くだらない投稿が数件。その中にはナナの久しぶりの投稿もあった。

『欠けている私の心 月と同じ 』

それはほんの1時間ほど前に投稿されたものだった。

欠けている、心……?

タブレットを持ったまま、グレーのカーテンを開けて窓から外を覗いても月は見えなかった。

窓を開けると湿気のこもった空気が顔にまとわりついてくる。かまわず首を左に回し空を見上げると、
そこには小さく輝く半月。

まるで自分の分身を無くしたように佇むその姿はナナの言う欠けた心そのものだった。

しばらくその悲しげな月を見つめる。


もしかして……もしかしてナナは、虹なんじゃないか……。


そんな考えが頭に浮かんでくる。

そう考えればしっくりとくる。

虹の親友の米村さんが亡くなったのはちょうど一か月前。その時からナナの投稿がピタリとなくなった。そして、親友を失って欠けた心。月命日の夜。彼女の心に僅かな変化があってもおかしくはない。

ナナの今までの投稿やメッセージから感じていたナナのイメージ。そして現実世界で接している虹。改めて考えてみれば、2人の重なる部分は多い。

俺は今まで、虹とやり取りをしていたのか?

そんな偶然、あるのか?

まだ開けたままの窓から入ってくる生暖かい風を吸い込む。

虹だからナナ。七色の、ナナ。

ああ、そうだったのか。

知らなくてもいいことを知ってしまったようで、1人気まずい複雑な気分になる。

この欠けた月を、俺と同じように窓から眺めていたのは虹なのかもしれない。

もう一度顔を左に回して欠けている月を眺めてから、窓を静かに閉める。