぎるーーー!!」


テンションが上がりまくる梨央に対して
私は複雑な気分。


何とか梨央に怪しまれないように
パーカーを死守しなくては。
と心に決め電車に乗り込んだ。



***



「「「ついたーーーーー!!!」」」



電車を降り、しばらく歩きやってきた海。
みんなのテンションは
最高潮に達していた。


「おーーい!こっちこっちーー!」


先に来ていた数人のクラスメイトが
既にパラソルを立てて
荷物が置けるように準備してくれていた。




「おーー、田中達
さんきゅーなー!」


五十嵐君に続きみんなもお礼をして
「じゃあ、着替えてないやつは着替えて
集合な!」という五十嵐君の指示で
各自荷物整理や着替えを始めた。


私と梨央は着替える必要がないから
日焼け止めを塗ろうと
取出している時


「よ!今日は桜井、今日は楽しもうな!」


「五十嵐君!そうだね。」


五十嵐君が声を掛けてくれた。


彼は既に海に入る気満々で
海パン姿で頭にはゴーグルを装着していた。


「ちょっと五十嵐ー!
私もいるんだけど、一架だけに
挨拶してんの~?」


拗ねた梨央がそう言えば
五十嵐君は焦ったように


「な…っ!足立にも言ってるぞ!?
楽しもうな!!」


そう返していた。


それを見て何故か梨央はニヤニヤ。