「Many people know about the Great Pyramids of Egypt and the circle of stones called ……」

ダメだ、一度引っかかってしまうと後が続かない。仕方がない、素直に、暗記できるまで練習するか。

ハチマキを締めなおすように、ほどけた気持ちを結び直す。

タブレットの電源を切ろうとしたところで、SNSアプリに新しい通知があることに気づく。

誰かが新しい投稿でもしたのだろうか。

何気なく開くとそこにはさっき投稿したばかりの呟きにいいねが一件押されていることを示していた。俺のしょうもない呟きに反応があることは珍しい。

それは、ナナからのいいねだった。押さえ込んでいた熱い気持ちを一瞬忘れ、心臓がピクンと跳ねるのを感じた。

きっと昨日、俺がナナの投稿にいいねを押したから、ただのお返しだ。それは分かっていたが、それでも、俺なんかを気に留めてくれただけでも嬉しかった。

そんなナナも、新しい呟きを投稿している。

『人の気持ちは上書きされて、暖かくなるのかもしれない』

気持ちの……上書き?

上書きって……そんなことできるのだろうか?

本当の気持ちを押さえて周りに合わせたり、自分をごまかしているうちに本当の気持ちは心の奥に追いやられる。それを上書き、と言うならば。

それはきっと周囲の理解だったり、ストレス解消のための何かだったり。そんなことで気持ちのささくれは上辺だけでも治るだろう。

気持ちは上書きされて、暖かくなる。

「確かにな……」

ふっと力が抜けたように息が漏れる。気負いすぎていた俺の心にスッと入ってくるようなメッセージ。

完ぺきなんて求めなくていい。俺は俺らしくあればいい。それが難しいことは分かっているけれど。

それでも、居座り続けていたくすぶりはため息と共に宙に浮き、窓から入ってくる夜風に吹かれどこかへ消えていった。

ありがとう、の意味を込めて。

ナナの呟きにいいねを押す。