そこには一言だけのメッセージ。


『ありがとう』


イチからだった。

より一層高まる胸の音。

イチが、私にメッセージをくれた。それは私の呟いた言葉が、イチに向けたものだと分かってくれた証拠。伝わった、証拠。

震える手が自然と口元へといく。誰なのか、どんな人なのかも分からない私の言葉に、彼は反応してくれた。

『ありがとう』たった一言だったけど。私の呟きが悩む彼を少しでも救えたのなら、こんな嬉しいことはない。

顔すら分からない彼だけど、同じように悩みを抱えていて、もがき頑張っている様子は私の心も苦しくする。そして、私に少しの勇気をくれる。

そんな彼が私にメッセージをくれた。それもきっと勇気がいることだっただろう。

私は、彼に何を伝えればいい?

髪を乾かし終わり、部屋の電気を消すと、タブレットの明かりだけがぼんやりと暗い部屋を照らす。

自分に、素直に。

彼が私に感謝の気持ちを送ってくれた。それだけで、私の胸の淀みは流されていくように感じた。


『こちらこそ、ありがとう』


ありきたり過ぎたかな、そう思ったけど。もっと今の彼に言ってあげられる言葉もたくさんあっただろう。
でも。

『ありがとう』

私も今彼に1番伝えたい、届けたいのは感謝の気持ちだった。

私だって、イチの言葉に助けられた。

もう震えていない指で送信ボタンを押す。誰か個人宛にメッセージを送るのは初めてだ。

今日は心が忙しい。

嫌な気分ではないけれど。フワフワした気持ちも、ドキドキした気持ちも。私の心が生きている証。

深く深呼吸をしてタブレットを閉じると、部屋は暗闇に包まれる。

自分の気持ちも、こんな風に簡単に電源を切るように切り替えられたらいいのに。

お気に入りのタオルケットを抱きしめると、まだ胸の音が聞こえた。